裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

木曜日

エッフェル塔像

 のんのんのんのん。朝7時起床。このごろ早起き。一時の、体のなんとも言えないダルさが取れているのはありがたい。朝食はモチスープとポンカン。これ、実はポンカンでなく天草のなんとかいうミカンらしいが、名前を忘れた。午前中に『シュレック』評、書き上げる。だいぶ辛口になってしまった。

 佐々木うどん氏より久々の電話。『社会派くんがゆく!』送ったお礼。“すごいっすねー、あれ!”と絶賛。いや、絶賛ではなく半ば呆れの入った驚嘆といった感じ。こいつら人生捨てたか、という感想なのだろう。他の業界関係者からも、今回はこれまでになく感想やお礼のメールが届いている。ひょっとして、まだ訴えられておらんか、という確認なのかもしれない。相手は佐々木氏だから、アニメの話に当然流れて四方山ばなし。アニドウ史などいまのうちに誰かが書かねばならないのでは、と言うので、なみきたかしが死なないと誰も書こうとせんだろね、と答える。DVDでどんどん出ているボックスの、これまでのビデオやLDに比べての書誌学的な凝り方の凄さ(メーカーがDVDをマニア商品と正確に認識しているから、そこらへんの資料的付加価値が尋常一様でない)を熱く二人で語る。佐々木さんもノスタル大陸人であるから、“今のアニメなんかどうでもいいんですよ。われわれが見て育ってきたものをわれわれが見ていたものに最も近い形で再現するために努力というものはしないといかんのですよ!”と強調。この重大さをちゃんと記事にする媒体がいまのアニメ・特撮界にはない、と二人で憤慨する(彼にはなにか思いついた企画があるらしい)。

 さらに凄い話を聞いて、佐々木さんの友人がDVD制作がらみで虫プロに出かけて行ったら、あそこの会社には“開かずの間”とよばれている部屋があり、手塚治虫が社長のころからずーっと鍵がかけられたままでいたのだが、今度何十年ぶりかで開けてみたら、なんと鉄腕アトム“全”話のセルと原画が、完全な形で保存されていたという。原画もちゃんとチェック用袋に分類されていて、中にはスタジオ・ゼロ発注のものが、誰々、という署名入りであり、石森章太郎の、赤塚不二夫の、藤本弘の描いたアトムがゾロゾロ出てきたそうな。もっとすごいのは、放映されなかったものや、フィルムが行方不明になっていたものまで全セルが発見されたことで、これはどういうことかというと、そのセルをもう一度撮影すれば、幻の作品が現在に甦るということなのである(清水マリと勝田久が生きているうちに声もとっておかねば)。アメリカだったら、これは文化史上の一大事件と、新聞が一面で報ずるところだ。しかし、いい時代にめぐりあえましたなア、と二人でしみじみする。自分の過去が、実際の自分の過去より豊かになっているのである。

『社会派くん』好評と思っていたら、今度は『すごいけど変なひと×13』、ひさしぶりに『やる気マンマン』から声がかかって、この本の宣伝で出演依頼。何か今回は ひさびさにマスコミ関係の反応がいいようで、何となくうれしい。12時、レトルト の鹿肉カレー(長野みやげ)を食って昼飯にする。12時半、時間割へ。『ニフティスーパーインターネット』誌のインタビュー受ける。『裏モノ会議室』と『一行知識掲示板』運営の苦労(ったって、あまり苦労などしていないが)。パソコン通信の時代の思い出話や、インターネット時代のパソ通の役割などを話す。こういう取材のときは、編集者やライターさんはこっちの話が面白くなくても面白がるフリをする。そういうときは、脇で待っているカメラマンさんの表情を見ればいい。カメラさんは、たいてい“早く話が終わって撮影に入りたい”と思いながら聞いている。その人が面白がってくれていれば、だいたい、自分の話が面白いという証明になる。今日は聞きながらうなづいたり、笑ったりしていたから、まあオモシロカッタんじゃないかと。

 帰宅、『シュレック』評、FAXする。FAX機に一旦かけてからまた思い直し、文章を一部手直し。辛口は辛口だが、表現を少し変更する。雑誌の性格を考慮するとは、オレもダラクしたものよ、とニヤニヤ笑う。テリー・天野氏から金子ゴジラの試写の感想がメールされる。ケナすところは大体、私と同じ。その上で彼は大肯定派であり、あれだけ認めておいてカラサワさんが否定派なのは何故? と訊いてくる。あれはナンです、談志が『ウエストサイド物語』を、“ミュージカルとは認めナイ”と言っているのと同じである。で、その理由が“アステアが出て来ナイ”。いや、これは敷衍して言うと、アステアの踊りに収斂される世界観がすなわちミュージカルであり、ウエストサイド物語はそれとは似て非なるものである、呼ぶならミュージカルではなく、別の名で呼べ、ということなのだろう。平成ガメラからの金子作品を、同様に、私は怪獣映画と認めナイというだけの話である。

 原稿書いて雑事すませ、4時、また時間割へ。インタビュー仕事が一日に二本重なるというのもなかなかクタビレる。『FLASH!』の取材で、お題がなんと、『ハリー・ポッター』ときた。もちろん、私なりのハリー・ポッター解釈で、いろいろと話す。今回はカメラマンさんがいないので果して面白かったかどうか認定できず。話終わったあとで、次回の“エロ写真ポーズの歴史”という特集も取材お願いできますか、という。何という落差か、オイ。

 取材後、青山に買い物に出かけ、帰ってきて夕食の下ごしらえ。評判の『おさかな天国』を聞きながらやる。“♪サカナサカナサカナ〜、サカナを食べると〜、アタマアタマアタマ〜、アタマがよくなる〜”というリフレインが、作業終えるともう、完全に頭の中でグルグル。鼻歌でそれを歌いながら、届いた『モーニング』読む。『風マン』の中の、快楽亭のエピソードとして書かれている映画館での外人ホモ遭遇、私らの世代には円楽師匠のエピソードとして有名なもの。ブラックに受け継がれたか。もっとも、映画館とか、デブセンホモとか、英語を使えないとか、シチュエーションはまさに快楽亭ブラックの方によりピッタリ。

 8時半、夕食。豚肉と里芋の芋煮風鍋、小鯛笹漬けの昆布ガツオまぶし。DVDで『宇宙Gメン』。昭和38年時点での宇宙活劇の楽しさ全開。悪の外国人組織の連中が、“隊長、グッドニュース!”“おお、それはナイス”などと会話するのが爆笑モノである。“〜しなサーイ”という外人、大月ウルフを最後に伝統がとだえたねえ。K子が寝た後、『ガメラ対バルゴン』と『デッドオアアライブ』の二本を立続けに見る。バルゴンは“あれは奇形児です”“土人の伝説などアテにならん”など危ないセリフ満載。岡田斗司夫氏の“大統領のヘルメット”ではないが、私もずっとこの映画のラスト、博士の“バルゴンともあろうものが……”というセリフが湖からの虹にかぶさって終わり、という記憶でいたのだが、そのセリフがない。それに気付いたときは唖然としたものだ。なにせ、明瞭極まる記憶だったもので。

 そして、『デッドオアアライブ』。映画の90パーセントまでを、竹内力と哀川翔の、渋くつらいオトコの生きざまで描き通し、最後の最後、二人の対決で映画史上最大最狂のバカをやらかす。打ちのめされてひっくり返った。コレハコレハコレハ凄いですよ。三池崇史、よく映画界を追放にならなかったものである。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa