裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

7日

日曜日

古典落語『キッチュ』

松尾貴史が駕籠の戸をあけると鍛冶屋が真っ赤に焼けた鉄を水にずぶりと。
“キッチュ〜”

※浅草東洋館『やれば出来るぞ、古典落語!』の会出演

昨晩帰宅は4時過ぎ。
朝、さすがに目は9時に覚めるも起き上がる
ことまるでかなわず、母に電話でもう少し寝かせてくれ
と頼んで、結局起きだしたのが11時半。
母が頭を嗅いで“何とも言えない腐ったような臭いがする”
と言う。汗と肉の脂とニンニクと、店に充満していたタバコの煙が
混じったニオイであろう。

朝食はスープと果物、
ベトナムの結合双生児、ベトとドクのグエン兄弟の片割れ、
ベト氏死去。26歳。ニュースで“ベトさん、ベトさん”と
言うのが気になる。“ベト氏”でいいじゃないか。
妖怪“べとべとさん”を連想してしまう。
自室に帰ってすぐに入浴、
髪と体をゴシゴシ洗う。
日記つけ、今日のネタのまくらに使う事項の裏を
ネットで確認。

『エンサイスロペディア』のチェックにさらにチェック。
『ピュンピュン丸』をついうっかり『花のピュンピュン丸』
(アニメ企画の段階のタイトルで再放送時からこうなったはず。
本放送は途中で打ち切りになり、全話放送されて人口に膾炙
したのはこの再放送以降なのでこっちで浸透しているようだ)
と書いてしまった。しまったからどうというものではないが。
http://jp.youtube.com/watch?v=5lFNi4VOLM4&mode=related&search=
↑オープニングと
http://jp.youtube.com/watch?v=OfQZ512vVUc
↑エンディング。ヒジョーになつかしーい!

昼は母があまったご飯で作ったおむすび。卵焼きの味が
もう感動的。メールやりとりいくつか。
なんだかんだやっているうちにもう4時過ぎになる。
寝坊すると一日が早いのなんの。
浅草東洋館『やれば出来るぞ! 古典落語』の会へ。
見に行くのでなく、出演である。

丸ノ内線で新宿、そこからお茶の水までJR、
タクシーで浅草(浅草までの最時短コース)。
驚いたことに東洋館前にはもう入場待ちの列。
ブラック師匠に
「今日は『紀州』ですッて? ズルいところ狙いますねエ」
と言われた。地噺だから、そう稽古しなくても出来るわけ。

川上史津子さん、かなり緊張気味。
「何演(や)るんです?」
と言ったら
「『文違い』です」
と。いきなり大ネタだなあと驚く。

東洋館の裏はもう、それは
複雑な作りで、幽霊でも出そうで面白い。
いきなり、思いも寄らないところから鯉朝さんが出てきて
驚いたり。
楽屋で白鳥さんとしばし話す。
こないだ初めて大須演芸場に行って、そこも楽屋裏が
奇々怪々な作りで、実際幽霊の出る部屋などがあるらしい。
中学生相手に喬太郎と講演を頼まれたときの逸話。
白鳥さんは“落語は日常の面白いことを拾う仕事だ”
と、聴衆の中学生にマイクを回し、“最近経験した面白いことを
話してみなさい”とやって大盛り上がりにさせたという。
喬太郎がそれを見て
「アニさん、うまい手を使いますねえ!」
と感心して、自分はというと
「生意気な連中なんでちょいとシメます」
と、みっちり『もう半分』を聞かせたそうな。
二人のキャラクターが如実に出ていて面白い。

IPPANさん楽屋に来て、昨日の報告。
『奇想天外シネマテーク』、やはり昨日はこれまでで
最高の入りだったそうな。次回は年明け。
昨日今日と入りのいい会に参加できて満足。
しかし、この会、ブラックが看板なので前座も二つ目も
使えない(ブラックの新弟子はいるがまだ高座のことが
出来る状態でない)。真打ちの鯉朝さんや談之助さんが
いろいろ走り回って、拍手まで貰っていた。
川柳(かわやなぎ)の師匠、飄々として入ってきて、いきなり
「アレはなに、月一くらいで出てるの?」
と話しかけられる。『ピンポン!』見ているらしい。
「いえ、お座敷がかかったときだけ出ていくんです」
「要するに野だいこだネ」

客入り上々、ブラック師匠も上機嫌。
開口一番が次の仕事があるという白鳥、大阪で聞いて、
米朝全集で覚えたという、東京風とはちょっと違う
『看板のピン』。もっとも白鳥が演じると何でも白鳥風。

次に鯉朝。トンデモの会だともう、楽屋では馬鹿ばなしばかり
だが、一応今日は古典の会なので、廊下で鯉朝も談之助も
真面目な顔で噺をさらっているのが面白い。
鯉朝は『桃太郎』。いや、こんな噺でも以前のオドオドした
鯉朝とは大違い。貫目がついてきたというかなんというか。

次ぎがいよいよ川上史津子ちゃん。
やはり上がっているのか、声が小さく消え入りそうで、
袖で聞いていてハラハラ。
とはいえ、そこはベテラン女優、後半になるに従い
きちっと語れるようになってきた。
それにしても、本職の役者さんが落語をやると、
落語と演劇の演じ方の違いがはっきりして面白い。
落語は役柄が三分から四分、残りは演者がそのまま出るが、
演劇はほぼ完全にその役になりきることが求められる。
最近は、若手の本格派と呼ばれる噺家も演劇風に演じる
人が多くなったが。

川柳師匠が中トリ。冒頭に差別用語ネタをさんざ振っておいて、
なんと『首屋』。終ったあと、廊下で
「ロレちゃったよ、慣れねえことやるとダメだね」
と苦笑しながら。

しかし、濃い会になりつつある。
全員がウケる。私はヒザ、と快楽亭に言われたが、そんな
深いところで大丈夫か、ちと不安になる。
後半はまず談之助、談志直伝『朝鮮人の代書屋』。
北朝鮮への渡航証明、なんて、作られた時代がよくわかる
落語である。

その後、鯉朝さんに釈台を置いてもらい、いよいよ
私の番。高座着に着替えて、と思っていたのだが、
帽子をかぶって和服というのはカタチにならないので、
普段着のまま出る。
……講談とかトークはよくやるのだが、落語を演じるのは
実は15年ぶり(金沢でのSF大会で『火焔太鼓』のパロディの
『火焔アニメ』ってのを演じて以来。それを聞いた藤倉珊さん
がと学会結成のとき、唐沢さんを入れよう、と山本会長に
進言してくれたというわけで、私にとって意義ある高座だった
わけである)。

客席も温まっているし、上ずりもアガりもせず、
ブラックの心臓発作のネタから初めて、デブネタ、相撲ネタ、
ちょっとアブない皇室ネタ、そして子供がなかなか
生れない家系ということで徳川将軍家8代までの
“将軍家ホモネタ”に入る。これは私のオリジナル。
家康から始まって、家継までの7代の将軍伝をやおい風に語っていく。
これは今回自分で作って改めてわかったのだが、『紀州』ってネタ、
同じ地噺でも『源平』なんかと違って、本筋はもう、
ホンのちょっとしかない噺なんである。
そこにどう、地のギャグを織り交ぜていくか、なのだが
『NHK落語名人選』での円生のテープ聞いても、
ほとんど本筋には関係のない話ばかりしている。
すこしは大名とか、お世継ぎに関係ある話をしようと思って
作りだしたもの。

まずまず、ウケて途中で手も来て、気分よく話しながら
『紀州』に入っていく。本筋は円生のにそのまんまだが、
“耳の迷い”のクスグリはこれもオリジナル。
お客さんに助けられて何とかオチまでたどりついた。
まあ、我ながらかなりうまく行った、と満足しつつ
高座を降りるときに、アッ、しまった! と内心叫ぶ。
将軍家ホモ話のオチに入れて置いた、大きなギャグを
すっぽりと抜かして吉宗話に入っていってしまった。
聞いてる方は気がつかないミスだが、やはりアガって
いたんだろうなあ。

トリは快楽亭の『七段目』、これはズルうございますな。
趣味と実益を兼ねたネタで、いつもやっているネタなんだから。
……しかし、好きこそものの、というがここまで歌舞伎ネタで
入れ込んで楽しそうに台詞を“再現”できる師匠は現今
他にいるまい。最後のオチは高座から転げ落ちて、
そのまま高座の脇で言う。談之助曰く
「昔はホントに客席にまで転げ落ちていたんだが」
と。柳橋の『湯屋番』ですか。

終って、オノ&マド、アスペクトKくん、三才のTくんなど
いつものメンバーの他、来てくれた方々に挨拶。
なんと石森史郎先生も見えていた。
サインなども頼まれて応対。

打ち上げにはrikiさん、しら〜さん、睦月さんなど
のメンツ入れて20人くらい。焼肉の『寿門』。
二階の座敷を貸し切りにする。通常、こういう打ち上げの席を
仕切るのは談之助なのだが、ここの店の娘さんが
談之助のターゲットにドンピシャ、また彼女もなついて、
何かあるとすぐ
「おじちゃーん!」
と呼び出しがかかり、そうするとまた、どんな大事な話を
していても談之助、
「はいよ!」
と駆け出すという騒ぎ。
常連客の方がいろいろ立ち働いてくれていた。

川上史津子ちゃんの友人の女性たち、それから弁士の
坂本頼光くんなどの近くに座り、
いろいろと話す。女性陣、私の噺を絶賛してくれて気分よし。
川柳の師匠からは
「あなた、あれだけのマクラが出来るんだから、そこからは
スンナリ『紀州』に入った方がいい。あんな(耳の迷いの)
クスグリはいらないヨ。せっかく上手く演じてる噺の品格を下げる」
とお小言を頂戴する。

いや、驚いたがまるで円生のようなお小言だった。
この師匠の口から“噺の品格”という言葉が出ようとは。
虎の縞というか、やはり川柳師匠も一皮むけば三遊派なのだ
なあ、とちょっと感動。ははーっ、と平伏して承る。
とはいえ師匠、その後、女性陣相手に
バイアグラのんでオナニーした話だとか、トイレに行って
朝鮮の女の子と仲良く話した話だとか、品格も何もあったもんでなし。
おまけに中締めを頼まれて、
「お・ま・ん・こ、お・ま・ん・こ、お・ま・ん・こ〜」
と。凄いことになった。

睦月さんは睦月さんで、史津子ちゃんから、抜けた銀歯を
もらったり、鼻をかんだティッシュをもらったり、
相変らず。しかし女性陣がそこは川上史津子の友人で、
まるで引かず、キャアキャアと喜んでいるのが時代である。
快楽亭から、クレヨンしんちゃんの件で『アエラ』から
インタビュー受けたという話。
談之助とは、こないだの新橋のライブハウスで何かやろう
という話。
鯉朝さんとは、11月の落語会出演の話。
鶴光師匠や、ひさしぶりに笑福亭たまさんともご一緒。
なかなか楽しみである。
11月13日、池袋芸術劇場小ホールにて。

11時半、お開き。近来になく盛り上がった打ち上げだった。
ワリをいただき、さらに飲みに行くという睦月さんや川柳さんと別れ、
談之助さん、しら〜さんとタクシー相乗りで帰宅。
タクシーはしら〜さんにおごってもらう。今日は芸人モード
なのでありがたくご好意いただいておく。
今日は出演者なので打ち上げも持ってもらったし、ほとんど
金を使わない日だった。

※写真上左から、ごきげんの川柳師匠。なぜか話しながらズボンの
チャックがどんどん開いていって女性陣笑い死に寸前。
※こちらもごきげん、打ち上げ放ったらかしで少女と遊ぶノスケ師匠
※下は快楽亭、頼光さん、川上史津子さん、マイミクまちゅくみさん。
上二つはrikiさん撮影、下のはまちゅくみさんの日記から拝借。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa