裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

木曜日

わくわく成仏ランド

 本日の成仏は東京都の田中さんのお爺さんです。朝、原稿のフロッピーを探す夢を見て7時起床。まだ眠い。朝メシ、トーストにイチゴジャム、チーズ。それとオレンジ。オレンジは完熟もので、甘い甘い。母から電話。カレーを送るから、とのこと。メールたくさん。青林工藝舎手塚さんからも電話。書店さん交えての飲み会のこと。なんか11月は仕事にイベント、飲み会とスケジュールがめちゃ混みである。いったいどうしたことか。

 1時、曙橋。井上デザインとマイストリートT氏を引き合わせるため。ちょっと早めに到着、近くのラーメン屋でネギミソラーメンで昼飯。ネギがバカ辛。井上くんとTさん、表紙の紙の話などを。版元は値段下げて部数を刷りたいらしいが、こういうマニアックな本にそういう戦略はどうか? ちょうど恒友社のS社長から、石原さんの本の表紙についてFAXが来る。Sさんの文字は特徴があり、“帯”が“蔕”のように見える。

 そこから都営線、有楽町線、銀座線と乗り継いで京橋へ出る。乗り継ぎでさんざ歩かされ、ヒザが痛くなった。車中、山田風太郎のエッセイ『風太郎の死ぬ話』(角川春樹事務所)を読む。大抵は既読のものだが、何度読んでも面白い。正岡子規の日記にならって毎日の食事の記録をつけようとして、わずか二週間でヘコたれて中断してしまう、というところに笑う。いちいちメモをつけながら食っていたのでは味もわからん、ということなのだろうが、前日の食事のことくらい、メモなどとらなくとも、ちょっと考えれば思い出せそうなものだ。ところがこれが山風にはダメであったらしい。人間の脳というのには、頭のいい悪いに関係なく、記憶の得意な分野とそうでない分野があると見える。小説は書き出す前にラストと忍法などのネタはもう考えてあるから、書けなくてピリピリすることは全くない、という言にうーむ、と考えさせられた。

 京橋アサコビル地下試写室にて、三池崇史監督作品『殺し屋イチ』試写。だれだったか、ミステリ関係の有名な作家が来ていた。名前と顔が一致しないが、バカボンの親父さんみたいな顔の人。で、映画はスゴかった。いやあ、これを観た後では同じ監督の『漂流街』がオーソドックスな映画に見える。いいのか、本当に(いろんな意味で)。途中で一人、怒ったか痛いのにヨワいのか、モウあかん、と席を立って帰ったおじさんがいた。浅野忠信の、リキがすさまじく入っているのかまったく入っていないのか、判断不能のキレぶり(演技も顔も)にキッキッキ、と笑う。特にケジメつけたあとの電話のところで腹を抱えた(大笑いしたのは私一人だったが)。他の演技者たちのキチガイぶりもあまりと言えばあまりである。どれくらいスゴいかというと、ヤクザの幹部の一人で『ガメラ3』の手塚とおるが出ているのだが、彼のあの濃い演技がカスんでしまってほとんど印象に残らないくらいなのである。

 帰宅、やらねばならぬ仕事を放って『殺し屋イチ』の批評用メモ製作。8時、家を出て船山でK子と食事。カニとカモ。二人で三人前くらい食った。こちらの食事のおしまいあたりで、白髪でインテリ風のおじさんとピンクのセーターを着た女の子の、ロコツに援交風の二人が来る。イチャイチャとした会話に、そのおじさん、心底うれしそうな表情で、ああ、いろいろストレスたまっているんだろうなあ、と思う。援交のおじさんに同情するようになってはイカン。

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