裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

6日

日曜日

ジンジャエールひと

 ロダン印清涼飲料水。朝7時15分起床。昨日は飲み過ぎ気味であったがさわやかに目が覚める。もっとも少し胃炎気味。今日で正月休みもオワリ。早かったような、ゆっくりしたような。朝食はホットプレートを持ち出してパンケーキとベーコン、卵などを焼く。テレビで孫正義とか堺屋太一とかがネット社会がいかにすばらしいか、ということを得々と説いている。どうも絶賛すぎて信用できない。世の中、絶賛屋、変化屋(“これで世の中は変わるんです!”)、新時代屋(“新時代に対応できない人は消えていくしかない”)ばかりで、最近飽き飽きしてきた。

 10時ころ、S氏なる人物が年始がわりに来訪、父の霊前に花を供える。私は初対面。母とは親しげに話しており、どういう人かと首をひねる。コーヒーを出すと恐縮したように“いつもトンデモ本、読んでおります〜”と頭を下げる。上品ぽい顔立ちとしゃべり方の人で、建築関係の会社に勤めてているそうだが、はて、と思って脇で母との話を聞いていたら、“いや、いよいよオリることになりましたよ”とニコニコほほ笑みながら言う。“150億ほどなんだけど、正規な手続きをとると半分の額になっちゃうもんで、裏金として出ることになった”とか言うので、アッとわかった。M資金がらみで、いつぞや、母に2億あげるからね、といった人である。なんでも、今日もこれから千歳へ行って、その金の引き出しの関係者に会うんだそうである。本当は去年の30日に引き出せるはずが、大雪で飛行機が着陸できず、とうとう仕切り直しで年を越してしまったそうである。ここらへんの、いよいよ、と期待を持たせておいて必ずアクシデントが起きて出るものが出ない、というのは十年前のバブル末期に、小野伯父がルイーニの聖画を買う金を待っていたときと同じである。

 面白いので聞いていると、この金のことをある者はM資金といい、ある者はまた別の名前で呼んでいるが、その実は皇室の金だそうである。終戦の時に皇室の財産を進駐軍から守るために海外の銀行に隠した資産が数百億あり、その一部が今回、戻ってくるという。戻るにしろそれは皇室の金であるはずで、S氏がどういう繋がりでこの金を受け取れる立場であるのか、母もなんべん説明を聞いてもわからないそうだが、ともかくS氏がこの話を初めて言い出したのは一年ほど前で、それがいままで延びていたのはなにしろ大金なもので、右翼左翼ともにこの金をねらっていて、関係者の会合も簡単にはもてない状況だったからだという。また、この間は日銀が横ヤリを入れてきたそうで(この金が入っているのは三菱銀行の地下金庫である)、日本で一日に動く現金の額というのが5000億円であり、その3パーにあたる150億円を一度に引き降ろされると金融バランスが不安定になるという(現金で150億を持って帰るつもりらしい)理由で、日銀がゴネているという。K子も台所で興味シンシンでこの話を聞いていたらしいが、とにかく、何か正月らしいスケールの大きい話で、イイものを聞けた、という感じになった。本人はこの話のためにだいぶ財産をスリ減らしてしまっているらしいが、聞いている分には実にオモシロイ。

 昼はノーザンクロスのIさんと一緒に、家の近くのラーメン屋『てつや』に行く。ずーっと以前、ここはビデオレンタル屋で、私もよく利用していた。不法コピー商品をレンタルしていて、店長が逮捕されたのも覚えている。その後もショボショボとビデオ屋をやっていたが、しばらく前にこのラーメン屋になり、有名店として行列ができるほどだという。Iさんはラーメンに関してはマニアで、これまで数軒、おすすめのところを教えてもらってハズレがない。K子と3人、11時半という早めの時間に入ったが、それでもちょっと並ばされた。塩チャーシューを頼む。チャーシューはさすがにうまいが、汁はやや塩気が強すぎる感じ。

 そこからIさんの車で、苗穂にある自家培煎コーヒーの店、宮田屋へ。ここは以前はタマネギ倉庫だったそうで、その外観を生かして喫茶店にしている。ストロング・コーヒー(うまかった!)を胃を気にしつつ啜り、三人で出版ばなし。コミケについてIさんに二人でレクチャーをして、ひええ、とオドロかせて楽しむ。

 帰宅、少し休む。北海道新聞夕刊に載っている私の書評コーナー、写真がちと古すぎる。メガネが二代前のである。新しい近影を送ろう。東京へ帰る支度をする。K子は談之助師匠に電話。立川流本家同人誌、売れ行き好調で増刷するとか。景気よくて 結構なことである。

 6時にタクシーを呼び、すすきのへ。かに料理チェーン店『かにっこ』で古本屋さん連と飲み会である。最近K子の男前でデビューを果した(笑)須雅屋夫妻、じゃんくまうす夫妻、薫風堂、それと古本屋さんではないが志摩さん夫妻。カニというのは食べている者を無口にさせるというが、このメンツにはカニもかなわず、という感じで、貧乏ばなしから本関係の話、播磨屋のおかきの話、サハリンばなしなど後から後から話題が出てきて、酒も話も大はずみ。飲み足りず、隣のソバ屋で焼酎のソバ割飲んでさらに話す。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa