裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

12日

日曜日

トランスポンダ、トランスポンダ、トランスポンダレッセッセ

 オドーラオー。夢で、渋谷センター街をぶらつく。センター街には露店がたくさん出ており、その中の一軒で、色とりどりの鳥の羽を露店の親父がハサミで細かく切っては、それを巻いた紙の中に割り箸で器用につめ、タバコを製造している。うまいもんだ、と感心してながめながら、携帯電話で小野伯父と話をしている。腹話術なんて芸は地味だし、これからやったところで意味のないものだからおやめなさい、と説教している。

 朝6時起床。朝食はサンドイッチと梨。日記だけつけてアップ、それからシャワー浴び、マジックや値段表などをカバンにつめ、とコミケ用の準備万端、テキパキとすすめていたら、7時に電話。誰からかと思ったら小野伯父だった。老人のことで早く目が覚め、誰も話相手がいないので電話してくるらしい。何用かと思えば、こないだ花火大会の余興に行ったとかいう、ラチもない話。何にせよ、朝7時に人の家に長電話かけてくるというのは非常識である。しかも、ついこないだ電話で話したのと同じことを繰り返す。腹話術人形なんてのは今さらいろいろやってもダメです、と、朝方の夢と同じことを繰り返し、デジャブを起こしたような気になる。年を取ると話をかいつまむことが出来なくなるらしく、仕事で出かけて、この仕事先は以前にどういう関係にあったところで、そこの社長はどういう人で、以前何を御馳走してくれて、と話が時間軸を遡ってエンエンと続く。だからと言ってムゲに切るわけにもいかず、困惑を極める。30分ほど立ったところで、これから出かけますから、と切った。アリナミン、麻黄附子細辛湯に救心ドリンク。

 今回のコミケはチラシ等、いろいろ持ち込むものが多いのでK子がひさびさに乗り込む(芝崎くんに頼むつもりだったが、彼女が名乗り出た)。二人で重い紙の束をエンヤラヤとかついで、タクシーでお台場ビックサイト。空はどんよりと曇り、暑さは心配ないと思うが、湿気と息苦しさは凄いものになるであろう。会場近辺はお話にならぬ混雑。ホントはいけないらしいが西口の脇につけてもらい、そこから東ホールまでの長い距離をまたエンヤラヤ。肩が腫れた。入口のチケット回収のところで、
「あ、これはあかん、あかん」
 と追い返されているのがいた。偽造チケットか?

 岡田さん、山本会長に挟まれたブースが今年のと学会。同じ島に睦月さん、安達さんの官能倶楽部、鶴岡のドリフト道場がある。会誌は無事、届いていた。編集長として、責を果したという気がして、ホッとする。後の売り子は、個人的ボランティアである。柳瀬くんに提出用シールもらって、実行委員会に一部を提出。回ってきた係の人が、“あ、新刊ですね。後で買いに来ます!”と言うのに笑う。氷川竜介ご夫妻に挨拶する。

 串間努さん、金成さんなど他ブースの人に挨拶。会場回ると、あ、カラサワさんですか、これ持っていってください、といろいろ同人誌をくださる人がいて、案外荷物が増える。とにかく汗をかく。K子はお釣箱を抱えて、やる気十分。談之助師匠、と学会グッズ担当のヒト(酒井さん、長谷川さんなどといつも一緒にいる人なのだが、今だに名前を知らない)などと、どんどん設営。鶴岡は、卯月妙子のブースが向こうにあるんですよ、と興奮していた。彼の新刊は、『ヤマアラシ』の原作をそのままコピー本にしたものである。ずいぶん安直な金もうけをするもんだ。AIQの人から焼酎『百年の孤独』をいただく。開場の端で係員の怒った声が響いていたが、すでに人気ブースのところで行列が出来ているのであった。もはや担架で運ばれていく者もおり、“オマツリだねえ”とみんなとしみじみする。

 今回の販売物、と学会誌9号(新刊)、と学会Tシャツ、眠田さんのとこからの委託で『トゥーン大好き!』、K子の『奇形児』(ツッコミ補充版)。これにAIQのチラシ、トラッシュフェスティバルのチラシ、ポップカルチャー展のチラシ、トンデモ落語会のチラシをはさみこむ。それやこれやとしているうちに10時、開場。恒例の拍手。さほどの混雑もなく、うちの方にも客が訪れ、一冊、また一冊と会誌、売れていく。去年の夏コミにくらべるとハケがゆっくりしていて、今年は楽かな、と思っていたら、次第々々にペースが早くなり、列が重なっていく。終いにはえらい騒ぎになった。前のお客さんがまだ支払い終わっていないのに、列の後ろの方から手を延ばして取る奴がいる。それもひどいが、しかし、これだけ混雑している中で、何度も何度も手にとってながめたり、また置いたり、また取ったりするやつもいる。客商売でそういうのに文句つけるわけにはいかないが、ハタキを手にしてパタパタとやりたくなった。

