裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

月曜日

カリスカトロの城

 またスカトロネタか。朝7時半起き。朝食、マッシュルームとチキン。さて今日はシャレにならない状況で、まずモノマガ5枚一気にアゲてメール。それから日記を書いて、さらに日曜官能家の原稿15枚じゃじゃじゃじゃと。ここで2時。

 その最中でもちゃんとメシは作る。K子の弁当はタラコご飯に豚とナスのうま煮。自分もタラコとタコのシオカラでお茶漬け。食べながらゲラチェックをする。元アスキー出版部のエンターブレインから電話。鶴岡との対談のこと。昨日、鶴岡がと学会を欠席したのは倒れていたかららしい。この数日の暑気の中、エアコンなしの状態で〆切が重なり徹夜、朝、出かけようとしてウーロン茶を飲んだとたんに気が遠くなって、そのまま夜まで失神していたとか。身体の中の水分バランスが崩れたんだろう。エアコンなしで無理すると死ぬよ。

 その我が家のエアコンであるが、こないだのマンション改装工事の際、古い排水パイプを除去したために、それまでそのパイプに流れ込んでいたエアコンの排水が駐車場へ漏れるようになり、工事が必要とのこと。配管屋さんと管理人がやってきて、いろいろ調べ、“これ、本来オーナーさんの負担なんですが、唐沢さんが工事代支払うということはしませんよね?”などと、奥歯にコンクリート流し込まれたようなモノイイをする。オーナーは根室だか釧路だかにおり、連絡がメンドくさいらしい。知ったことではない。“まあ、エアコン使わなければ水は垂れないんですが、使いますよね?”などとオロカなことも言う。人間、困惑しているときには望みのなさそうなことでも一応、口に出してみるらしい。考えてみれば古いパイプを除去しなければ問題なかったわけだから、一番の責任はそれがまだ使用されていることを確認せずに除去した建設会社だと思うんだが、そこらへん、どうなっているのか。

 原稿書き、その件や宅急便でしばしば中断。お中元の季節なので、毎日数件、出版社からの届けものがある。酒、ビール類が一番うれしく、ジュースがそれに次ぐ。菓子類はK子が“見るのもイヤ”とすぐ始末する。あと、困るのがスープの類である。何故かお中元にスープ送ってくるところが多くて、見るとどれもホテルオークラとかトロワグロとか帝国ホテルとか、いいとこのばかしなんだが、こういう缶詰のスープでうまいと思ったものがない。コンソメならまだ、煮物に使ったり出来るのだが、あれは高いのであまり送ってこない。トマトスープとかパンプキンスープは往生するだけである。だいたい、日本の家庭ってそんなにスープを飲むか? タダで貰っておいて文句をタレるのは下種のすることだが、しかし送ってくるだけ資源のムダ、というものもある。私だけがまずいと思っているのでない証拠に、『サウスパーク』に、アフリカの飢えた子供に家で余っている食べ物を送りましょうと呼びかけたら、集まったのがコーンスープの缶詰ばかり、というギャグがあった。アメリカ人ですら、スープの缶詰はまずいと思っているのだ。

 打ち合わせ電話頻々。インタビュー依頼もなんか重なり、ふと気がつくと今週一週間、ほぼ毎日、誰かと会って取材されたり打ち合わせしたりする予定が入っている。3時、歯医者。こないだ作った左上奥歯は調子いいのだが、その下の、もう中学生くらいのころにかぶせた金属冠がかなりガタがきているのでこれを除去。帰りに受付で“カラサワさんインターネットやってらっしゃいますか?”と訊かれる。ホームページはじめたらしい。

 4時まで治療にかかり、喫茶店で待っている光文社Oくんに、顔だけみせてちょっと待っててもらい、急いで家に帰って書きかけの『カルトホラー漫画秘宝館』の文庫版あとがきを書き上げて、とって返す。タイトルの打ち合わせ。営業部はまだ“トンデモ”というタイトルをつけたがっているが、これだけいろいろなところで使われていて、もうトンデモでもないでしょう、と言っておく。今後の出版計画をいろいろ。とりあえず、貸本マンガ復刻シリーズを光文社文庫で連続してやっていきたいと話していい感触を得る。

 それから帰ってまた原稿書き。鶴岡から電話。体力ないのがこの男の最大のネックだな。6時にまた同じ喫茶店で今度は大和書房Iくん。ゲラ渡す。あとがき原稿はまた明日。こっちとも今後の話。串間さんが私の日記みて、“朝、週アス一本アゲ”などと書いているのに驚愕していたということだが、裏モノの神様や脳天気本紹介などは、すでに原稿の基本の型(パターン)が出来上がっており、そこに毎回のネタを流し込むだけで出来上がる。裏モノで言えば、まず時事ネタの世間話から始まり、次にそこからテーマを抽出し、それを敷衍して世の中の大きなパターンにあてはめてみるという冗談ぽい思考実検を行って、最後に雑学風な地の文でのまとめ、そしてブツ紹介でシメとなる。こういう、スタイルの決っている原稿というのはネタさえ決まれば早い。逆に一回々々、切り込み方を工夫しなければならないタイプの原稿(SFマガジンのなんかはそれ)だと、十枚程度のものに一日かかってしまう。まあ、人によって好みの書き方もあるが、遅筆で苦しんでいるライターは、こういう“型”をまず、作るところから始めてみるとどうだろう。

 まだその時間のかかるSFマガジン、それから大和のあとがき、フィギュア王、そして書き下ろし本原稿と、仕事山積だが、今日はもう、これでエネルギー切れ。いくらワープロの前に坐っても何も出てこない。諦めて8時、K子と豆腐料理屋。ハモがあったので湯引き刺身と木の芽焼き、それと韓鍋豆腐。キムチなべかと思ったら、香港製のチリソースを使っている鍋で、ピリリとはくるが、キムチよりずっとマイルドで、食べやすい。もっとも、香港なのになぜ韓鍋なのかナゾだが。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa