裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

5日

金曜日

エルガイムの悪夢

夢の中に重戦機が現れて……。

※電話打ち合せ 『エンサイスロペディア』原稿

朝8時半起床。
入浴、服薬等。
トイレ読書はこのあいだより尾佐竹猛『下等百科辞典』
(腹書房)。一項目ごとに面白いのなんの。

朝食9時、アレキサンドリア、リンゴ(酸っぱい)、
ブロッコリのスープ。
メールチェック、アルゴピクチャーズから打ち合せ日程
の催促。

日記つけ、スケジュール組み等いろいろ。
あいまを縫ってサイエンス・アイ新書『深海生物の謎』。
エゾイバラガニが、深海に沈んだマッコウクジラの脳油を
食べる写真のキャプションに曰く
「脳油は柔らかいが、繊維状のものが中にあって、
ちぎろうとすると、みちみちずるずる伸びてくる」
“みちみちずるずる”というオノマトペが面白い。

昼は最近ハマっているパストラミ・ビーフ・サンド。
冷蔵庫に入れておいたライブレッドが半ば凍っていたので
軽めにトーストしたら、これがよかった。
パストラミは当たり外れがあるが、やはり鎌倉ハムのものが
おいしい。pastramiというのはpastoral(田園風、田舎風)が
語源かと思ったが、mixi日記のコメント欄でマイミクの
しんじさんからご教示、英語版のウィキペディアによると
オスマン帝国版図の肉料理、「Pastırma」がイディッシュ語の
「pastrómeh」を経由して、英語「pastrama」になったそうな。

語尾が「mi」になったのは1887年に、ニューヨークのユダヤ人
商店が始めたことで、「サラミ」のような語感で売ろうとした
のではないかということだった。
「Pastırma」の語源は、トルコ語の「bastırma et」で、意味は
「pressed meat」とのこと。勉強になるなあ。

3時、事務所へ。昨日の“大阪に来てくれ”の仕事、
いろいろ談判の末、東京での電話出演になる。
スタッフと電話で打ち合せ。製作プロダクションから番組の
スタッフに受付が変わったとたんにスイスイと話が通じる。

テレ朝の某バラエティ番組から出演依頼。
顔を売る仕事は歓迎だが、そうそうこういう番組のヒト、
になってしまうのもどうかなあ。
悩ましいところではある。

『パチスロ必勝ガイド』エンサイスロペディア原稿。
70年代オカルトブーム発生の当時の回顧で、
書いている本人は面白い。
書き上げてメール。

バーバラが飲みに行きましょうというので、7時半に
オノと三人で東中野のちゃんこ『北の富士』。
ここも昭和の中途半端さ濃厚な店。
力士の手形や写真がずらり、なのに流れているのは
有線の歌謡曲だったりという。
しかし、このあたりの凝りすぎなさ加減が実にいい。
酒くらい気負わずに飲みたいときがある。

こっちが食べている途中に、20代の男女の集団(20人ほど)
が入ってきた。話の内容からどこかの専門学校の同窓会らしいが、
20代半ばのこういう会だと、女性はもうきちんとしたおしゃれ
をして社会人ぽいが、男性はまだまだガキの装い。

つみれちゃんこで焼酎ワンボトルあけていい心持ち。
酔ってワルノリで
「もう一軒行こう、オレの女性観、恋愛観を講義してやる」
と宣言するが、オノが
「いえ、聞きたくもないです」
と、こっちをタクシーに押し込む。まったく。
11時半、帰宅。

ところで、昨日北村弘一氏の訃報を受け、ちょっと
気になって各サイトの訃報欄をチェックしたら、凄い訃報を
見逃していた。まあ、まず下の写真を見て欲しい。
この美女を誰だとお思いか。

実は『ドクター・ノオ』から『美しき獲物たち』まで、14作の
007映画にMの秘書、ミス・マネーペニー役で出演した
ロイス・マクスウェル。
昔はこんなに色っぽかったんですねえ。
意外と言えばもうひとつ意外、イギリス人ではなく彼女はカナダ人
なのである。

第二次大戦中、未成年だったが歳を上にごまかしてカナダ軍の
慰問演劇部隊に所属、戦地を回ってコメディ芝居で人気者に
なっていた。
ところが、ロンドンに出向いたところで年齢詐称が発覚、
カナダへ強制送還されることになったが、その収監中に、
ロンドンのマウントバッテン財団による演劇人養成奨学金試験を
受験したというのだから度胸がある。

面接試験で口ひげをつけてコミックソングを歌ったところ、
審査員からアンコールが来たほどの受けを取り、一発合格。
大喜びでホテルに帰ったところを脱走罪で逮捕されてしまう。
即日送還で軍用機に乗せられるところを、マウントバッテン卿が
じきじきにカナダ軍総督に談判してくれて、イギリス留学が
認められた。
マウントバッテン卿は祖国に貢献した。
やがて彼女は英国に多大な外貨を稼がせる映画『007シリーズ』
の人気キャラクターとなって、英国に大きな恩返しをしたのである。
ちなみに、このとき合格して共に王立演劇学校で学んだクラスメート
に、後に3代目ボンドになったロジャー・ムーアがいる。

マネーペニー以外ではテレビ『謎の円盤UFO』(レギュラー陣の
ほとんどが007シリーズへのゲスト出演歴がある)のゲストや、
人形劇『スティングレイ』のヒロイン、アトランタ役の声で有名、
またロバート・ワイズの『たたり』や、スタンリー・キューブリック
の『ロリータ』などでも彼女の演技を見ることが出来る。

一時期ハリウッドに渡り、役者時代のロナルド・レーガンとも共演
作があり、さらには『ライフ』の表紙に、“活躍が期待される
新人女優たち”で、マリリン・モンローと一緒に写真が載る。

マネーペニーで有名になった頃、
「ボンド・ガールズがうらやましいわ、私の役なんか色っぽい
ところゼロだもの」
という彼女のグチを聞いたショーン・コネリーが、いたずらで
撮影中に彼女を抱きしめて熱烈なキスを浴びせたところを撮影
させて、彼女のホーム・ムービーにプレゼントした、という
逸話もある。お宝映像で見てみたいものだ。

「気の毒だが、そろそろボンド映画を若返らせたいので」
と、製作者のブロッコリから降板を宣言されたとき、彼女は
「じゃ、こういうのはどう? 秘書が若くなったのを喜んだボンド
がMの経屋に入ると、私が昇進して彼の上司になっているの。
“M is for MONEYPENNY!”って言って」
と答えたという。
このアイデアは取られなかったが、しかし、後にMが女性に
なり、ジュディ・デンチが演じることになったのは、
このときの彼女のジョークが元になったのではなかろうか。

晩年は病気治療もあって気候のいいオーストラリアへ移住していた
という。9月29日、癌で死去、80歳。
いい共演者だったデズモンド・リューウェリン(Q役)の声優、
北村弘一氏の死去でふといやな予感がしたのだが、案の定、
こういうつながりで訃報が。
ご冥福をお祈りします。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa