裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

23日

土曜日

カダフィ馬鹿よね

 後ろ指後ろ指さされても。朝4時起き。どうもいかん。頭ボーッとした状態で、7時に朝食。スモークトオイスターサンド。うまくておかわりする。食べて薬局新聞一本アゲ。日記つけ、フロ入ると、もう眠くなってダメ。どっと倒れるようにベッドに寝転がる。低気圧状態で気圧がグルグル変化しており、そのせいもある。札幌から電話あり、親父連れて来月、上京するとか。倒れた親父の方が元気かも知れん。例のテレビ番組、実家の撮影はいいかと言うと、薬局の宣伝になるならいいと言う。S(親戚也)家のお婆さんが亡くなったというので、明晩、名代で香典を届けにいくことに なる。

 1時ころ電話。エンターブレインNくんからで、今日、上野の『アラジン』に撮影(鶴岡との対談集の中で使う)の許可取る挨拶に行く件。3時ころはどうだという。まだ眠いので、3時なら2時に出ればいいから一時間は眠れると思い、OKしてまた寝、目が覚めたのが2時15分。あわてて新宿南口までタクシー飛ばし、山手線で御徒町。それでも五分遅れくらいで間に合った。雨の中、アラジンまで。社長はあいにく不在だったが、名前を言って、来週の撮影をお願いしておく。Nくんは前以ての電話をしていないわ、名刺忘れるわ。まあ、この男は通常の状態がこれなので腹も立た ない。

 ベッカーズでNくんと、今後のスケジュール打ち合わせ。タイトルのこともそろそろ決めないといけない。カルチャー漫才で“カルマン”てのはどうか、などと思いつく。昼メシ食ってなかったのでそこのキノコハンバーガー頼んだが、いくらメシを抜 いていても食欲の湧かない味だった。

 Nくんはその足で西荻に田村信の原稿を取りにいく。私は上野までアメ横の中を歩く。全国の市場をいろいろ歩いてはいるが、やはり雑然たることではここだろう(かなり整理されたとはいえ)。魚と時計と果物と化粧品とラジオがゴッチャで売られているというような無秩序さが魅力である。地下鉄銀座線で青山まで出て、買い物してタクシーで帰宅。雨いまだ蕭々。

 ぼちぼち原稿書いたり、また横になったりという低テンションのまま時間潰す。笹間良彦『好色艶語辞典』(雄山閣)などひろい読む。“ちゅうちゅうたこかいな”がエロい意味を持つことは知っていたが、後半があるとは知らなかった。フルバージョンだと“ちゅうちゅうたこかいな、はまぐりはむしのどく”になるそうである。

 8時40分、公会堂斜め向かいのコンビニ前でK子と待合せ、アップリンクに『死化粧師オロスコ』を観に行く。死体写真家・釣崎清隆のビデオドキュメンタリーで、コロンビアの釜ケ崎といった感じの治安不安定街でエンバーマー(死体化粧師)をいとなむ偏屈な老人、フロイラン・オロスコの日常を数年がかりで追い、その死までを記録した作品。せまい仕事場で、手際いいというよりは乱暴に、次から次へと死体の腹を裂いて、腐らないよう臓物を取り出し、血と体液を捨てて洗浄し(内蔵は防腐剤をまぶしてまた戻す)、縫い合わせて服を着せ、含みワタなどで顔を整え、化粧をほどこして棺におさめる。オロスコは作業が早いのがウリで、一日に五体から十体の死体を処理する。後から後から死体が運ばれ、子供の死体の処理など、まだ台の上にある、前の死体の腹の上に乗せてやったりする。最初は、いきなり死体の腹から臓物があふれ出すシーンなどにギョッとするが、なにしろ一時間半弱の上映時間中ずっと、次から次へと死体が出てくるので、こっちもすぐ慣れて、モノとしてそれらが扱われるのがユーモラスに見えてくるのが妙である。

 かつてはナチス時代のドイツで兵士として死体を焼却していた、などという過去をポロリとオロスコは語るが、しかしフィルム(ビデオテープ)は、そういう過去よりも、死体と共にあるオロスコの現在に執着する。変なメッセージ性を廃して日常の記録に徹した釣崎監督のセンスは鋭い。どこかジャック・パランスに似たオロスコの、弟子に対するガンコ職人といった態度も微笑ましいが、可笑しいのはこのオロスコが決して腕のいい死化粧師ではないということで、早い分仕事が粗雑、と死化粧師業界でウワサされていることだ。ライバルの仕事ぶりも記録されるが、こちらは一体に六時間から七時間かける丁寧ぶりで、顔にはパテを注入して形を整え、目や唇は瞬間接着剤で塞いで開かないようにし、髪も丁寧にとかしてセットする。“あいつ(オロスコ)は仕事を丁寧にしないからいつまでたっても貧乏なんだ”とライバルが言うところなど、まるで『愛の貧乏脱出作戦』で笑える。

 唐突にヒツジとセックスしている男の図などが挿入されたりもするが、他は死体々々のオンパレード。死体好きのK子は喜々として、上映が終わったとき、“もう九○分たっちゃったの?”と言った程である。オロスコは年々体が衰え、自分一人では死体もかつげなくなる。そして六四歳で死ぬが、街の人々は、死化粧師はマフィアにつながりがあると信じているため(『ゴッドファーザー』でもそうだったな)、彼の死の状況について語ろうとしない。ラストに、“生前、五万体以上のエンバーメントを行ったオロスコ自身の死体はエンバーメントもされず、墓もない”と出る。出来すぎた最期である。仕事のやり方といい、何か好美のぼるに相通じるようなところがありはしないかと思った。

 アップリンクを出て11時過ぎ。近くのメシ屋がどこも閉まっているので、深夜までやっている、小ジャレたダイニングバーへ行く。味は期待してなかったが、それほど悪くもなく、鴨の山椒焼き、ごま豆腐、ゴーヤ味噌炒めなど。家に帰り、睡眠時間調節のため、チーズなどで飲み直し、昨日買ったビデオなどを見ながら二時過ぎまで 起きている。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa