裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

25日

火曜日

スウェーデン食わぬ は男の恥

 バイキング料理を食べなくてはいかん、ということ。朝7時起き。ゆうべはどうにも寝つかれず。朝起きると台風のような風雨。なるほど、この気圧の乱れのせいだったか。朝食、タラコスパゲッティとスイカ。朝、薬局新聞一本。

 ゆうべ、ベッドの中で寝つかれないままに旺文社文庫『書きかけの自伝』(三遊亭圓生)を読む。圓生が体験してきた、戦前の落語家たちの組合の離合集散の歴史が面白い。大正六年に、それまでの落語界の二大派閥であった三遊、柳の両派を統合した『演芸株式会社』というすごい名前の組織が出来て、それが結成されたその月のうちに分裂して、『落語睦会』というのが出来る。この対立が激化して、引抜き合戦が起こり(演芸株式会社側の無限責任者である三遊亭円右までが引き抜かれて睦会に入っちゃったというのがいかにも落語家の組合らしい)、次第に分裂していくつもの団体が出来たが、関東大震災のとき全部つぶれて新たに『落語協会』が出来、それがまた分裂、そこと『新・睦会』とに別れ、残った協会がさらに柳家三語楼一派と三桝家小勝一派に分かれて、小勝一派の方は『東京落語会』と名乗り、正当派だった落語協会の方はそのうち不景気だというので解散してしまう・・・・・・。なるほど、こういう戦前の栄枯盛衰を体験していた人ならば、あの晩年の落語協会分裂騒動という思い切ったことも、周囲が思う程にはさほど大変なことだという意識がなく実行できたかも知れない。人間、若いうちの経験がやはり後年の行動に影響を及ぼすな。

 昨日の続き、テープ起こし原稿チェック。気圧乱調か、やはり進まず。週プレのインタビュー原稿に手を入れて返送したり、週ポスの映画評まとめたり。『創』の新連載もWebマガジンの方も今週中にサンプル原稿アゲねばならず。考えると少し頭が痛い状況だ。連載原稿のお盆進行の方はさっさとすませて、各編集子から“これで安心して先祖の霊を祭れます”と感謝されてんだけど。昼はお茶漬けでアッサリ。

 以前数冊、一緒に本を作った編集のXくんから電話。彼はこれまでつきあった編集者の中では才能的に突出しており、彼の担当してくれた本はいずれも、私の著書の中でもユニークなものとして評価された(特殊すぎて売れ行きは今イチだったが)。そういう才人編集者にありがちな、一社に長く尻を落ち着けていられないタチで、△社☆社○社としょっちゅうあちこち身を移していた。最後の○社にはもう五年近くいるので、やっと居を定めるつもりになったかと思っていたら、今日、電話で“実はまた病気が出ましたぁ”。9月から×社に移るとのこと。○社に入ったとき、“あそこは編集者のキバ抜くところだから注意した方がいいぜ”と忠告したのだが、“五年目でカラサワさんのおっしゃっていた意味がわかりました”。なんかあった模様。彼には渡しっぱなしになっている企画が数本あるのだが、○社ではドウか、と思っていたので、×社に移ってくれるのは私にとっても好都合。

 歯医者行くの忘れてた。原稿書きかけで資料が必要になり、六本木まで出て買う。ついでに銀行で家賃下ろし(光文社『怪体新書』また重版。これはなをきの文春漫画賞受賞効果ならん)、明治屋で買い物。タクシーの運転手に聞くと、今朝の雨は極めて局地的で、杉並ではほとんど降らなかったとやら。

 8時、四谷荒木町。『まさ吉』で井上デザインと。井上くんのところは引っ越しでドタバタ中。K子は本日、大好物のイワシしそ揚げが切れているのでオカンムリ。家のローンを払う苦労ばなしなど聞く。ありゃあ息苦しいものだろうと思っていたが、聞くとホントに息苦しいものらしい。平塚くんに“この日記の行取りが読みにくいという人が何人かいるんだが”と言ったら、井上くんと声をあわせて“そういう人にはマックを買ってもらいましょう”。井上デザインは揃ってマックマニアなのである。モツ鍋食べ、焼酎かなりいって帰宅。雨、漸くしげし。

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