裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

9日

木曜日

泣くなiモードよ、iモードよ泣くな

 泣けば幼い二人して携帯使った意味がない。朝7時半起床。それよりちょっと前に目が覚めて、二人でベッドで本など読み、またウトウト。朝食、ガスパッチョと桃。朝刊にJ・P・ベルモンドが脳溢血で倒れ、昏睡状態との記事。68歳。うーん、親父が倒れたのと同年齢か。人間、ここらの年でもうひとふるい、天にかけられるのかもしれない。

 日記をつけ、雑用すませ、さて今日こそ国会図書館に、と思ったらもう12時で、行っても昼休み。やはり、ウトウトからの目覚めは午前中の能率を下げるなあ。仕方ないので、太田出版のと学会本再校などやる。昼飯を食いに1時ころ出て、パルコのレストラン街で排骨担々涼麺。帰りにブックセンターで、K子のマンガの資料用に、蝶の図鑑を買う。3400円もするのにビックリ。帰って、安田弘之『紺野さんと遊ぼう』(太田出版)読む。これは、なんだな、まとめて読むよりは雑誌に毎回載っているのを楽しみに待つマンガだな。いや、こういう子、萌えなんですが。

 3時、家を出て、東武ホテルでミリオン出版Tさんと打ち合わせ。一回目の打ち合わせはこちらの都合で流れ、二回目はこっちとあっちで待ち合わせ場所をカン違いしてしまい、行き違いに。三度目の正直。女の子向け雑誌で、コレクター特集をやりたいとのことで、女性とコレクションの関係について、いくつか所見を述べる。Tくんはもとフジ系列の会社にいた人らしく、ちょっとミリオンの編集者というイメージからは遠い。まあ、ミリオンらしい、というタイプがこっちの妄想なんだが。いろいろ サジェスチョンして、次回打ち合わせにつなぐ。

 家に帰って、昨日買ったホモビデオなど見る。『ジャニーズジゴロ』というやつでジャニ系まがいの貧弱美の男の子たちがからむやつで、バカバカしくて大笑い。中に一人、南方系ではあるが体の線も美しく、これなら本当のジャニーズでもイケるんではないか、というのがいたが、これが一番ハードなからみを行う。こんなきれいな顔してこんなことやらんでも、とは思うが、まあ、本当のジャニーズ入ってもやることは同じか。

 続けて『クレヨンしんちゃん 爆発! 温泉わくわく大決戦』をビデオで。これ、劇場で見損ねてたものだが、いや、それを後悔した。これは劇場の大画面で見るべき作品だよ。何故かというとこれは全編を通して、東宝怪獣映画への一大オマージュになっている作品だからである。特に冒頭、夜の山奥の露店風呂に巨大ロボットが姿を現すところは、かつてのゴジラシリーズやガメラシリーズをはっきり言って超えた、怪獣映画の真髄の魅力を濃縮した名シーンだ(足音のない怪獣映画なんて……)温泉につかる美女という“オトナ”のシーンと、巨大なものの足音が近付いてくる、という“コドモ”のシーンのとりあわせも、家族映画の基本をきちん、と押さえている。これにくらべると、評判の高い後半の自衛隊出動シーンははしゃぎすぎだが、さすがは東宝配給、ちゃんとホンモノの伊福部マーチを使っているその贅沢さ。贅沢と言えば声優陣が小川真司、家弓家正、玄田哲章という超豪華版。いや、これを超豪華と思えるのは30代以上のアニメファンだけだろうが、『オトナ帝国』の津嘉山正種もそうだったけど、毎度クレしん劇場版のゲスト声優(コサキンとかIZAMとかの客寄せゲストではなく)のキャスティングの渋さには涙が出る。この『クレしん』劇場版シリーズがマニアに評判がいいのは“子供たちにはわからないクスグリを多用して、ロートルマニアたちのプライドをくすぐっている”ことにあるが、今回もそれがテンコ盛りで、『オトナ帝国』へつながっていく昭和40年代へのオマージュの片鱗がきわめて明確に呈示されている。そして、この映画がたぶん、これだけのおふざけをしていながら、地に足がついたものになっている理由であろう、“家族”“家”という“男が命をかけて守るもの”の描き方も。

 この映画の中には“セクハラ”があり、“男女の家庭内での明確な役割分担”があり、“仕事こそ男のいきがい”といった発言があり、“男である以上浮気のチャンスに心が動くのは当たり前”といった描写がある。昨今のフェミニズム系の人たちが見たら、たぶんヒステリーを起こすのではあるまいか。しかし、彼ら彼女らに聞きたいのは、その理由でもって、アナタはこの作品の魅力を否定できるか、ということである。その是非はどうあれハッキリとした明確な主張が描かれているからこそ、この作品はパワーを持ち得ている。もちろん、戦う女性たちもちゃんと魅力的に描かれてはいるが、基本的にはオトコの映画だ。それは、作り手が怪獣映画へのオマージュを想定したときから、しごく当然のこととして引かれていたレールだろう。わかってらっしゃる、という感じである。神秘風少女を作品のキーとして出せばイマ風になると思っている平成ガメラのようなズクなし映画とは違うのだ。

 ただ、この作品、やはり脚本にまとまりのなさ(『クレしん』映画であるというククリに足をとられてのもの)が見られ、佳作ではあっても大傑作とはいえない。クレしん映画に必須の要素と思われていたおなじみギャグやキャラクターを極力排したところに『オトナ帝国』の凄さがあったように思う。

 8時、家を出て渋谷センター街沖縄料理『沖縄』。クープイリチイや豚ゴマ和えなどを食べていると、なんかもりもり健康になっていく、というイメージ。久々だったのでおいしくて、酒もすすみ、オリオンビール2缶、古酒二合。帰宅したら青柳裕介氏死去の報。耳下腺基底細胞がんとはまた聞きなれぬ病気。そう言えば蛭子能収さんの奥さんも血液の病気で亡くなったというし、訃報が続く。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa