裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

6日

火曜日

三つ違いのアニソンと

 歌うて暮らしているうちに。朝7時20分起き。目が覚めても朝だとわからなかったほど暗い。少し頭痛あり。二日酔いだと思ったが、気圧のせいらしい。朝食、柿にヨーグルトをかけたもの、青豆スープ。昨日、週刊ポストから『シュレック』の映画評を今月中によこせ、と言って試写のスケジュールを送ってきたが、なかなか11月は予定が埋まっていて、いい具合に時間が空かない。試写は頻繁にやっているのであるが、吹き替え版でない、字幕版の方を見たいのである。

 石原さんから電話。ロフトでのトークのことなどを話す。装丁が私の友人だ、と教えたら驚いていた。気圧の乱れで肩がパンパンになり、一字も原稿が書けない。仕方ないのでこの機会に、と、光文社に送る原稿をフロッピーにまとめる。文庫用であるが、なにしろ細かいものが多いので、急かされながらもなかなか着手できなかったもの。作業中にパソの調子が悪くなったりして難渋するが、なんとか2時間で仕上がった。郵便局で、実家への薬代振り込みついでに郵送。

 光文社用のもの、コラムの順番をイロハでつけていた。で、全部つけ終わったところで、うっかり文書整理のキーをクリックしてしまう。当然、整理は五十音順なのでバラバラになってしまい、また一から並べ直しである。検索にはアイウエオが便利だが、順番を表すにはイロハでなくてはダメ。母国語の並べ方にこんな何通りものやり方を持っているのは日本だけではないか。昔、NHKの子供向け探偵もの『五人と一匹』で、数字とカタカナを対応させる暗号がどうしても解けずにみんなが悩んでいると、年配の人間があっさり解いてしまう、という話があった(シチュエーションは不正確だが)のを思い出した。子供たちは五十音で当てはめていたのだが、彼はイロハでやったから、というオチ。

 アルゴ細谷さんから『ひとりね』試写のお知らせ。文言に曰く“『帰ってきたウルトラマン』の榊原るみが脱いでます!”。オタクを釣るにはこういう文句、と思っておるのか。あの当時脱いでくれたんならともかく(私の中の榊原るみは帰りマンよりむしろ長猫のローザ姫である)。……まあ、映画はかなりトンデモなさそうな話なので、観にいくつもり。決して、榊原るみの裸が見たいからでは……。

 はっと気がついたら、今日は歯医者へ行く日であった。雑用片付けている間にド忘れしてしまった。気圧の乱れで頭がさっぱり働かない。諦めてマッサージに行く。客は私一人。受けていたら、サウナにやたらバカでかい声でしゃべる初老の男性が入ってきた。声のボリューム調整機能がコワれているのか、土建屋の現場でしゃべるような大声しか出せないらしい。しかもおしゃべりで、“昭和四十二年からこの店に来ているんだわ”などと、聞かれてもいないことをしゃべる。声の大きいおしゃべりには悪人はいないと言われているが、確かにこれでは隠し事など出来はすまい。極真会の関係者らしい。“世界チャンピオンの歓迎会でこれから飲まなくちゃいけない”などと言い、帰り際に“別に言う必要ないけれど、明日からブラジルなの”などと宣伝して帰る。“別に言う必要ないけれど”に、マッサージ師さんと二人、吹き出した。

 帰宅、直後にと学会事務局の芝崎くん来宅。会員名簿の話、例会開催月定番化の話など。と学会の抱えている大きな問題として、会員諸氏の発表の活発化により、例会での発表時間がどんどん短縮化されている、ということがある(前回はとうとう時間切れで発表出来なかった会員がいた)。これは、例会開催が年四回と原則ではなっているにも関わらず、諸事多忙もあって、現実には年三回ということになってしまっており、ネタが溜まり過ぎることが原因。最初からこの月の第何日曜、と開催日を決めて、個人的なスケジュールをそれに合わせて立ててもらうことにして、ネタのガス抜きをきちんと行うことで、発表時間に余裕をもたせる目論見である。沖縄の木六さんからひさしぶりにメール。アホなロリ系サイトなど。さっそく談之助さんに教えてあげる。

 9時、タクシーで四谷駅前、語学教室帰りのK子と待ち合わせ。四谷ではいつも、おでん屋『den』が定番なのだが、今日はいっぱい。仕方なく、四谷駅前商店街を歩いて、ヨサゲなところを探す。おしゃれすぎる看板のところはまずうまくなく(料理より店の体裁に金をかけている)、かといってあまりに大衆っぽすぎるところも今さらであり、選択がなかなか難しい。『越後路』なるへぎそばの店(K子が“エチゴジ”ってモスゴジやキンゴジみたい、とオタクなことを珍しく言った)を見つけ、ここならよかんべいと入る。メニューがその日に入荷したものしかない、というので手書きである。こういうところは信用できる。とにかく寒い日だったので、金目鯛の鍋というのが目に入り、それを注文。やがて運ばれてきたのが、巨大な金目鯛半尾くらいのブツ切り。目玉の巨大さにオオ、と声をあげた。これをセリ、春菊、豆腐(地元豆腐で固くて結構)などと、薄口のダシで煮て食べる。地酒、地ビールとも合って、なかなかの味。金目の甘さも絶品である。ただ、店のおかみさんが自分のところのネタを大絶賛の嵐で、聞きながら“ハイハイ、うまいのは言われなくてもわかってまんがな”という気になる。“なにしろ刺身にする金目鯛だから”と何度も繰り返すが、鍋に入れるのは主に目玉やカマのところのアラである。
「“刺身にする金目鯛の刺身に出来ないところ”を鍋にしてるんだろうがっ」
 と最後には怒鳴りつけたくなる。絶賛の押し売りは腹立たしいものである。とはいえ、最後のウドンも腰があり、来週もう一回来て、今回食べられなかったへぎそばをココロミてみよう、という気になった。耳栓持参で。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa