裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

30日

土曜日

マクナマラまかせてみしょうホトトギス

 国防長官、ベトナム問題は君にまかせた(ケネディ)。朝5時起き。夢の中で、コント55号が昭和40年代に吹き込んだコメディソングのレコードを手に入れ、これを聞く。“AU買った、AU買った”と歌詞にある。AUとは何か、夢の中では意味がわかっていたが、目が覚めたとたん忘れた。メロディーはこの日記を書いている今も思い出して口づさめる。8時、朝食。キノコスープ。

 光文社から『ホラーマンガの逆襲・みみずの巻』の見本刷りが届く。今回はみうらじゅん氏に解説をお願いしている。以前、ラジオの“やる気マンマン”で、“みうらさんは唐沢俊一さんとはどういうご関係ですか”“はい、こないだ首を絞めてやりました”というやりとりがあって、それに大笑いして依頼したものである。中野小劇場の宇津木さんはじめ、数名の方からメールにて快楽亭の『ケンペー居酒屋』のオチ、ご教授。ありがとうございます。“酸化することに意義がある”でしたそうでした。

 親父が10月に半身不随のまま、いまだ会長を務める漢方団体の総会に出席するため上京するという予定を母が立て、すでに飛行機もホテルの予約もすませているのだが、会の役員がいよいよとなってちょっとビビり、出席には及ばず、と言ってきたそうである。確かに役員にとっては、それがもとで容態が急変し万が一、とでもいうことになれば責任を問われかねない、という思いもあるだろう。会員中からも、あのような状態の会長を引っ張り出すとは、という非難の声があがるかもしれない。だが、親父は今回の総会出席を最後に、会長を辞任する(倒れてすぐ申し出たのだが、逆に留任を求められた)意志を伝えているのである。と、なれば、今回親父が出席しないということになれば、病床で辞任受諾の通知を受け取るだけ、ということになる。それは、長年この団体に尽くしてきた親父があまりにかわいそうではないか。親父はその総会への出席だけを楽しみに、リハビリにはげんでいるのである。例え脳梗塞で飛行機に乗ることが危険であっても、それはもう69の人間にとっては自己責任であろう。人間にとって、花道を飾るということの大事さは何より大きいと思う。これは、私が潮健児の出版記念パーティを開いたとき、痛感したことだ。あのパーティ出席の24時間後、潮さんは急逝した。だが、もしこれに出席しないで病院のベッドの中にいて、もう数カ月の余命を保つことと、出版記念パーティ出席の24時間後にこの世を去ることのどちらが潮さんにとって幸福だったか。あのとき、潮さんの主治医の先生は私に向かい、“出席すれば死ぬかもしれません、それでも出ますか? と益戸さん(潮健児の本名)に訊いたら、それでも出たいです、と答えました。もうこれ以上は医者の口出しすることではありません”と言ってくれた。名医の言であると思う。母は、例え総会が出席を拒否しても、会場にだけでもパパを連れていく、と言っている。私も同感。ただ命をながらえているだけの人生ほど苦痛なものはない。いざ連れていきさえすれば、まさか役員連も、入口で阻止するということもしないだろう。

 昼飯は抜くことにして、風呂上がり、白石大二『日本語発想辞典』(東京堂出版・1972)拾い読む。慣用語から見た、日本語におけるイメージの構成を辞典形式に分類したものだが、“犬がきらいだ”“ここをあけよ”“子供を落とす”“箱にいっぱいある”などという、単刀直入というかそのまんまやん、というかのコトバまで記載、説明してあるのが、何かフシギである。別に日本語に不自由なわけでも、言語中枢に異常があるわけでもない身として、
「犬がきらいだ:犬がいとわしい。犬がいやだ。犬が心に合わない。犬を喜ばない。犬を好まない」
「(こどもを)落とす:おんぶしたりしているこどもをつい下に落とす」
 などと説明されている状況というのは、いっそシュールですらある。読んでいるうちにウトウト。

 そのまま、6時まで寝る。これはもはや昼寝とかいうものではない。まあ、体が休息を求めているのだろうと思って、そのまま寝続ける。実家から送られた漢方薬が効いているのかもしれない。チャイムが鳴ったのでインタホンに寝惚け声で出てみると“置きグスリのセールスですが”と言う。眠かったので断るが、まだいるんだなあ。おとくい回りの途中でちょっと寄らせていただいたんですが、などと言っていたが、ひょっとして、私の名前を表札で見て、あ、クスリのこといつも書いている奴だ、とか思い、チャイム鳴らしたのかもしれない。だとしたら、いろいろ話を聞けるところだったのに惜しいことをした、と思う。

 7時に起き出し、少し仕事。8時半、すがわらで寿司。ここの主人と馴染だということをやたら自慢するおっさん(広告スタジオかなんかの社長らしい)が社員数人を連れてきている。ポン酢を頼んで、“ここは本物のポンカンを使っているの?”などと通ぶって訊ね、わきの女の子に、“正式のポン酢はポンカンの汁を使って作るんだよ。ポンカンというのはパサパサしていて、汁をこういう醤油に垂らすくらいしか使えないミカン類なんだ”などと説明している。ポンカンの説明もデタラメなら(ポンカンは甘くておいしい)、ポン酢の語源についても間違ってる。あれはオランダ語のポンス(柑橘類)から来たもので、ポン酢は当て字。ダイダイやスダチの汁を使うのが一般的である。ただし、こういう知ったかぶりオジサンというのは嫌いではない。やってますな、という感じ。ヒラメ、アナキュウ、エビ、イワシ造りなど。エビは茹でたの。甘エビが切れていたのは残念。

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