裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

金曜日

エシュロンおばさん

 あのおばさん、町内の情報ならなんでも知ってるんだよ。朝6時半起床、入浴、ミ クシィ。やっと雨。別に待っていたわけではないが、7日の日に「もう今月で晴れるのは今日までですよ」  と言われていて、覚悟していたら翌8日が夏のような快晴、9日がさわやかな晴れで、ちょっと拍子抜けであった。

 朝食、マンゴーとブロッコリスープ。講演依頼、某証券会社から直に。アメリカ資 本、というよりユダヤ資本で超有名なところ。
「機知に富んだお話を」
 などと言ってくる。株をやってる知り合いに聞いたらやたら儲かっている会社だからふっかけろ、と。とりあえず“××と言ってみて”とマネに回す。

 11時出勤、ついてすぐメシ。黒豆納豆、茄子ツケモノ、アサリ汁。それから原稿にかかり、『Memo男の部屋』原稿6枚、『FRIDAY』四コマネタ。鶴岡から電話、東大講演うまく言ったとのこと。マンガ評における技術論と状況論のせめぎあいのこと。もともとこれらは密接につながった車の両輪のはずなのだが技術論派の、状況論派に対する最近のケンカ越しの態度はいかがなものか、と。もっともこれはマンガに限らぬようで、『アニメ夜話』などでも私が状況論の方に話を持っていくと必 ずネットに
「これは単なる自慢話だ」
 と、怒り狂った書き込みをする人とかがいる。

 状況論というものにはどうしても“生でそのときの様子を体験しているもの勝ち”的なところがある。先に生まれたというだけで優位に立っているわけだ。歴史を学ぶというのは基本的にそういうことの順送りなわけなのだが、技術論派に与する人には周囲(時代)と群れぬことをとアイデンティティの根幹とするタイプが多く、そのプライドに照らして、生得の優位性を他者が有していることが耐えられない、権利は平 等にしろ、とダダをこねているように見えるのである。

 2時、時間割にて三才ブックス『ラジオライフ』新連載打ち合わせ。囲みコラム程度のものと思っていたら4pくれる大きなもの。内容は、ちょうど週プレとアサ芸の連載を合わせたような内容のもの(?)。意外とアサ芸のあのコラム、読んでくれて いる人が業界に多いことに勢いづけられる。そう言えば幻冬舎のNくんなども
「唐沢さんが連載初めてくれたおかげで社であの雑誌を堂々と読むことが出来るようになりました」
 とか言っていたな。担当のTさんと、三才と私のつなぎになってくれているSさんと雑談。トンデモ本大賞のことなど。Sさんは以前より痩せて庵野秀明似になった。

 帰宅、朝日新聞ベストセラー快読ゲラチェック。FRIDAY、コラム原稿書き上げてメール、その合間に某氏にマイミク申請出したり。ほぼトンボ返りでまた時間割に行き、日テレ『世界一受けたい授業』打ち合わせ。夏休みスペシャルなので夏にちなんだ雑学か、またはこないだの世界地図ネタが大変評判よかったのであれの日本版をやるか、などなど。地理ネタなら出来れば現地でビデオなど録りたいですねえ、と 話す。今回はムリにしても。

 打ち合わせ終わりまた帰宅、ダ・ヴィンチ『幽』原稿。6時までに書き上げるはずが7時になる。ほぼ1時間遅れで秋葉原『ローズ&クラウン』。乗ったタクシーの、60代と思われる、二村定一にちょっと似た(ったってワカンナイか)運転手、爺さんながら、ちょっとした距離を急いでくれというこっちの注文に、喜ぶまいことか。ずーっと走っている間じゅう、解説し続け。
「あの前の車、見てください、千葉ナンバーですね。と、いうことはここらの道、走りなれていない。次の信号のところ、曲がるときにとまどいます。ネ、ほら。一瞬止まったでしょ。ここであの後をついていってたら信号ひとつ待たなきゃいけなかったンだ。ア、前のプロパンつんだ軽トラ、もう今日は仕事終わって帰るだけだから急がない。だから車線変更とかあまりしないはずです。ああいうのにもあまり近づかない方がいい。ア、マンガなんか読みながら運転している。遠からず事故りますよ。近くにいた車が災難だが、アタシに言わせりゃあんなのの近くに寄る方が不注意だナ。
 おや、前のタクシー、新人ですな。カーナビ使ってるのが見えますでしょ。だとすると、ここらではあまり飛ばさない。ここの道路はこないだアスファルト張り替えたばかりでくいつきがいい。今日みたいな雨の日でもブレーキが案外利くから、知っている運転手は横断歩道間際まで、案外スピード出します。ああいうのはすぐ追い越せ る。アタシと一緒に走って、かなうもンじゃアない」

 そのシャーロック・ホームズの生まれ変わりかと思える推理に感心、タクシーというものがここまで周囲の状況を観察して考えて走っているとはツユしらず。
「まるでラリーみたいですね」
 と感想を述べたが、確かに普段、晴れた昼間に乗ったときよりやや早く目的地に到着した。自慢するだけのことはあり、か。

 一時間遅れでトンデモ本大賞スタッフ慰労会&反省会。開田夫妻、K子、しら〜、IPPAN、I矢、植木、皆神、FKJ、高橋、K川、H川、S井夫妻の面々。ワイワイやりながらも、IPPANさん、I矢くんの間で、シビアな“こうすれば”“い や、それは違う”というような運営の方針についてのやりとり。

 一番の話題となった客席の悪臭対策、次回開催日時の件、ゲストの件、会場の件、予算の件。私の人選で、次回大会は司会を談之助さんとあやさんに、構成台本を植木不等式さんにまかすことを提案。で、その台本のコンテを(!)K子が作成。コミケ で売ろう、と。 私は出来ればワンコーナー持たせてもらって、またマッドハッターのコスプレでお茶の会でもやりますか。とにかく、大会はエキシビジョンである、ということを忘れてはいけないと思う。マニアックなと学会世界と一般社会との、一年一度の接点なのだ。一般人をと学会例会に連れてきたときの“つらさ”、周囲がみんな大笑いしているのに自分はなんでみんなが笑っているのかピクリともわからない、という状況が4時間続くことだけは避けねばならない。濃い人たちが満足できるような、こじんまり とした会はまた別個に企画すればいいだけのことである。『ローズ&クラウン』で食い足りないという面々10人で、揃って幡ヶ谷チャイナハウス。私とIPPANさん、FKJさん、K子はちょっと遅れて出たのだが、アキバ から幡ヶ谷まで、みんなで乗り合わせたタクシーの運転手(40代末か)、
「いつもは一回のお客さんに一本なんだけど」
 と、全員にペットボトルのお茶のサービスつき。
「お客さんとの一期一会の出会いを大事にしたい」
 と。こちらも話好きでいろいろと。最近、こういうユニークなタクシーによく乗り合わせる。

 チャイナの料理、紹興酒に鹿肉ナッツ揚げ、菜と干し貝柱炒めなど。ここでも運営ばなし。ちょっと企画のことなども話して反応を見る。さんざ鬱を散じて11時半、解散。雨の中K子とタクシーで。12時帰宅、メールのみチェックして就寝。体力残 量ゼロ。

 

Copyright 2006 Shunichi Karasawa