裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

木曜日

修羅場の鬼太郎

水木先生! 〆切三日過ぎています!

※楽工社打ち合せ ラジオライフ写真撮影 プロット原稿(あと少し)

二つの夢を入れ子構造で見る。
ひとつは、父と母にテレビの録画を命じられるが、
テレビのリモコンがどうしても出て来ず、
もう使わなくなった古いリモコンは山のように出てきて、
カンシャクを起こすという夢。
もうひとつは、仕事を手伝ってくれた若い連中十人くらいを
引き連れてジープみたいなオープンカーで
打ち上げの店に向かうというもの。
これらが交互に出てくる。
まったく二つの夢には関連性がないが、どうも
最初の夢でリモコンが見つからないのは、引っ越し準備を
していてダンボールに間違ってリモコンを入れてしまった
ような設定であり、次の夢で若い衆に手伝ってもらったのは
事務所の引っ越しであるらしい。
引っ越しに関連することへの言及があると、そこで二つの夢が
リンクし、別の方へと飛ぶようだった。

朝8時45分起床。
春らしい好天気。
昨日までの件で各関係者から続報などいろいろ入る。
「そーりゃー違うだろー」
という感じの報告もあり。
致命的なトラブルでは全くないのが救いだが、
解決には時間かかりそうだしめんどくさそう。
まったくそれとは関係なくA社との打ち合せも
やりとり。

石井桃子氏、2日に死去の報。
私が最初に“文章”を好きになった人は、この人だった。
『ゆかいなホーマーくん』を小学2年生くらいのとき、それこそ
本がボロボロになるまで読みふけった。
ロバート・マックロスキー・作で、翻訳者が石井桃子だった。

次に“いい文章だなあ!”と感嘆したのは『ドリトル先生航海記』。
「これはしたり!」
「なぜというに」
などというクラシカルな言い回しがいまだに好きなのもこの本の
おかげだ。訳は井伏鱒二で、さすがだと思い、確か谷川俊太郎も
新聞の広告で
「作者のヒュー・ロフティングというのは井伏鱒二の筆名では
ないかと思うくらいの名訳」
と賛嘆していたが、実はこの訳文も石井桃子の手になるものだった。

やがて幻想文学にハマる年ごろになると、H・リュイス『とぶ船』、
イディス・ネスビット『砂の妖精』、ジョン・メイスフィールド
『夜中出あるくものたち』などを古書店で探し回った。
もちろん、訳者は石井桃子だった。

私は異国としての外国を石井桃子の文章を通して想像し、創造して
楽しんでいたのかもしれない。
それにしても、今思い返すと、これらの作者たちいずれも、
名前からしてユーモラスだったり幻想的だったりする人たち
ばかりではないか。

ひょっとして、この人たちも全員、石井桃子の筆名だったのでは
ないか、そんな気がしてきている。
101歳。
年齢に不足はないが、とても悲しい。

一時間くらいで書き上げようと思ったプロット、
何とこれで二日目に入ってまだ書き上がらない。
いや、何だか面白くなっていろいろ書きたし書き直しを
するからなのだが、そろそろ他の仕事に影響が出始めている。

昼は弁当、牛肉の佃煮と、タマネギの炒め物。
これが繊切りのタマネギをソース味で炒めただけの、シンプルと
いうか貧乏臭いというか、そんなお菜なのだが、実にうまい。

2時半、家を出てバス。新宿経由渋谷行き。
今日は乗り継ぎがうまく行って、ジャスト30分で渋谷に到着。
ベラミの前で律義に立って待ってくれていた楽工社Mさんと
落ちあい、打ち合せ。バーバラからテープ起こしが上がった
あとのスケジュール打ち合せ。
あと、もう一件、ちょっと頼みごと。

1時間弱で打ち合せ終わり。
仕事場に戻りプロット続き。
4時、ラジオライフTくん来。
足を痛めたとかでちょっとひきずっている。
連載の新クール用写真撮影。
そのあとしばらく打ち合せ、単行本の件など。
さらに雑談。