 今年はしかし、みんなのフトコロが豊かなのか、委託のもののはけ具合も非常に好調だった。ほとんどのお客が『と学会誌』と『トゥーン大好き!』を二冊共に購入してくれたし、男はちょっとすすめると十人にひとりくらいの割合で、Tシャツも買ってくれる。『奇形児』も『日曜官能家』デッドストックも、はやばやとはけていき、かえって“12時過ぎまでに売るものがなくなっちまうんじゃないか?”と心配するようなアリサマであった。志水さんから携帯に電話、今回は用事で参加できないとの こと。

 トイレタイムなど、寸暇を見てあちこちへ回る。卯月妙子のところは、睦月さんが行ってみたら、販売中止の紙が貼ってあったそうな。卯月さん自身も忙しくて来られなかったそうだが、販売中止はエロ規制に引っ掛かったか? だとしたらいかにも卯月妙子らしくて笑えるのだが。今年は販売があまりに忙しすぎて、あまり挨拶回りにもいけなかった。山本会長のところに、ちょっとオカシイのが来てたようだ。鶴岡が“竹熊さんが奥さん連れで来ていた”と報告してきたが、まるで気がつかず。と学会員では堂前さん御夫婦、桐生祐狩さん、植木さんたち。田村さん、藤倉珊さん、川添さんたちも顔を出してくれる。裏モノでは荒馬大介さん、知り合い関係ではなをきのところの藤井くん、ライターの野沢くん。午後、芝崎くん駆け付け、次回申込み用紙など購入。講談社のIくんもやってくる。ハローミュージックのEくんという若い人が手伝いに来てくれるが、コミケは初めてらしく、何か呆然としていた。

 結局、『奇形児』は昼前に、と学会誌は1時45分に完売。会員用のも残さず売り払う(持って帰るのがメンド臭かったので、あとは増刷、と決めた)。『トゥーン大好き!』は2時に、委託のかんのう新聞もそれくらいに完売。Tシャツは100着を80着近く売り尽くした。この間、ほとんど列が途切れず、席を立たず、メシも食わず。腹っぺらしのK子も、目の前に金がどんどん入ってくるのに興奮したのか、腹が減ったとも言わず獅子奮迅。酒井さん、談之助さんなどもフル回転で販売。これだけ売れりゃ面白いに決まっている。私が売り子を勤めはじめた最初のころは、と学会誌は三○○部程度の刷り部数だったが、それが四○○になり、五○○になり、去年・今年は七○○部という数。コミケの中ではゴミみたいな部数だが、評論では珍しいと言える。みんな、“次は一○○○部いけますよ!”とか言うが、考えてみれば売れたからどうなる、というもんではないのである。別にと学会ビルが建つわけではなし。これくらいのところが限度であろう。官能倶楽部もほぼ全ての販売物を売り切ったようで、まずめでたし。眠田さんから、『トゥーン大好き!』の執筆者印税をトッパライでもらう。嬉しい。

 3時半過ぎ、取り片付けて撤収。売り上げ金預かっているのでタクシーで帰宅。盆だというのに渋谷近辺はかなり混んでいた。風呂に入って汗を流し、しばらく休む。CD『オキュパイド・ジャパン』を聞きながら横になる。『あたしの好きな東洋へ』『サヨナラ』『サチコ』『ルンバ・マイコハン』など占領下ジャズで髣髴とする“異国”ニッポン。考えてみれば、コミケなどというところも十分に異国である。

 5時半、赤入れした太田出版の原稿を宅急便で出し、二次会会場の『九州』へ。いつもは三十人で予約して結局四十人くらいになるのだが、今回は開田さんたち一行がロイヤルサロンの打ち上げにいってしまい、参加表明していながらいろいろ用事で来られない人もおり、結局二十名程度になる。飲み食いしながらいろいろ馬鹿ばなし、体が疲れている分ハイになってなんだかんだしゃべる。人生の余禄ってやつ。談之助さんは次回から立川流で申込むという。家元が売り子に出てくるかもしれぬ。途中、エンターブレインのNくんからまだやってますか、と電話あったが、8時半過ぎにはもう鍋も食い終わり、オーラス。で、勘定となったが、一応、今回売り上げの一割を二次会費用にアテたのであるが、三十人分を二十人で支払うということになったために(多少はまけてくれたが)、さほどの割安にもならず。これだけは誤算。帰宅して崩れるようにして寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa