裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

28日

木曜日

マリー・インターネット

 パソコンがないならi−モードで通信すればいいのに。朝5時半起き。クソ重いジム・ヘンソンのクリーチャー・ショップの写真本を眺めていて、腕が疲れた。7時半起床、朝食。タラコスパゲッティ。まだオリンピックってやってるの、という感じ。大体、スポーツがらみのドラマのバリエーションも出尽くしたな。昨日の新聞に出ていた、女子棒高飛びの金メダリスト、ドラギラという名前が凄い。先祖はやはりトランシルバニアの出ですか。

 そろそろ9月も終わり。日記の整理。いろいろ訂正し忘れたウッカリ・ミスの記述もや誤字・脱字も見つけるが、あえて直さず。わかるでしょ、それくらいというもの ばかり。CADIVAはCAGIVAであった。

 ずっと鶴岡との対談本に手を入れる。なにか、普通の対談本以上に手を入れたくなり、どんどん、一回の話量が多くなる。これは、私が度外れた早口、対する鶴岡がそれ以上の千葉風早口、ということが理由だろう。対談のペースが尋常一様でないから(初回の対談は二時間でテープ起こししたら原稿用紙二五○枚になった)、そのペースに乗り遅れないため、話を途中ではしょったり、また、そこは師弟故に以心伝心、“ね?”“そうそう”で次の話題に移ったりしているのである。二人の間ではそれで通じても、読者には何のことかわからない。その省略したところを書き込み、意味が論理でつながるようにするだけで、えらい時間がかかる。

 一旦中断して、銀行に寄り、昼飯を食うために新宿へ出る。東口アルタ裏の『アカシア』で、ロールキャベツとオイル焼き。どちらも平成の食い物とおもえないくらいレトロな、おかったるい味なんだが、一旦口になずむと、定期的に、“是が非でもあレを食いたい!”と禁断症状が出るようになる。なんなんだろう、あの魔力は。古ビデオ屋、書店などをのぞき、買い物して帰る。タクシーに乗ったら、いきなり鼻血が出た。札幌の実家から送ってきた、何とか感応丸気という、救心の強力なやつをバテ改善に服用したのだが、その効果で、弱っていた心拍が強まり、鼻血が出たのではないか。その証拠に、ゆうべからのみ出して、今朝、風呂で左足のむくみがほとんど取れていたのに驚いたほどである。

 帰宅して、鼻血がとまるまでしばらく横になる。すぐ止まるが、そのまま6時近くまでグーと寝てしまう。芝崎くんから電話あり、それで目が覚めるが、いまさら仕事するのには半チクな時間ので、そのまま寝転がり、積ん読の山の中から引っ張り出し た鯨統一郎『邪馬台国はどこですか?』(創元推理文庫)を読む。面白くて面白くて 一気に通読。歴史ミステリに分類されるらしいが、というよりは論理のアクロバットを楽しむ、チェスタトンやアジモフの味に近いと思った。小説としては各編のオチの〆メ方や、キャラクターの設定に多少難がある。まあ、処女作だからそこらへんは大目に見なくてはいけないだろうが、同じアクロバット風作品で、処女作からキャラクターやオチのあざやかさまで完璧に描きつくしていた泡坂妻夫の例もあるから、手放しには誉められない。とはいえ、読むうち見事作者の術中にハマり、邪馬台国は岩手県にあった! とか、勝海舟は催眠術で江戸を開城させた! とか、織田信長は自殺だった! と信じこまされてしまう楽しさといったらちょっとない。

 6時半、家を出て幡ヶ谷チャイナハウス。官能倶楽部による、われわれのヨーロッパ帰国報告オフ。と、言ってもすでにほとんどのメンバーがトンデモ落語会で顔をあわせてしまっているんだが。写真やオミヤゲの交換。ヒトラー山荘からの眺望のすばらしさに、今度は単独でここに行こうかと思う。談之助曰く、“お城がそっくりホテルになってるんですが、まるきりラブホテルで恥ずかしいですね”。帰国祝いか、今日はマスターがスペシャル料理を作ってくれる。瓶に入れてそのまま煮込んだスープで、中味がキジ一羽丸ごと。その他、朝鮮人参、クコの実、貝柱、棗、フカヒレなど超豪華な素材の旨みが、瓶に封じ込まれて四時間以上熱を加えられて、すっかりスープに移動している。淡白でありながら超濃厚。頭付きでスープの上に首を出しているキジは、“いい湯だな”と温泉につかっている感じ。もちろん、その肉もあっという間にこちらの腹におさまったが、はっきり言ってヌケガラ、と思えるくらい、スープに全てのエキスが抽出されていた。頭をナイフで断ち割って、脳ミソを味わったが、これはモツの味がして結構。

 マスターが、“ニワトリでこれをやると脂がギラギラ浮くんだけど、キジも脂はあるのに、やはり野鳥は淡白なんだよね”と言う。考えてみれば、ポーランドでもキジは抜群のうまさだった。一年のうちに、まあ一回くらいはキジを食べる機会はあるかもしれないが、二回、どちらも丸ごとでキジを食ったのは、たぶん生まれて初めての経験ではないか。今年は私の人生において、非常にキジ度の高い年であったと言えよう(なんだ、キジ度って)。他の料理中では、魚の浮袋の炒めものが、濃厚なゼラチン質で、バテた体に油をさしてくれるような感覚。舌に炎症が出来ているあやさんが“体の穴が修復されていくよぉ!”と叫んだ。白酒(パイチュウ)も頼んだが、私が飲んでいるのを見て自分も、と頼んだひえださんが、イッキにクーッと飲み干してしまったのには仰天。

 なんか、最近は官能倶楽部といっても全然官能の話題が出ず、美食倶楽部のオモムキを呈している。次は10月に、長野の鯉を食いにツアー組むのである。これには特別参加で植木不等式さん夫妻とそのお子さんたちも加わるのであるが、あやさんが例によって開田さんに“なんでワタシ、粘膜弱いのにまんこに炎症できたりしないのかな!”と大声で言っていて、コンダクターの談之助が“いいんですか、ウエキさんはこんな団体に子供を連れてきて?”と心配していた。

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