裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

水曜日

ニカラグア出た錆

 内戦は自国の責任ということ。朝5時ころ、やたらウキウキと多幸感にあふれて目をさます。夢のせいらしいが、もうどういう内容だったかは忘れてしまっている。覚えているのはその後、7時くらいまでウトウトしていたときに見た夢の方で、主人公は十年くらい前、特撮関係の集まりで数回顔をあわせたことのある人物。それから、大学時代、つきあいかけたことのある女性の亭主も出てくる。どちらもまず、普段は記憶の端にものぼらぬ顔。この特撮氏の方が夢の途中で自分の名前を忘れて、亭主氏に訊くのだが、亭主氏は、“俺のこの夢での名前は<旅行好きの長髪の男>という程度の役だから、主人公の名前など知らない”と逃げようとするのを、特撮氏が追いかける。不条理演劇を見ているような夢だった。

 7時起き、朝食キノコスープ、桃。桃は粒は大きいが少し苦みがある。薬局新聞を一本、アゲて、早めに風呂に入る。10時半、歯医者。歯のウロを削ってそこに銀冠をはめるのだが、はめこんだ後を、セメントに空洞が出来ぬようぐっと押しこむ道具が、“短い割箸”。ふだん”“リーマー”“スケーラー”“エキスカベーター”などという、いかにも専門器具という感じの単語が顔の上で飛び交っているが、いきなり“短い割箸”には笑いだしそうになって弱った。

 帰って原稿書き。パソコンを窓際に置いているのだが、カーテン閉めてもその布越しに差す陽射しが暑い。小室直樹『日本人のための宗教原論』読む。思えばカッパの本のころから、世界情勢、経済分析に宗教というファクターを導入したことが小室直樹の一大慧眼だった。小室節の直截な(ミもフタもないとも言う)文体が痛快。昼飯 はメンドくさくなって抜く。二日続きで昼食を食べず。

 3時半、新宿に出る。西口地下で声をかけられたので振り向いたら立川志雲。タビですか、と聞いたら、いま秋田からの帰りだとのこと。東北地方で彼のベタ(意識的にディープな上方落語の古型を演じている)な落語の需要があるとはスゴい時代だ。東口滝沢でなをき、青林堂Yくんと、正太郎伝打ち合わせ。なをき、会うたびに親父に似た顔になってくる。かなりキツキツのスケジュールで、盆休みツブれ確定。

 4時過ぎ、別れて総武線で小岩へ。車内で『このミス』読む。岩井志麻子が『世界の猟奇ショー』のことについて語っていた。改札5時半という予定だったが早めについたので古書かんたんむに入る。ここは隠れた名店で、毎度オモシロイものが見つかる。いつぞやはバンダイの山科社長から故・円谷ノボル氏への寄贈書(サイン入り)を見つけた。売るなよノボルさん。今回も仕事がらみで長年探求していた本がポコッと棚にあり、ちょっと興奮。一万円ほど買い物。たくさん買ってくれたから、と一割まけてもらった。

 改札に戻ると、すでにメンツ揃っており、楊州飯店へ。チャイナハウスにタメはれる中華料理の逸味。店は薄汚いが、味は最高。サービスで中国ワインと白酒。今回のメインゲストは浅黄こと藤谷文子ちゃんだったが、かなりキツめの白酒飲んで“おいしい!”と、乱れた様子も見せず。さすがセーガルの娘。バンバンジー、腸詰め、イカダンゴといずれも味わい豊かで、酒がすすむすすむ。いつものメンツで話題がどんどんアサッテへ飛び、文子お嬢さん、やや呆れ顔。後半から植木不等式氏も加わってさらに酒と会話のペースが上がる。談之助が2000円札持ってくる。志加吾のHPで“談之助さんあたりが真っ先に手に入れそう”などと書かれていたのが、まさに期待を裏切らないキャラクターだな、この人も。図柄はともかく、デザインの妙に左右非対象的なのは何故? 料理続々、エビチリ、シイタケ炒めなど山盛りで、最後の焼きソバまでに、かなり腹がくちくなった。駅前の喫茶店で少し酔いを覚まし、11時過ぎ、帰宅。うまいが小岩は遠方でいけない。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa