裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

24日

土曜日

定刻の学習

 勉強はスケジュールを立てて決まった時間にやるのが一番なのじゃ、ルークよ。そのままトーク続けて、5時まで。45分のトークというのは、ロフトプラスワンやっているともう、アッという間である。終わって知り合いに挨拶し、外へ出ると、さすがに11月末の明け方というのは寒い々々。トッパライでギャラをいただく。初めてこういうトークを聞いたという人がサイン求めてきて、“お二人とも普段からああいう会話をなさっているんですか?”と訊く。そうです、と言うとウワア、と喜んでいた。K子と森園さんは“普段の方がひどいわよねえ”と笑っていたが。

 そこでみんなと別れる。われわれはすぐ家に帰れるのがウレシイ。と学会とこの深夜ライブの連チャン、どちらも会場と家が至近であったから出来たようなもの。一時間ほど横になり、6時半、起き出して出発の用意。何かアドレナリンが分泌されそうなハードスケジュール。ぶっ倒れぬよう、麻黄附子細辛湯、アリナミン、それに救心という組み合わせのテンションアップ用薬をのむ。メールチェックして、仕事関係の連絡をいくつか返信し、ビデオ等をバッグにおさめ、7時半、家を出て、タクシーで羽田。車内で新聞読む。連載記事『怪獣誕生』、金城哲夫の“ストーリィが先じゃない。怪獣から発想すれば奇想天外になる”という言葉にバシッと膝を打つ。怪獣モノの真理ここにあり、という感じだった。怪獣映画では怪獣が全てに優先して大事。このことを平成の怪獣映画制作者たちは忘れているように思う。

 空港のレストランで鴨せいろ食べる。使用機はJASで、レインボーシートだったので機内で少しゆったりして休めるかな、と思っていたら、ゲームが設備されている機で、ついやってしまい、結局福岡空港までやり続けてしまった。何なんだ。無事、福岡空港着。飛行機ってのは早い。飛行機嫌いの何とかいった女性が、あれは絶対に体に悪い、あんな短時間で異なった土地については体がそれに慣れる暇がない、うちのキンギョだってこないだいきなり水を変えたら死んだワヨ、と書いていて大笑いしたことがあったが、その考えにも一理あるか、と思わせる。空港にAIQスタッフのいちろうさんが迎えに出てくれて、地下鉄で会場まで。今まで九州オタアミは西新でやっていたが、今度は天神のNTTホールで行われる。ホテルとも打ち上げ会場とも極めて隣接している、便利至極、設備充実の結構な会場である。

 楽屋に通されて、弁当を使い、ユンケルなど飲んでテンションを維持する。ここでひと休みとかすると、体がバテているときはもう、立ち直れなくなってしまう。宵越しのてんぷらじゃないが、あげっぱなしにしとかないと持たない。眠田さん、岡田さん次々と会場入り。眠田さんはもう、例によって福岡ドームに行ってダイエーホークスのTシャツを買ってきている。眠田さんと、と学会の同人誌の話。彼は同人人間だから、まんだらけに会誌を出すのはあまり賛成ではないという。“大体ねえ、サークルにとって、同人誌がまんだらけに並ぶということは、コミケで売り切れなかったという恥ずかしいことなんだから”。これには笑った。まあ、と学会は二刷りから会誌の表紙の色を変えているので、区別がつくだろう。

 岡田・眠田両氏から著作を褒められて、二人とも仲間ボメはしないタイプの人なのでうれしくなる。送った二冊のうち、二人がそろって『すごいけど変な人』を評価しているのが面白い。裏モノなどでは『社会派くん』の方なのだが。岡田さんは『すごヘン』の中の北大路魯山人がいいなあ、と言う。なるほど、権威を一切無視し、人間国宝の指定さえ断って、自分の作品で金もうけすることを考えていた魯山人は、いかにも岡田斗司夫好みの天才である。

 さて、ステージ開幕。いつものことながら、地方公演だと、もうトバすトバす。中央ではさすがにはばかりがあって口に出来ない人のワルクチなどがポンポン飛び出して、最初の挨拶での立ちしゃべりが五分の予定を二十分くらいしゃべってしまう。そこからビデオネタ。私はちょっと今回はオモワクがあって(主催協力のF書店さんにオタク的以外のトークライブを売り込みたいのである)、オタクネタの中心軸からは少し外れた内容のものを主にしゃべる。その分、受けの度合が低くなるかと思ったが案外よく笑ってくれた。

 さすがに途中で二十分、休息を入れた時点で、楽屋へ帰るときにアクビが出、後半はテンションががっくり落ちたのが自分でもわかる。なんとか終えて、サイン会も済まし、天神ソラリアホテルに投宿して、ベッドに転がり込む。ただし、やはり体がまだ公演モードのため、すぐにグッスリとは寝られない。フロントに届いていたフラッシュの原稿チェック(こないだのハリー・ポッターのである。その次のエロポーズのものでなくてヨカッタ)して、それから書きかけの小説の構成を再検討などして過ごす。7時半、ロビーに降りて、光文社にチェック原稿ファックス。

 打上げは天神の鍋屋で。しゃぶしゃぶ、すき焼き、もつ鍋、韓国風モツ焼き鍋の四種類。私は特別に酢もつをオーダーし、スタッフのぴんでんさんが用意してくれた焼酎『魔王』をロックでやる。万歳である。隣は大学祭の打ち上げらしく、無茶苦茶にうるさかったが、もうお開き時分だったらしく、引き上げを開始すると別世界のように静かになった。岡田さんと私(眠田さんは仕事の関係で直帰してしまった)で、鍋をつつきながら“うまいなあ!”を連発。ことにもつ鍋はやはり東京で食べるものとはもつ自体、二段も三段も格が上である。岡田さんはエロの冒険者さんとぴんでんさん相手に男女交際学の講義を始める。演壇で聞けば入場料2500円は取られる内容の独演会である。聞いていてその話術に感服する。もっとも、男女交際について極めて不活発な現在の私には、内容はついていけなかったが。

 岡田さんは途中でバテて先に帰宿。私はお開きまでいて、いろいろ話す。鹿児島出身のZUBATさんは、ぜひ今度鹿児島に来てください、酒も料理も絶対満足させますから、と強調。いっちょ行ってみるか、という気になる。ぴんでんさんは彼女に、“カラサワシュンイチと知り合いだ”と自慢して、“なによ、名前だってまだ正確に覚えてもらってないくせに”と言われたそうな(今まで“びんでん”と表記していたが、ただしくは“ぴんでん”)。つつしんでここに訂正。ぴん氏、それですぐに携帯で彼女に電話していた。なにしろ全員、『魔王』一升瓶一本あけたので何がなんだかわからぬ団体となり、酔っぱらいの一団となってソラリア西鉄に帰りつく。光文社から受け取りました、のメッセージがあった。やれやれ、と床につくが、明日はまた、早起きしなければならない。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa