裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

6日

月曜日

もしもしょうゆがヒゲタなら

まぐろのヅケのたれにして君に食わせることだろう

※ヘアカット 原稿仕事多々 体調不良続く

朝8時45分起き。
寝汗で寝巻きがぐっしょり。
この発汗が体力をだいぶ奪っているような。
入浴、朝食。
朝食も果物だから何とか口に入る、といった感じである。
一泊で温泉にでも逃げるか。

トイレ読書も、難しい戦史ものを放棄して、
古本屋で買ったHPBの『密室殺人傑作選』などにする。
エラリイ・クイーンの『クリスマスの人形』(宇野利泰・訳)
の中にある“いのんどのピックルへ手をのばして”という言葉に
時代を感じる(昭和48年刊)。“いのんど”なんて、これまでの
生涯で一度聞いたかどうか。この文章でも、“いのんど”に
傍点がふられているから、一般的ではなかったはずだ。
すでに私が香辛料に親しんだ時分にはもう“ディル”が通り名に
なっていた。

で、その後でエラリイが“半分かじったピックルを
振り回して”とある。ディルはピクルスの香辛料なので、これを
噛る(しかも米粒みたいな大きさのディルシードを半分噛って
振り回す、などという真似をする)わけがない。つまり、
ピクルスには塩漬けした胡瓜を甘酢に漬け込んだスイート
ピクルスと、乳酸発酵させたプロセスタイプの二いろがあり、
このプロセスタイプの風味漬けにディルを使うのが伝統なので、
これをディルピクルスと呼ぶ。
http://www.so-food.co.jp/hyakka/pickles/p1.html
昭和48年当時、日本ではまだピクルスは一般的でなく、
宇野氏はdillpicklesと(たぶん)ある原文を、“いのんどを
ピックル(酢漬け、塩漬け)したもの”と解釈して訳して
しまったわけだ。

ちなみに、アメリカ人の多くはスイート・ピクルスの方を
好み、アメリカでディル・ピクルスを好んで食べるのは
ユダヤ人なので、ディル・ピクルスは以前はコーシャー・デリ
(ユダヤ教徒のための食料品店)で主に扱っていたという。
クリスマスの日を舞台にしたこの短編で、エラリイ親子が
コーシャーの代表的料理であるパストラミとディル・ピクルスを
食べている(クイーン警視など、パストラミを食べながら
“クリスマスの夜はこいつに限る”と言いかけてやめている)のは
二人ともユダヤ移民の子であった作者フレデリック・ダネイと
マンフレッド・B・リーの皮肉だろうか。
http://www.youtube.com/watch?v=hsBjssW3l6Y&mode=related&search=
↑コーシャー紹介アニメ。

こういうときにヘアカットなどは気分転換で
ありがたい予定。1時、代官山まで。
渋谷から乗ったタクシーの運転手曰く、
来年1月から都内のタクシーが全面禁煙になるのだが、
最近は男性の方でタバコの匂いを気にする人が増えた。
むしろ女性が、外で歩きながら吸えない分、
乗り込むやいなや吸いだす人が多いという。
「女性客の7割が吸いますね」
とのこと。

予約時間きっかりにエド・エド。
洗髪、ヘアカット、マッサージ、セットのコース。
明後日のテレビ収録のため。本来は前日に来たいのだが
火曜日はこの店が休み。
台湾の話をいろいろ。

2時半、カット終わり、腹は減っているのだが
食欲がないという困った状態で、いかにも
代官山というスカしたスーパーで三ヶ入りの
五目いなり寿司を買う。

事務所に出る。
メールいろいろ。
某S・B社に、しら〜さんから送られた企画書叩き台に
少々手を入れたものを送る。これを皮切りに、
今年後半の企画類の、企画書、内容説明、章立てなど
を数本、まとめて書かねばならない。
その前に『プロント・プロント』原稿。
いなり寿司食いながら書く。
さすがに代官山のいなり寿司(関係ないか)で、おいしい。

ミリオンYくんから電話、コラム原稿揃ったが、
あとがき原稿で一部、手直しがある部分のものがまだ、
という。あわてて書いて送る。これが3時半。
ともかくも、これで原稿部分は完全にアガる。

それからまたプロント原稿、案外ネタ出しに苦労し、
5時にネタ5本、揃えて差し出す。
さらに続いてM書房の文庫書き下ろし企画、
これは通俗なものだが、章立てを書いているうちに
面白そうに思えてきた。

楽工社Kさんから電話、へいへいへいと平身低頭。
これは今日は無理。白夜と揃えて明日のことに。
なんだろう、このマシンガンのような催促は。
で、こっちが来るかなと思っていたところからは
連絡ナシ。そういうものか。

M書房のものを8時に出し、かなりへばって家に帰る。
冷蔵庫の中の材料で扁炉もどきを作って、
ちょびちょびと食べ、あとは梅干しとカツブシ。
DVDで『月曜ドラマランド・ゲゲゲの鬼太郎』を見る。
東映の宇宙刑事ものを撮っていた小林義明演出なので
モロに戦闘シーンは東映チックだが、遊び心あふれた
絶妙のキャスティングと凝った映像、原作へのリスペクト
ぶりで、映画版も含めたこれまでの鬼太郎実写もので
一番の出来。

ホッピーで酔って12時、就寝。
すぐ寝つけて朝まで目も覚めず、というのはまだ夏バテ
も極までは行ってない証拠か。寝るというのも体力を
使うものなのである。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa