裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

5日

月曜日

ウォッチャー怪談

 生き変わり死に変わり、ネットウォッチいたさでおくべきや。朝8時起床。朝食、コーンスープ餅、オレンジ。オレンジは苦味あってあまりうまくなし。一応高級品なんだがな。歯間ブラシも新しくしたやつの調子がイマイチである。こういう風に日一日、文句とか不満とかが多くなっていって、その蓄積が飽和点に達した時点で人間、死んでいくのである。うまく出来ているものだ。新聞・雑誌等、届いたものに目を通す。これにもカンシャクを起こしたくなるような記述がいっぱい。ますます自分がジジイになっていくのが感じとれて、うれしくてゾクゾクする。

 午前中、昨日までに書いた講談社原稿と北海道新聞原稿、チェック、一部手直ししてメール。道新には原稿に添え、今後最終回までの内容予定を書いて送った。Web現代の方はギャグがいつもの半分くらいで、果して通るかと心配であったが、担当Yくんから“こういうの、ボクの好みです”と電話あってひと安心。明後日の幸永応援ツアーは20名くらいの大所帯となりそう。おとついの扶桑社のOさんからメール。来週会うことにする。文藝春秋から、こないだオビ文を書いた『韓日戦争勃発?』の見本刷りが届いた。

 昼はパック御飯にタラコ、練りウニ。それにタモギタケの味噌汁。寝ッ転がって、『風太郎の死ぬ話』読み返す。
「もし人間が、文字通りどんなことでもやれる、という空想的独裁者になったとしたら、そのやりたいことの一つに、自分が子供のころの世の中を再現させる、ということがありはしないか。だから、いまもしある地方のある町を、タイムトラベル的にすべて昭和初年の風景、服装、行事で復活させたら、五十男はみんな涙を流しながら馳せ集まるのではないか」
 という『わが家は幻の中』の一節が印象に残る。そういえば、山風の現代ミステリに、このアイデアを利用した『さようなら』という好短編があった。私は大学時代にこれを読んで、ああ、大友克洋(『ショートピース』の頃の、である)にこれを漫画化させたい! と切実に思ったことであった。

 この『わが家は……』が書かれたのが1979年、山風57歳の頃である。人間、ノスタルジー本能を最もかきたてられるのがこの年代であろう。要するに、現実と理想の落差にもっともいらだつ時期である。ついでに言えば、いらだつパワーを何とか温存できるのがこの年代までである。70を越してしまうと、不思議に人は現実に戻るというか、再び“今”を生きるようになる。時間をさかのぼるにも体力が必要ということか。痴呆は困るが、軽いボケは、現実との軋轢を意識させなくなり、かえって人を若返らせる効果があるのではないかと思う。……ボケと言えば、この文庫の解説 を尾崎秀樹(執筆当時69歳)が書いているが、山風の『人間臨終図鑑』のことを、“最後を百歳まで三十七日をのこして去った野上弥生子で結んでいる”と書いてる。あれあれ、と思う。あの図鑑の最後は“百代で死んだ人々”でくくられていて、数え100歳の野上弥生子の後にも、106歳の物集高量、107歳の天海僧正、同じく平櫛田中、108歳の大西良慶、そして120歳(?)の泉重千代まで、5人も後がある。ちょっと考えても、最後が満で100に満たない人で終わるのはおかしい、とわかりそうなものである。ボケがきていたのだろうか。

 SFマガジンS編集長から電話、原稿のナオシを早くもらいたい、とのことなので全10枚(400字詰換算)のうち2枚分を書き直してメール。図版用ブツもバイク便で送る。それから4時、時間割。世界文化社Dさん。世界征服読本前セツ30枚のうち、6枚分をプリントアウトして読ませる。“これからがオモシロイ、というところですねえ〜”と言われた。雑談で寄席の話。神田北陽が山陽を襲名することになったそうだ。講談界、何十年ぶりかの人気者による大看板襲名である。もっとも、山陽という名は実際は神田一門ではそんなに大きな名前ではないとも聞いた。陽司さんにもまた連絡して、来年は二人会を少し頻繁にやりたい。

 7時、四谷荒木町『まさ吉』。サンマーク出版『すごいけど変な人×13』打ち上げ。朝、Tさんから7時とメールが来たので5分過ぎくらいに顔を出すが、誰もいない。アレ、間違えたかと思ったが、お母さんに聞いてみると予約は7時になっているという。すぐ後から来たK子、“きっと半ごろに来るわよ”と怒っている。ホントに半ごろ、井上くんたちと一緒に来て、“え〜、「7時過ぎ」って言わなかったですか〜”などと笑っている。K子、怒るまいことか。それでも、初版部数を聞いて、機嫌が治ったようであった。

 実際、部数は聞いてオドロいた。いや、そんなすごい数ではないが、サブカル系統の本では、ちかごろ暴挙とまではいかずとも蛮勇に属する数字である。予想していた倍近い。なんでも上層部が、試験販売の結果(神田三省堂で即日完売)に舞い上がって決定した数字だそうだが、Tくんは“最初からそんなに刷らんでも”とビクついている。私もビビる。サイン会でも何でもやって、売っていかねばなるまい。井上デザインのスタッフにサンマークの営業さん、それに青林工藝舎の手塚さんまで加わって飲んで騒ぐ。Tさんと講談の話で盛り上がる。講談づいた日であった。ホッピーガブついて、少しワケがわからなくなった。帰宅して、メールのみ確認。『トンデモ本の世界R』、5刷の知らせ。景気いい話が続いてよろしい。

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