以前仕事した某ムックから、またインタビュー依頼。
こういう重ねてのインタビュー依頼はありがたい。
今日はお肉くんの個別送別会なのであるが、
それまでひたすらにプロット原稿。
めんどくさい関係の連絡しながら。

プロットはどんどん進むが、
あと一歩のところでアイデア出しに躓き、明日、ということになる。
なぜ躓いたかというと、最初に出して書き進んでいたアイデアが
偶然にもあまりにSFチックでハリウッドチックだったため。
他の作家さんが書くのならそれでいいが、私が書くものとしては
カッコ良過ぎなのである。
読者が唐沢俊一に期待するのは、もう少しレトロで、ダサいものを
あえてやる話、のはずなのである。
いわゆる“デチューニング”が必要になったのであった。

7時18分のバスで幡ヶ谷に向かう、はずがバス停に早く
着き過ぎて、8分のバスが来てしまう。しかも、こないだ笹塚行きに
乗ったときはなかなかバスが進まずギリギリ到着だったのに、
今回はオノがどうしちゃったんですか、と呆れたくらいスイスイ
進む。ふと気がつくと、初台あたりの道路工事現場が今日はひっそり
としていて、人影もない。工事用車両の姿もまったくない。
暫定税率期限切れで、道路整備工事がストップしている(オノは
ぜったいに嫌がらせですよね、と言っていたが)のである。
ふうむ、こういうところで直接しかも覿面に自分のスケジュール等に
影響が出てくるとは思わなかった。何か面白い。
結局、風が吹けばならぬ“国会が捻じれればバスが早くつく”で、
30分以上早くついてしまった。
幡ヶ谷チャイナハウス。

しばらく、青島ビールのプレミアム(氷入れて飲むと大変うまい
ことを発見)と中国風ジャーキーつまみながら、しばらく
みんなを待つ。隣の席の男連が、手をはたく、歌い出すなど
やたら動作が派手だと思ったら、オカマちゃんの集団だった。
神奈川タクシー運転手殺害犯のオラットゥンボウスン・ウグボグと
いう名前についてなど。UMAみたいな名前だ。

やがてマド来て、助くんお肉くん来て、秋田帰国を送る乾杯。
遅れてミカリンも参加。いつもの焼鶏から始まって、黄ニラ炒め、
ツルムラサキ、菜の花炒めなど、野菜類多し。ナマコとアミガサタケ
の炒め物も。もっとも、鹿肉ナッツあげなどもあり。
今日のメインは、みんなが来る前にマスターが嬉しそうに
報告してくれた。
「今日のスープはね、西表島で取れた・・・・・・」
「エッ、山猫?」
「オレも山猫だったらよかったなー、と思うんだけどね、
あかじんって魚のこんなでっかい頭。それと鶏の足のスープ」

あかじんというのはフルネームがあかじんみーばい。
別名スジアラ、ハタ科の高級魚だそうである。
たしかにスープは濃厚、身は蛋白だがコクがある。
後で、その目玉などのアラのショウガ味スープも出てきた。
これをチャーハンと一緒に食べると激うま。

お肉くんの性癖(?)ばなしも出て、いや、盛り上がった。
11時半のカンバンまでいて、中央線沿線のお肉くん、ミカリン
の二人をタクシーで送る。お肉くん、楽しそうに車中の人と
なったあとで
「あ、カバン忘れた!」
携帯から何から全部入っているカバンだったそうである。
いくら楽しかったとはいえすっかり忘れるなよ、と呆れて大笑い。
すぐチャイナに電話して、取り置いてもらうように依頼する。

帰宅、メールチェックしようかとパソコン立ち上げたが、
いや、まあ面倒くさいことは明日以降に考えよう、とまた落として
すぐ布団に潜り込む。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa