裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

金曜日

アーマノイド変じてウナギとなる

 0テスター、やつらは魚に化けてるぞ。飛行機は順調、今回は通路側(行きは窓側がK子、右がゲイっぽい日本の若い男性に挟まれ、身動きがとれなかった)なので足も伸ばせて、さほどつらくなく、寝て起きて映画見てまずいメシを食って、安達ズと話していたら、あっという間に成田着。昨日ローマでながめた月がァ〜、とつい、口に出る。ソレトトントトトント顔と顔。帰れソレトトントへ。

 それにしても、今回は行き帰り、機内食のマズさはとにかく印象的であった。帰りは洋食が取りのトマト煮とサフランライス、和食の方はハンバーグとソバだったが、いずれも、そう言われないで口にすれば、単なる発泡スチロールかなにかとしかわからないであろう、という味だった。それでも行きは半分は食べたK子だったが、今回帰りの便では、とうとう一口しか口にせず、十数時間をおつまみのピーナッツだけで過ごしていた。やはり経営の合理化で、エコノミーの食事の質を落としているのであろうか。ビジネスやファーストのメシの味を試してみたい。

 機内映画は『マイドッグ・スキップ』。少年のノスタルジック語りもので、基本ストーリィは『アイアン・ジャイアント』と同じ。犬の演技がなにかアザトい。必要以上の擬人化的な感情移入があるのである。少年を演じているフランキー・ミューズはうまいが、タメの演技が出来ない(これは演出のミスでもあるか)。例えば、いなくなったと思った犬が戻ってきたというシーンで、犬を見た瞬間、すぐ喜ぶ。思いがけない事態に遭遇したときはまず、頭がその状況を理解するまでのボーッとした一瞬があって、それから一気に感情が爆発する、という風でなければいけないだろう。スピルバーグあたりだと、こういう子供の演出は名人芸なのだが。犬は演技訓練の種類によって似たものを数匹用意したということだが、ラストで、大人になった少年が町を去る、とき、その顔だけで、あ、あの子が大人になったんだ、とわかる役者を連れてきているのに感心した。人でも、そっくり同じ顔を揃えるプロダクションくらい、ハリウッドならあるかもしれない。

 成田、バッゲージも無事全員戻り、税関検査。一人旅の奴はだいぶいろいろ質問されているようだが、こちとら縦から見てもヨコから見ても団体観光旅行客。何も言わずに通される。まあ、実際今回はK子のバッグの中の無修正ゲイ雑誌一冊以外、ヤバ物はひとつもなし。まさかアウシュビッツの石はとがめられまい。チベットからの帰りの際はバッグの中の人骨製品とか、拾ったイヌの骨(拾うなよ)とか、アヤしい嗅ぎ煙草とかが見つからないか、かなりドキドキしたものであるが。ロビーへ出ると、とたんに日本の雰囲気。ずらり並んだ顔が基本的に一種類というのは、ぬりかべに出 くわしたように不気味なものだ。

 京成電鉄で帰る安達ズとはそこで別れ(どうせすぐ来週帰国オフ)、成田エクスプレスの予約。前の二人連れが、満席の列車、立ち席でいいから、と言ってキップ出してもらっていた。最近は立ちキップも出すのか。こっちのはちょっと時間があるので軽食喫茶に入る。K子、ここでシーフードスパゲッティを頼み、“イタリアのよりうまいじゃん!”と最後のフンガイ。エクスプレスの中では例によって談之助と落語論で盛り上がった。

 新宿で南口のノスケ夫婦と西口のわれわれに別れ、タクシーで渋谷へ。ネコ、迎えにも出てこなかったが、われわれと分かると急にスリ寄ってきた。ペットシッターさんのメモによると、旅行中は納戸の奥に篭って、ほとんど出てこなかった由。手紙類たくさん、留守録もある。モノマガから、原稿まだでしょうか、というFAXが来ている。次回分だと思い、セッカチな編集部だと思ったが、調べてみると、出発の朝、送ったはずの原稿が送信記録にない。そう言えばちょっと送信時にオタついたが、ニフがトラブったな。あちゃあ。あわてて再送信しておく。これから、特殊時に送るものは押さえでFAXもしておくべきだと痛感。他は別段これといったものもなし。メール十数通。新連載三本、どうやら決定らし。うち一本はちょっと大きい。また忙しくなるであろう。あっという間に日常へ引き戻される。

 編集部等にメール、あと官能倶楽部の残留組に帰国の挨拶。冷蔵庫の中がカラッポなので、四谷まで出かけてセイフーで買い込み、渋谷に戻ってK子と小料理屋『宇の里』。メニューにイタリアンコロッケというのがあったが、さすがに悪趣味と思って頼まず。ヒラメ刺身、ハモ湯引き、冷や奴など。帰ってバタンと倒れ込んで寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa