裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

月曜日

リンネ転生

 このように分類された動物たちも、来世ではまた違った動物に。朝7時半起き。朝食、アボカドサンド。美川憲一を訴えた元後援会長の、人品にまったく似合わぬ 美邸をワイドショーで見て驚く。〆切催促電話二本ほどあり。全部片付けた筈だったが、なんか漏れているもの。K子から、昨日の日記の記述中、品川プリンスというのは高輪プリンスの、時給七○○円というのは一○○○円の誤りとキツい指摘。高輪と品川ではカクが違う、のだそうだ。

 11時半、郵便局で古本代金振り込んで、ソバ屋でてんぷらソバすすりこみ、地下鉄千代田線で綾瀬まで。マツダ映画社で古いアニメを見る会。マンガ喫茶メトロポリスの本間正幸氏の肝煎りで、平山亨、内記稔夫、小野耕世、それにフランス人でガロのマンガなどを研究しているというベアトリス・マレシャル女史など。綾瀬なんてところは滅多に行かぬ場所のため、時間を見誤って、二十分も早くつく。まいったな、と思っていたらみなさんそうらしく、平山さんと内記さんがもう到着して立ち話されていた。

 故・松田春翠氏の古い日本アニメコレクションはいま、マツダフィルムコレクションからビデオで発売されているが、今回はそこから漏れたもので瀬尾光世のもの、正岡憲三のものなどを中心に、極めて短いものを三十本ほどまとめて見せてもらう。瀬尾光世監督の『お猿三吉突撃隊』シリーズ、以前NHKでちょっと放映されていたのを改めて見たが、続き物で陸・海・空での戦闘を描いて、さすがに構図、動きなど、マンガですら『のらくろ』的平面処理が一般的だった時代にアッと驚く三次元的な画面作りをしていて、短いものだが見ていて興奮する。瀬尾・正岡合同製作による『桃太郎・海の神兵』の、アクションとリリシズムの演出分担がよくわかる作品だった。

 松田コレクションの中には、山口且訓・渡辺泰氏の労作『日本アニメーション史』にも記載されていない作品がかなりあるという。本間氏が不思議がっていたので、これは同書の監修をやっている杉本五郎と松田春翠氏の仲が極めて悪く、お互いのコレクションリストを突き合わせるということをついにしなかったためだ、と教えてあげたら、膝を叩いていた。こういう人間関係は正当な映画史研究には記載されないので後世の研究者には不可解なこととしてしか映らない。裏面史としてはマコトに面 白いが、後の研究家には禍根を残す。どんなことでも記録しておくべき。

 見終わった後、喫茶店で雑談。例によって平山さんの仮面ライダー製作秘話とかが聞けたが、小野耕世氏ともひさびさに長話が出来た。大御所だった加太こうじ氏が亡くなって、やっと紙芝居研究が自由に出来るようになった、という話から、本間さんの紙芝居研究を、何とかどこかでまとめられないか、という話になる。紙芝居は絵物語同様、今のマンガ研究家のほとんどに知識がない。今のうちにまとめておかねばならないものだろう。同席した若いライターの高畠氏は、私の本を読んでホラーマンガ研究を志した(既に著書もある)のだそうで、少しテレた。本間さんがちょっと憑かれたような早口でしゃべるタイプ(オタクの一典型)の人で、平山さんは例の調子、私も早口ではヒケはとらない、という具合で、日本語もペラペラ日本文もスラスラのベアトリスさん曰く、“今日は半分しかワカラナイ”。それでも平山さんに母もの映画の話の説明を受けて興味深そうにメモをとっていた。われわれの世代のコトバで言うと、“ヘンな外人さん”。結局、5時過ぎまでなんだかんだしゃべっていた。

 北綾瀬〜綾瀬間の地下鉄はひと駅区間のみをピストンで運転している。普段乗り慣れている土地の人は不思議にも思わないらしいが、われわれはブーブー。綾瀬から明治神宮前まで一本。そこから歩いて帰る。さすがに汗になったのでシャワー浴びて、メールその他整理し、FAXされていたゲラをチェックする。明日からまた、お盆進行第二波。今度のは単行本があるのでかなりキツいが、今の時期に忙しくないモノカキにはなりたくないしなあ。

 8時、青山でK子と待合せ。スカしたダイニングバーへ行くがハズれ。鯛の生春巻など、どこに鯛があるか、というようなものだし、トマトと鴨の冷製はタレが甘い。三品ほどつまんで出て、ラーメン食って帰る。

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