裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

28日

木曜日

ロダン「金が要る人」

あれはどこから借金しようか、と考えている図で……。

※朝日書評原稿 キョウカちゃんインタビュー

目が覚めたら5時半。
資料本にちょっと目を通していたら止まらなくなり
7時近くに。あわててまた眠ったら、
半睡半覚状態で夢を見て、半分は脳が覚めているものだから、
登場する人物たちが、自分の思い通りに動く。
柱などが全部真っ黒に塗られている大きな日本家屋を
舞台にして、そこでバンドみたいなものが演奏しているのだが
その登場人物たちに、
「ああ動け」
「こうしろ」
という念を送ると、その通りに動く。
ただし半睡でもあるので、確実に思い通りには動かない。
「ああ、そうじゃなくて!」
と思うこともあり、ロボットをゲームで操縦しているみたいで
実に面白かった。

ゆうべ、右足の足首の内側に、かなり大きな赤アザが出来て
いるのを発見。21日に丸ノ内線の新中野駅の階段でコケて、
そのとき右足をしたたか打った。
それから右足がむくんで困ったが、あれは腫れだったのだと
思う。で、腫れ(むくみ)がやっと取れた時期に、内出血が
確認できたわけか。

9時20分朝食。
如例、バナナヨーグルトジュース、トマトジュース、
バナナ1本。
予定いろいろ立てねばならぬこと多し。
しかも秋口はどんどん新予定つまる。
オノから某タイアップ広告のお仕事オファーの件。
これも、OKであれば撮影が数日中というあわただしいもの。
その広告の品が近く大量に送られてくるらしい。
困るものではないけれど。

部屋の空気入れ替えのために雨戸を開けっぱなしにしているが、
雨の音が最初のザーザーから、昼過ぎにはダダダダ、に変わる。
この夏、前半の猛暑から一転して後半は雨の多い冷夏になった。
分水嶺がコミケのあたりか。

朝日新聞書評、書き出す。
これが書いていて実に楽しいが、また難しい。
およそ最も朝日で書評するのにふさわしくない内容の
小説だろうと思うのだが、読んで面白いったらない。
以前の私だったら嬉々としてアブナく書いたろうが、
そこはそれ、もう50なのだからオトナ的に書く。

メールが自宅を出るギリギリになり、
バーバラに電話して15分ほど遅れる、と言っておく。
渋谷マンション地下『ベラミ』で、キョウカちゃんの
夏休みの宿題である、自分の回りにいる人へのインタビュー
記事を作成する、というものに答える。
「なぜものをかくしごとになろうとおもったのですか」
「なぜものをかくしごとのひとなのにテレビとかにでているのですか」
などというもの。

もちろん、小学生相手だからそれぞれわかりやすいように答えるが
モノカキになると決めたのは小学校の5年生くらいのとき、
と答えたら“早いんですね”とびっくりされる。
「私なんかまだ、将来のこと何も決めてません」
「まあ、そうかもしれない。ぼくの場合、段階があったんだな」
「段階?」
「弟がいてね、マンガ家になっているんだが、これと昔、共同で
マンガをノートに描いていた。一人が描いて、飽きるともう一人が
描き継いで、という形で。将来は兄弟で藤子不二雄みたいな
コンビマンガ家になろう、と思っていた。で、最初はこっちの方が
明らかに絵がうまいんでリーダーシップが取れていたんだが、
小学5年生くらいになると、それが逆転してくるんだな。
仲間うちなら嫉妬をバネにこっちもうまくなろうと練習するんだろうが、
弟相手だと嫉妬もできない。次第にこっちは、キャラクター設定とか
ストーリー設定とかに回るようになっていった。
で、しまいにマンガ家になるのはあきらめて、文字だけの
仕事になろう、と方針転換したんだよ」
「じゃ、ザセツなんですか」
「ザセツだねえ」

実際には、この時期に北杜夫のどくとるマンボウシリーズに
出会ったこともあって、エッセイの面白さに目覚めたという
ことが最も大きいのだが、小学生に北杜夫といってもわからない。
「星新一なら知ってる?」
と訊いたが知らないそうだ。
ライトノベルはかなり読んでいる子なのだが……。

「あと、テレビに出るってのは完全に書くものの宣伝のため。
いまだにテレビの人間って意識は全くないんだな、世間では
そう思っているかもしれないけど」
「テレビは嫌いなんですか?」
「嫌いじゃないけど、自分に合ったメディアではないと
思っている。だから、ソレ用に人格とかを考えて作るね。
テレビに出ている僕はテレビ用に作ったキャラの唐沢俊一なの。
これも出てみると面白くてね、出てしばらくは街を歩いても
みんながエッと思って振り返ったり、握手求めてきたり。
自分の作ったキャラが浸透したってことだから、そういうこと
ひとつひとつがデータとして興味があるな」
「データって何のデータですか」
「宣伝媒体としての効果というデータだね。で、わかったのは
やはり宣伝には最強のメディアだということね、テレビって。
だから注文がきたらホイホイでます」
「嫌いなのに?」
「好きなことやって金稼ぐのは趣味っぽいんで、どこかに
罪悪感がある。嫌いなことで金を稼ぐのは、これはお仕事だ」
「……よくわかりません」
「うん、まだわからないだろうなあ。そのうちわかるよ、君も」

インタビュー終り、別の企画立ち上げのこと母親(インタビュー
中は“私がいると口出ししてしまうから”と席を外していた)の
バーバラとちょっと打ち合わせ。
しかし、次から次へと企画を出してくる人だなあ。
店のテレビで、片平なぎさ主演の警察もの再放送が流れていたが、
深浦加奈子が出ていた。死去を受けての追悼放送だろう。
なかなかしゃれたことをする。

仕事場で、朝日からFAXされていたゲラに赤を入れて戻す。
電話N氏からあり、大変面白かった、と。Tデスクはやはり
ちょっと頭を抱えていたとのことで、すまんこってす。

原作用の資料を探し、やっとひとつ、コレハというもの
見つける。バスで帰宅、窓から通りを見ているとつい
「♪こんなせまい、バス通り裏にも……」
と古い歌を口ずさんでしまう。そう言えばこの曲の作曲者
服部正、今月2日に死去、100歳。
他に代表作は『ラジオ体操第一』、黒澤明『虎の尾を踏む男たち』
『わが青春に悔いなし』などの劇伴。
日本での訃報ではどこも触れていなかったが、アメリカで報じられた
記事にはちゃんと、“初期(1940年代)の日本の漫画映画に
音楽をつけていた”と書かれているのに感心した。
横山隆一の『上の空博士』、正岡憲三の『すて猫トラちゃん』、
50年代だが川本喜八郎と持永只仁の『ビールむかしむかし』などに
音楽担当として加わっているのである。日本のアニメ草創期を
支えた一人、とも言えるわけだ。日本はアニメ大国、などと夜郎自大に
称しているが、こんなことも報じられない。

幡ヶ谷で降りてスーパーで買い物、
またバス待っていたら大雨が降りはじめたので、
タクシー拾って帰る。

大雨となり、これは被害出るだろうなあ、と怖くなる。
気圧乱れて仕事出来ぬと放棄。
夕食、豚タンを45分茹でたものにニンニク味噌つけて。
野趣満喫。それと明太奴。ホッピー四杯、無字幕DVDザッピング。
わけのわかるものもわからんものもあり。

1時ころ就寝。談笑さんから嬉しいメール。
あと、某件がらみの情報メール来て、大いに笑う。
雨、深夜に入ってなお繁し。とはいえ、修理が効いたかいまのところ
雨漏り再発はなし。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa