裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

2日

土曜日

うちのレノンに傷をつける気か!

 ジュリアン、そこにお座り! 朝8時起き。朝食、昨日と同じメニュー。午前中にダ・ヴィンチのアンケート原稿を書き上げてFAXする。〆切が14日で、モロに旅行とカブるため。光文社から『ホラーマンガの逆襲・みみずの巻』の見本刷り届く。そうそう、この続編『かえるの巻』の文庫解説も旅行前に書いておかねばならぬ ので あった。

 3時ころまで、原稿資料のためのネット検索。インフォナビゲーターハヤテとかいう検索エンジンをはじめて使ってみたが、これが案外のスグレモノで、これまで見たこともないサイトをいろいろ探し出してくれる。で、つい読み込んでしまう。中に、少年愛を考察しているサイトで“自分は唐沢俊一は少年愛者ではないかとにらんでいる”と言っている人のところがあった。その理由というのが“彼のコラムを読んでい くと、どうも少年愛者に通じていないと知り得ないような雑誌やら裏知識を、あまり にも多く持ち過ぎている”から、ということで、苦笑する。こういう感想を読者が持つ、ということはむしろ光栄としなければならないだろう。

 検索作業中に電話があったりなんだりで、結局、昼メシは食いそこね、ミニカップ麺を一コ食べたきり。朝、書きかけて中断していた週刊アスキーをなんとか4時ころまでにまとめる。買い物に行こうと外へ出ると、イヤ凄まじい暑さ。三七度ということだが、渋谷の体感温度は明らかに四○度以上。ラジオで言っていたが“よく、まだ こんな暑さが残っていた”。スーパーで買い物して帰る。ジュースがぶがぶ。

 札幌からの荷物が届く。今回買った本貰った本の中で一番スゴいのは“ささめ雪”という名の自由日記帳に書かれた、一九七三年から一年間(かなり飛び飛び)の、高校生(途中で予備校生となる)の日記だろう。なんでこんなものが古書店に出ていたのか知らないが、“一応、良心として名前と住所の記載部は破って捨てました”ということで、須雅屋の奥さんから貰った。

 冒頭三月十二日の、日記書き出しの一文が泣ける。
「アグネス・チャン 香港から来たかわいい17才の歌手だ。/ぼくは今日、こういうことを心に決めた。それは、テストが終わったらアグネスに手紙を書くことだ。ただの手紙じゃない。毎日毎日、思いをこめてていねいに英語で書くんだ。/彼女は6月には香港へ帰ってしまう。だからそれまでは毎日毎日書いて出すのだ。彼女が帰ってしまったら、こんどは船便でもいいから一週間に一通香港に出すんだ。彼女に“しつこい”と思われてもいい。ぜったいに出すんだ。一通たりともおこたらず。一通 一通ていねいに。そして、大人になったら(この日まで出してるんだ)彼女の住む香港へ行き、結こんの申し込みをするんだ。/ぼくはハンサムじゃないし、頭もいいほうじゃないし、運動だって得いじゃないけど、がんばって、彼女をおよめさんにするんだ。/これは、一生に一度の大きな決意だ、もうかえない。/いやかわるときがあるかもしれない。でも彼女以外の女の人とは結こんは決してしない。あきらめざるをえないときは、いさぎよくあきらめて、彼女の思い出を心にしまって生きていく。だから、できるだけ、がんばって、彼女をもらうんだ。/なんかへんな表現だけど、でもがんばるぞ。本当は彼女は1つとし上だ。けどそんなの関係ない。/愛情は年なんかかんけいないぞ、だから、一生をかけてみるんだ。/どうせ、この一生は、ぼく自身の一生だ。だから、ここに決めたことを一発決めてみよう。そのために努力しよう。/それが人生というものだと思う」

 痛たたたたた。
 痛いいたいいたい。同時代に同じ高校生活を送った者として、これは痛い。バカだねえ、と笑いつつ、同じくらいバカだった十六の頃の自分とピッタリ重なりあって、己れのバカさ加減をリプレイして見せられているように感じて、たまらない気持ちになる(さすがに私はその時分から、あこがれの対象がアグネスではなく作家だったりマンガ家だったり声優だったりしたけれども)。続けて読んでいくとこの十六才、アグネスに恋こがれるあまり成績がガタ落ちして浪人している。もっとも、後の記述を読むと、どうもねらっている大学が京大らしいから、もともとアタマはいい子なのだろう。しかし、不幸にも優れていたのが頭脳だけでなく感受性も、であったため、思春期の心身不安定状態をモロに受け止めてしまってワヤワヤになってしまっているのであった。“自分には友達がいない”と書いてあるが、確かに日記帳の後ろにある住所録に記されているのはただ一人。東京都千代田区有楽町1の4松井ビル、渡辺プロダクション気付。アグネス・チャンの住所なのである。

 肩の凝りの度合がすすんで、左腕あたりがしびれてくる。これはいかん、と思い、マッサージに行く。目の周辺をよっく揉み込んでくれてキモチがいい。凝りは芯にまで入っているそうだ。8時に帰宅、夕食の準備。豚とアサリと豆腐の鍋仕立て、それとスモーク卵のサラダ。食べながら、昨日どどいつ文庫から買ったビデオを見る。トルコ製のスタートレックという大珍品があった。これは眠田先生に差し上げなければなるまい。アメリカ製戦意昂揚映画『KAMIKAZE』を見ててツマンないので、つい『日本の一番長い日』をかけたら、見入ってしまって12時過ぎまで。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa