裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

金曜日

禁断のどーんと行ってみよう!

 続いては惑星アルテア4のモービアス博士からのお便り。朝7時45分起床。天気よし。朝食、黒パンにジャム、チーズ。新聞・TVによるとタリバンの言い分、“われわれは戦略的撤退をしているに過ぎない”“タリバンは捕虜となるより死を選ぶ”と、だんだん戦争末期の日本軍と言うことが似てきた。あの頃の日本も連合軍から見ればタリバン的な狂信国家だったということであろう。一方で狂信というのは純粋なイメージがあり、また信じるものにとっては心地よいものである。卑近な例では(確かに“卑”ではあるが)例のエヴァンゲリオン騒動のときに、そういう連中が続出した。竹熊健太郎などから“唐沢さんはいま、破滅への道を突き進んでいる”という手紙を貰って驚いたことがある。エヴァを馬鹿にしたからだそうである。これはまるきり、コーランを誹謗する者に死を、と叫ぶイスラム原理主義者の言とパラレルではないか。ひるがえって思うに、タリバンや戦争末期日本が簡単に狂信的思考に足を踏み入れられたのは、日頃の生活環境が貧しい、という要因がある。エヴァがらみの騒動を考えるときに、当時の彼ら周辺のアニメ事情の貧しさ、ということを大きな要素として視野に入れねばならないのかもしれぬ。

 狂信者で思い出したが、民主党の鳩山由紀夫が“「狂牛病」という言葉は牛の権利を侵害している”と言い出したというニュースが今週アタマにあった。本人が狂牛病にかかったのではないか、と思った国民も多いことだろう。なにやら“みみずの平和を、すずめの平和を、ゴキブリの平和を!”と呼びかけた太田龍の万類共存思想を連想してしまう。いや、これをトンデモさんの妄想などと笑っていてはいけない。人間というものは賢い生き物だと思っているかもしれないが、実はすぐ、このような考えに陥ってしまう弱い動物なのである。

 仕事、どれも年末特集号用である。まだ一ヶ月半も残っているというのに、もう、気分は“今年もいろいろあったなあ”である。インタビュー依頼いくつか。ニフティスーパーインターネット編集部からの依頼に了承の返事をしたら、速攻で返事、それにまた返事をしたらさらに速攻で返事。さすがインターネット編集部、常時のぞいているらしい。週刊読書人は2年間続いた連載、この12月で最終回。いささかホッとする。アスペクトに新刊献呈依頼メール。これに返事の電話がかかってきたが、別件でちょっと笑えることあり。

 K子に弁当。ツクネと大根の煮物。その残りで自分も昼飯。食べてそのまま原稿書き続ける。筆は進むがどうも納得いかない。真面目すぎて、笑えないのである。ヒネリがなくなってしまっている。それでも一応、まとまりのつくまで書き進むが、読み返してみるに論文調で、私の味がまるで出ていない。ええい、と全部放棄。一から書き直すことにする。もう、何もかもイヤんなる。

 ……それでも、文章書くのは楽しい仕事だなとつくづく思う。ものを書いて、それも子供のころから書きたかった分野のものを書いて、メシが食えている。それだけで苦情を言ってはバチが当たる。もっとも、自分の書いているものにあまり満足しすぎると、まるきり進歩しなくなってしまう。“なんで思ったように書けないのか”と不満を持っているあたりが一番いいのかもしれない。とはいえ、ツラいことはツラい。

 本を片手に少し横になる。ふと気がつくと気絶したかのように、その本が顔の上にかぶさっている。コレハイカン、と思い、新宿でマッサージ受ける。終えて、まっすぐに新大久保駅。チュニジア料理『ハンニバル』で、トリ料理三昧ツアーである。メンツは裏モノのメンバー中心に十人。シェフのモンデール夫妻、“こないだカラサワさんがホームページにウチのこと書いてから、それ見てお客さん来てくれマシタ”と喜んでくれる。トラッシュポップの帰りなどに寄ってくれたそうだ。

 さて、トリづくしであるが、その前に豆のペーストと野菜のラタトゥユ、チュニジア風揚げギョウザ(ブリック)などが出て、かなりオナカがくちくなる。メインはそれからで、まずは鳩を濃厚なモロヘイヤスープで煮込んだもの。鳩肉が濃厚な上にさらにモロヘイヤスープがオシルコのようにドロリとしている。これがうまい。続いてがウズラのロースト、一人一羽に豪快にかじり付く。それからホロホロ鳥、淡白な中に滋味があり、最後がアヒル。いずれも丸焼きである。いくら十人とはいえ、さすがに腹がパンパンになり、みんなフーフー息をつく。チュニジアのマゴンワインなど飲みながら、話も裏モノ的に盛り上がり、12時過ぎまで。どうもこうも、騒がしくて店に迷惑かけたのではないか。それでも、モンデール、またみんなの写真撮って“今日のコト、ホームページで紹介してネ”と如才ない。次はウサギコースで行こうか、とK子と打ち合わせ。アナウサギが食えるというが、どんなものか? モンデールの 顔と店の案内はココで。http://www.ne.jp/asahi/tunisia/hannibal/inn.html

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