裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

25日

土曜日

ル・カレと思ってやったのに

 わざわざ寒い国から帰ってきたのに。朝というか明け方前の3時半に目が覚めてしまって、しばらく暗中無聊に苦しむ。5時ころやっと眠れて、触感から臭覚まで完璧な、極めてリアルな(そのくせよく覚えていない)夢などを見て、8時過ぎやっと起床。土曜なので、稲垣吾郎逮捕はそれほど騒がれておらず。派手ないしだ壱成は派手につかまり、地味な稲垣吾郎は地味につかまる(と、思っていたが、その後の報道のされ方、やはりいしだ壱成などとは比べものにならず。今さら、SMAPの大物ぶりがわかった。確かに、金銭的影響を考えてもほぼ十数倍か)。

 朝食、トーストとマカロニサラダ。果物はしなびた桃。しなびると、冷蔵庫でいくら冷やしても、水分が失われているせいかひんやり感が出ない。日記つけ、雑用をすませ、K子に弁当。肉だんごの煮物。鶴岡から電話。もちろん話題は稲垣逮捕。道玄坂で買い物していたって、いったいナニを買っていたのか、という話になる。婦警に見られて困るものだったのか。あのあたりはアダルトショップも多いことだし、などと推理というか邪推をめぐらす。ただの駐車違反だけなら道交法程度だったのに、公務執行妨害、傷害まで加わると、なかなか簡単に出してはくれまい、と鶴岡の意見。

 彼がしきりに言うのは、なぜ稲垣は、駐車禁止のキップ切られたということを、次の番組でギャグに出来なかったのか、ということ。それくらいのオチャメは、かえって人気を上昇させるはずだ。キムタクや香取慎吾のように、不良っぽかったり、脳天気だったりというキャラならそれが出来たろうが、優等生タイプの稲垣には、その選択肢がなかったのだろう、と私は思う。自分の恥とか失敗をオモテに出せないタイプというのはとにかく、いざというときにかえってアタフタして、余計に恥をさらしてしまう。以前、別のところで言ったセリフだが、今日もっとも必要とされる才能は、ツラリとして(あるいは露悪的に)バカができる才能なのである。

 それはそうと、これから稲垣の仮釈放までは、渋谷警察署の周辺は、ファンたちでごった返すだろう。これが本当の“出待ち”である。渋谷警察の職員たちは、娘たちから“いいなあ、パパ、ゴローと一緒の屋根の下で働けて!”と、やや親父の権威を回復するだろうとか、拘置係がホモだったら身体検査しまくりだろうとか、スネークマンショーみたいに、“は、こちら取調室。あ、局長ですか。はい? 娘さんとそのお友達に、5枚、はい、5枚ですね”というような世界が繰り広げられているかもしれぬとか、バカ話ひとしきり。

 12時半、家を出て神田駿河台坂下。城北池袋古書会。あまり混雑もしておらず、ゆっくりと選べる。美女と呼べる女性が二人(そのうち一人はなんと美少女。男連れであったが)もいた。落語関係の本がひと棚ずらーっと並んでいたのでおおっと思ったが、見るとほとんど持っているか読んだことがあるか。自分も好きで読みまくったのだなあ、と少し感慨。8000エンほど。そのあと、ランチョンでランチを食べ、大雲堂でまた数冊。カスミには寄ったが休み。

 帰宅、すぐWeb現代をやり出す。デンパ系の特集にしようと、かなりいいサイトを集めたが、2時間ほどひねくり回しているうちに、別の切り口が見えてきて、雑談風の当初の案より、シャープになると思い、それまで書いた三分の二ほどを全部放棄して、新たに書き出す。いささかモッタイナイ気がする。7時から十条で特撮愛好会Gの集まりがあるので、6時過ぎには出なければならぬ。だだだ、と書き進み、結局10枚弱を6時半に完成。講談社とイラストのK子にメールして、急いで家を出る。

 十条と言うとえらい遠いイメージだが、新宿から埼京線で一本。十分遅れくらいで会場に到着。中野昭慶、中野稔の両御大に田中文雄さん、中島春雄さん。それから破裏拳竜さん、藤田和日郎さん。コミックガムに連載している漫画家の福原鉄平さんともいろいろ話す。彼は1975年生まれで、大阪万博すら体験してない世代なのであるが、昭和30年代フリークで、強度のノスタルジア派である。こういう若い人を前におくとオジサン世代は急に“怪人ものおしえ男”と化し、回りを取り囲んで“あのころのテレビというのは、消すとブラウン管の真ん中にぽつんと光点が残ってな”とか“キンゴジに登場した団地というものはそもそも”“パルコができる前の渋谷というのは……”とオタク特有のうわずった声がうずまく。福原さん、ヘキエキしたのではあるまいか。原作の紙谷龍生氏、福原さんに貸本マンガ(それもギャングもの)の テイストのものを描かせたがっていた。

 ライターの野沢義範くんと、『文藝別冊』の円谷特集の話など。メンツが私、庵野秀明、巽孝之、木原浩勝と、凄まじいバラけ方であるのはいいことなのかどうなのかとか。有川貞昌さんのロングインタビューは貴重だが。野沢くん編集の『素晴らしき円谷英二の世界』は増刷かかったそうで、まずはめでたい。原稿は買いきりだけど。円谷百年がもっと盛り上がるべきなのにせいぜいが出版関係企画や地方の博覧会ばかりなのは(以下十七文字略)、と昭慶さんが言っていた。

 中野稔さんと、現代日本映画コキオロシで盛り上がる。“今の若いのはね、映画は金じゃない、アイデアだとか言ってるけどね、本当にいいアイデアならね、金だしてくれる人はいくらもいるよ”これは至言。その中野さんが今、一番推するのは、イギリス人監督のジョン・ウィリアムスが撮った『いちばん美しい夏』。ぜひ見てよ、見て感想聞かせてよ、と言われる。田中文雄さんとは『メトロポリス』コキオロシ。コキオロシばかりですな。田中さん、いま架空戦記ものを一ヶ月に一冊、書いているそうな。おおいとしのぶ夫妻は娘を連れてくる。大きくなったなあ、と、非常に月並みな感想(小さくなったら大変だし)を抱くが、なにしろ私、この二人の出来ちゃった婚の式にまで潮さんと一緒に出席し、スピーチなぞ述べている。あのときオナカにいた子が、と思うと感慨無量である。

 9時までいて、K子とメシ食わねばならんので辞去。埼京線、大江戸線と乗り継いで新宿『幸永』。明日からここ、隣に新店舗が開店。花輪でも出すべきだったか。準備していた店長が私らを見つけて、“こっちの店は冷房が効くから涼しいですよ”と言う。これで少しは混雑も緩和されるか? いつもの極ホルモン、豚骨タタキなどの他に新メニューの“アゴ”(顎の肉)を試みる。柔らかい中に噛みごたえもあり。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa