裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

28日

土曜日

サガノがばいヘルマー

サガノヘルマーという作家の認知度はどれくらいなのか(ウィキにも
項目がなかったし)?

※『オールド・フランケンシュタイン』四日目

朝8時起床。睡眠時間実質3時間半。
さまで辛くないのは、まだ公演が続いていて
テンションが上がっているせいで、終ったとたんに
『レイダース』の最後のシーンの悪党どもみたいに
ぐしゃぐしゃになるのではないか。
しかし、あらためて、公演というのはオマツリなのだな、と思う。
役者で出ているだけの時と違い、自分が作り出した舞台だと
その興奮度もまるで違う。

朝食は10時、肉豆腐。ご飯にかけて、即席牛丼のようにして。
母にみんなの昼食のおにぎりをもらい、
下北沢へ。日記読んだらしい麻見さんから“ゆうべ遅かったん
ですよね”と言われる。
ハッシーが半ば呆れて
「なんでそんなに元気なの」
と訊いてきて、テリーも
「肌つやつやだし」
というので、
「恋をしているからだよ」
と答えたらすかさずテリー、
「変態だな、やっぱり」

そのテリー、舞台上で腰をカクカク動かすギャグを
やっているのだが、これにはコツがあるといい、
「腰を凄く動かしているようで、実は上半身だけで
腰はあまり動いてない。だからいやらしさより笑いが
先にたって客は引かないの。これがコツ」
とか若手に教えていた。冗談なのか本当の秘伝なのか
いまいちわからず。

細かいダメ出し、修正点いろいろ。
すでに私が出すより、役者陣から
「ここ、これでいいでしょうか」
という質問が出る方が多し。
イゴーラには“エロ度3割増で”と命じておく(笑)。
初日に観に来てくれた桐生祐狩さんにも語ったが、
タイトルを借りた『ヤング・フランケンシュタイン』は
大いなる下ネタ映画なのだ。

思えば一ヶ月前、ああでないこうでないと呻吟しながら
書いていた脚本が、こうして芝居になり舞台になり、
なってからも紆余曲折あり、やっと形になって、
もう、明日が千秋楽。
はかないものだ。はかないからこそハレの経験なのかもしれない。

昼の部、昨日にひきつづき笑いもとっているが、ややダレ、
中だるみあり。もやしの“二次元”も受けるが、岡田の
「カッパのみりん干しみたいな女」
も鉄板。これは意外。大したセリフじゃないし、稽古のときも
岡田に“言いにくければ変えてもいいよ”と言ったくらいの
セリフだったのに、こんなに笑いが来るとは。
はるちゃんはこの“カッパのみりん干し”を、
10月30日の日記のイメージですよね、と言っていた。
あ、なるほど、と思う。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1325108567&owner_id=74155

岡っちの口ひげ、50年代の色事師という感じでよし。
菊ちゃんが、今は宿の女将だが、パリに出て踊り子になりたかった
と語る冒頭のシーンで、ちょい、とターンしてみせる。
これが踊りの素養があるだけに見事なターンで、ここでこんな
デタラメな話にリアリティが出る。

FKJさんいらしていて、感想を聞いたら
「鉄人28号みたいですね」
と。実はこの話のキモになるアイデア、横山光輝が使ったものと
(まったく違う使い方だし、向うは無意識と思うのだが)相似の
ものがある。おお、さすがにわかるのか、と驚いたが、
私とは全然別方向の、“失敗作たちと成功作”というところから、
鉄人ぽいところを感じたようだ。

それからおでっささんも。
実は私の次の芝居であるアイデアがあり、ちょっとその頼みごとに
関してひそひそ。アレ、いいでしょう、いいですねえ、などと。

昨日の感想を書いてくれた人のミクシィ日記の中に、
「キャスティングに無駄がない」
と書かれていたものがあり、うれしく思う。
そこが一番の頭の使いどころだった。
だからこそ、風邪とか喘息とかでひょっとして出演できないかも、
という劇団員が稽古中続出したのには頭を抱えたが、無事、ほぼ
思惑通りのキャストで幕が開けたのは幸甚也。
あと、“ギャグ満載だけどコントでなくコメディ”と
言ってくれた感想、これまた嬉しい。
コントとコメディは着地点が違う。
お笑いを主体としている劇団で、ここをごっちゃにしている
ところが多いので、今回気をつけて“コメディ”を指向したのだ。

一方で、暗転の連続でめまぐるしい、という意見もいくつかあり。
これは映画の場面つなぎの方法で芝居を作ってしまったせいだろう。
とはいえ、このめまぐるしいほどの転換は、むしろ私の芝居の
特長にしたいとさえ思っている。
あと、ラストでテーマをセリフで説明することの是非。
これは、演劇マニアが来る劇団ではない、ルナの観客(一般の
お笑いファンが多い)へのサービスのつもり。アンケートでは
好評なのである。

開田夫妻が来てくれた。
劇団員たちがみんな、
「あやさんに自分の摘出した子宮の写真を見せられた」
とヘキエキしていた(笑)。私も見せられるが、まるきり
コブクロ。まあ、当然だが。猛然とホルモン焼きが食べたくなる。
風邪回復した別府ちゃんに焼肉食いにいくかー! と声をかけると
「おー!」
と拳を天井に高く突き上げる凄い反応。

開田さんは由賀ちゃんのイゴーラに萌えたとのこと。
「あの、フードを取るシーン、いいでしょう」
と言うと、いや、かぶったままでもいい、と。
昭和特撮ファンはまあ、ぬいぐるみが好きなのかね?

母の弁当をみなにふるまって(母、昼に来ていた筈だが
挨拶する前に帰った模様)、少し寝る。この雑魚寝が
同じ芝居仲間、という意識につながるような気が。
純子の寝顔をじっと見ながら、私にこういう妹がいたら
どうだろう、と考える。
由賀ちゃんが化物演技をもやしにレクチャーされていた。

で、ソワレ。入りが心配だったがまずまず。
前説も堂に入り、話が長くなる。楽しくやって、開始。
調光室で観るみんなの演技、また格別。
イゴーラは舞台裏で佐々木が
「ちゃんとオバケがサマになってきたねえ」
と感想を漏らしていた。
化物役は本来なら大村琴重の役割で、昨日だったか琴ちゃん曰く、
「観に来てくれた私の友達が、“最初、なんでこの役が大村じゃ
ないんだ、と思ってましたが、途中で素顔見せるシーンで、
あ、これは大村には無理だ”と」
というのに笑う。途中でフードを脱ぎ、イゴーラが化物から
“女性”になるシーン実は作者としてこの芝居で一番好きな
シーン。実はフードを取って素顔を見せるのは、
『サウスパーク/無修正映画版』へのオマージュだったりする。

復調した明華ちゃん、やはり頼もし。
彼女の存在感あっての後半の説明ゼリフ連発なのだ。
もちろん、見た目の健康優良児的なところも(笑)、
ウケを誘う。彼女を抱えたプレトリウスの“事故だー!”には
秘かなファンが多い模様で。

笑い、ワッワという感じ。
今回、アドリブは基本的には佐々木とハッシーにおまかせ。
あと、フリーのシーンは麻見&松原のノーコンタクツチーム、
それからもやしの萌えキャラ講義シーンくらいに押さえ、
後の出演者にはとにかく、脚本に忠実に、と言ってある。
ちゃんと十二分に本の段階でギャグは入れてある。
そこをテンポに気合入れて演じればまず、笑いはとれる筈なのである。
実際、今日は菊のベリンダが盗品をつぎつぎポケットから
出すところや岡っちの花、琴の膝たたき(これは脚本でなく
稽古の段階で琴重自身がつけたものだが)など、みな十分に受けていた。
昼だったか夜だったか、あゆみがセリフを完全にヌかすという
ポカがあったが、何とか純子がフォローし、あゆみも取り返す
ギャグを言っていた。うむ、力ついたな。

ハッシーの鶴田コール、テリーの“のどちんこブラーン”、
こういったアドリブはアドリブの天才だけに出来るもの。
イチローがバッターボックスに入るときは、自分がこれから
ヒットを打つシーンをまじまじと現実の通りに頭に思い浮かべ
られるのだそうな。たぶん、彼らは自分のアドリブで客が爆笑
するシーンをバーチャルで思い浮かべられ、その通りに演じ
笑わせられるのだろう。天才ならぬ凡人がそういう人の真似を
したら火傷するだけである。あらかじめレールを引いた上を
走るだけで爆発的でないにしろ笑いがとれるなら、事故を起こさぬ
そちらを選択するのが吉、である。アドリブばかりが才能の
見せ所ではない。

でんたるさん、わざわざ札幌から。
面白かったようで、
「橋沢さん、負けてる、負けてる」
とハッシーの背中をつついていた。
朝日新聞社のKシュウが東郷隆先生連れて来てくれていた。
あと、集英社のMくんと、都市出版のKさん(本当はMさん。
つまりMくんと夫婦。別々の出版社の私の担当同士の結婚)も。
みな絶賛してくれ、終って長い時間かけてアンケートを書いて
くれていた。感謝。

終って、三々五々解散。
Kシュウと東郷先生が沖縄料理の店にいる、というので別府
ちゃん連れていき、少し話す。別府ちゃんから嬉しい証言も
聞けて自信を持った。彼女をホルモンの店に連れてく、というのが
今日のコンセプトなので、全員でいくどんに店を移る。
東郷先生も別府ちゃんも九州なので話はずむ。
Kシュウは『御利益』から観てくれているが、『御利益』では
NC、『黄昏モンスターズ』ではシヴさんがお気に入り。
今回はダントツでもやしのジャックだったと。

でんたるさんとハッシー、琴ちゃんも後から合流。
でんたるさんはすぐお帰りに。
ハッシー、東郷さんがおニャン子の構成作家をやっていたと
聞いて大喜び。意気投合していた。
これで東郷さんがルナに芝居を書くなどしてくれれば、
ルナは座付き作家(及び原作者)に芦辺拓、唐沢俊一、京極夏彦、
東郷隆という顔ぶれをそろえられる。ちょっと話題になるやも。

ホルモン、別府ちゃん大満足の態。
よかったよかった。タクシー相乗りで帰宅。
いい感じの酔いであった。

*舞台上のテリー(@フランケンシュタイン男爵)、
ステディの彼女と2ショット。
劇場裏での怪しげトリオ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa