裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

23日

水曜日

E.D.フォーン・ホーム

「おいっ、ひさしぶりにしたくなったぞ、今から帰るからフトン敷いとけ!」朝7時起床。ゆうべの真露で二日酔い気味。別に吐き気や頭痛はないが、全身がダルい。飲んだ量は日曜の方が多かったが、ゆうべは食事がそもそも遅かったので、酔ってから目がさめるまでの時間が短く、アルコールを体が完全に分解できていない。脱水症状起こしているので、サントリービックルをイッキ飲み。朝食は昨日と同じ、カリフラワとレタスのコンソメ煮。

 朝刊に倉田準二監督の訃報はなし。調べたら昨日の夕刊に載っていた。訃報でも夕刊に載る人というのはソンのような気がする。朝刊には歌手ペギー・リー死去の報。“ペギー・リーが来た”というシャレはわかりにくいか。Vガンダムにペギー・リーという名前のキャラが出てきた。他にもコニー・フランシスだとかケイト・ブッシュだとか、安直に歌手の名前からとったキャラクターがガンダムには多い。まあ、シャアだって元ネタはシャルル・アズナブールだし。それはともかく、『フィーバー』は高校生以来の愛聴曲である。そのけだるくクールな歌いっぷりにはしびれまくったものだった。歌詞に唐突にロミオとジュリエットが出てくるあたりもよかったなあ。

 昼ころには体調も回復。エリンギを煮込んでキノコウドンを作って啜る。Web現代原稿カリカリ。Web現代と言えば、この連載の初代担当Iくんの話が華倫変の日記に出てくる。彼が例の新宿雑居ビル火災事件のとき、そのビルの中にあった『ルーズソックス』の常連であったため焼死を疑られた(親からも“大丈夫か”と電話がかかってきた)件はこの日記にも書いたが、それが華倫変の日記では私が彼(華倫変)に、“あいつは歌舞伎町の火事のときな、パイズリされながら焦げ死んだらしい”と話した、という記事になっている。

 話したも何も、私は華倫変(関西在住)には一度も会ってないのだからそんなわけもないのだが、この話を人に伝えるときにイチバン面白い形がこれであるだろうし、私のキャラにもピッタリである。読んで大笑いした。話はこういう風に伝えていくものである。ヒッチコックにインタビューをしに、フランソワ・トリュフォーが撮影所に友人とおもむいたとき、二人はついうっかり撮影所のプールに落っこちてしまい、ずぶ濡れになった。ヒッチコックはそれを見て、出直して服を着かえてきなさい、と言ったのだが、次に撮影所に行ったときには、ヒッチによって、この二人が着替えの服を撮影所の衣装部で借りてきたため、消防士とおまわりさんの恰好でやってきた、という話になって広まっていたそうだ。これこそがゴシップ好きにとっての“真実”なのである。

 電話数本、メール及びファックスもいくつも。睦月さんは1月25日(明後日)のブラック独演会、全然知らないで別の予定を入れてしまったそうだ。確かに、快楽亭のHPにも告知がないし、どこにも宣伝されていない。わずかに『談志中毒病棟』の立川流スケジュール表に載っているのみ。中野芸能小劇場にて、7時開演。ゲストは山本竜二。ひょっとして、ネタが過激にわたりすぎるというので宣伝してないのか?

 原稿書き上げてメール。担当Yくんからすぐ返事。『裏モノ見聞録』2巻、Web現代の他の単行本が遅れているという理由で、発売が2月から3月にのびるかも、とのこと。ちと予定が狂うぞ。4時、時間割でメディアファクトリーTくんと打ち合わせ。編集業務に携わる芝崎くんも同席。次の本の話、これは8月ということで、と学会の夏コミ用の記念本と作業が完全にカブる。スケジュール調整が非常に難しいが、どうにかスリ合わせてもらおう。それから次の本、道新のオタク史を敷衍して第一世代オタク発生記録をまとめる件、これは今年前半に道新原稿に手を入れる作業を完成させて後半で資料記録まとめということに。

 5時、Tくん帰る。私は6時からササキバラゴウ氏と打ち合わせなのだが、芝崎くんがササキバラ氏にお会いしたい、というので一時間ばかり、そこで雑談。やってきたササキバラ氏と名刺交換のみして芝崎くんは帰る。懐かしDVD情報誌立ち上げについて、編集担当のY氏も交えて打ち合わせ。4月刊行なので、今回は単に顔あわせと基本コンセプト固め。オタク爺いの昔話が金になるんだからいい時代になったものである。8時まで、やれトリトンだ鉄人だリボンの騎士だコルチャックだコロンボだと、進歩発展の気風のまったくない内容の会話を実に楽しくエンエンと。進歩というのはあまりよくないことだと、そろそろ誰かが言い出さねばならぬ。

 8時半、K子と新宿東口で待ち合わせ。今日も四谷のおでん屋にケられたので、どこか探そう、と三丁目の飲食店街をブラつき、雑居ビルの中のおでん・焼鳥『わさび庵』というところに、何のアテもなく入る。せまいビルのフロアに、L字型にしてなんとか店を作った、という風で、小上がりに六〜七名、カウンターに五名くらいでもう満員。カウンターになんとか二人、座れた。女性二人でやっている店で、おでんも焼き物も、それほど突出した味ではないが、薄味の上品なものばかりで、K子は気にいったよう。おでんの具に豚バラとトマトがあるのが面白い。ブタバラはぽん酢で食べ、トマトは湯剥きしたのが一個、丸のまま出てきて、レンゲですくって食べる。焼きおにぎりが、貝柱を御飯にまぜ込んであって、美味。

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