裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

31日

木曜日

「主よ、あなたは割礼を受けたのですか?」「イエス、高須クリニック」

あ、もう受けで言うことがなくなってしまった。
http://www.salvastyle.com/menu_baroque/rubens_circumcision.html
↑ルーベンス『キリストの割礼』

※講談社打ち合せ トツゲキ倶楽部公演観賞

この歳で今更大学生の夢。もっとも助手くらいにはなっている。
ゼミの担当教授にレポートのまとめを提出する。
担当教授は60代の婆さん。昔は美人だったろう、という感じの人。
男みたいなしゃべり口調で
「お前、このごろゼミで人の悪口言いすぎだよ。……そら、
馬鹿ばかりなのはわかるよ。あたしだって××とか、馬鹿野郎と
軽蔑しているよ。でもな、そういうことは表で言うべきじゃないんだよ」
と説教される。
その後の大学関係打ち合せで、隣に座った若手の準教授から耳打ちされ、
「俺はキミのやり方を支持する。教授はあまい。俺の時代になったら
キミを抜擢する」
などと言われて、その準教授がキライなタイプなので複雑な心境になる。
教授の男口調は吉永さんのイメージだろうが、顔とかは全くの別人。
それ含めて知った顔や人が一人も出てこない。

……他人の夢の話を聞く(読む)ほどつらい、というか意味のないこと
はないと思うが、公開日記とはいえあくまでこれは私の個人的日記
なのでメモしておく。しかし、その時々の心理やこだわりが
夢に明確に反映しているか、というと、どうもそうではないようだ。
まったく、何でこんな夢をみるのか、と呆れるような夢の方が
印象深く記憶している。

9時17分起床。携帯で朝食の準備ができたことを告げられたが、
まだ夢心地で少しタイムラグあり。
朝食、伊予柑、リンゴ数切れ、モンキーバナナ一本、
それにコーンスープ。

携帯に充電しようと思って見たら、知らないうちに留守録が
入っていた。聞いたら原稿送ったぶんか社Sさんから。
「ちょっとご相談したいところがあるので」
というので、あれ、ナオシ必要な部分があったかな、と
ちょっと気になる(後で事務所に電話あり、オビにも使わせて
いただいていいですか、ということだった。なあんだ)。

昼の弁当、魚の干物とサヤエンドウのバタ炒め、卵焼き。
冷蔵庫の中に残っていた大根やジャガ芋、チンゲンサイ、豚肉の
切れっ端で即席豚汁作って。

3時、タクシーで出社。
事務所で講談社W氏とO氏。
去年から話していた企画の件だが、いま、ちょっと企画自体が
ピンチの状態という。
いろいろトラブルが重なって、かつここ数年社内が細かいことに
ウルサくなり、ポシャる可能性が出てきたとのこと。
「カラサワさんなら何か打開案のアイデアがあるのじゃないかと」
と言われるので、説明を聞いて、私ならこうします、あるいは
こんな手もある、と考えを言ったら、ナルホド、になって、
「じゃそれでもう一回、会議にかけてみます」
とのこと。担保として、ダメになったときの交換条件案、提案しておく。
後でオノに笑いながら
「もう先生、ダメになった前提で考えてますね!」
と言われた。

終わって、朝日新聞ゲラチェック。
担当K藤氏のコメントが私の原稿のパロディになっている大傑作。
さらには担当編集者から異動の(というか新しい会社に移りますという)
お知らせ一度に二つ。一つはちょっと急を要し、あわてて連絡を取る。
それからラジオライフ原稿にかかるが、途中で電話などいろいろ
あり、完成に至らず。あと原稿用紙3枚、というところなのだが。
オノと地下鉄銀座線で銀座まで。
腹が減っていたが、途中で何か仕込んで行く暇はないので、
渋谷駅でサンドイッチ買って行く。

銀座小劇場、トツゲキ倶楽部公演『ファイアボール・エクスペリエンス』。
いくとすでに劇場はほぼ満席の盛況。奇跡的に真ん中へんの一番いい
席が並んで空いていたので、オノ、マドと並んで座れた。しかも
隣席が大友恵理ちゃんと親川だった。
原稿を書き上げそびれたラジオライフのTくんもいた。
最前列に、スーツ姿のサラリーマンが座った、と思っていたら
なんと大和衛さんだった。

タイトル、それとドクロのクロスボーンのフライヤーで、何か
ロックな演劇に思う人がいるかもしれないが(私もそう思っていたが)、
なんと、かなりイメージの違う、葬式の話だった。
昔、パンクロッカーバンドのボーカルとしてカリスマ的人気を誇り、
その後ソロシンガー、役者と、活動の幅を広げたと言えば聞こえはいいが
過去の栄光で食いつなぎ、適度の器用さでそこそここなしながら、
何も考えず気楽にいいかげんに40まで生きてきた男・リョウが主人公。
ある日突然、彼の前に地獄からの使いが現れ、彼が死に、地獄に行く
ことになっていると告げる。
地獄行きを逃れるためには、彼が生前いいかげんなばかりに
苦労をかけた妻や、周囲の人たちに、彼を許してもらうしかない。
また、どうも自分は自殺したということになっているらしいが、
さっぱり憶えがない。
誰かに殺されたのではないか、その真相もつきとめたい、という
思いで、彼は猶予をくれるよう使いに頼む。

変にものわかりのいい使いは、その願いを了承する。
ただし、タイムリミットは彼の遺体が焼かれる明日の葬儀の後まで。
姿も声も伝わらない現世の人間にコンタクトするには、誰か
霊感資質のある人間に乗り移らねばならない。
葬儀場には、美奈、美奈の母親、リョウの母親と弟、マネージャー、
かつてのバンド仲間ジェイク、フューネラル・マネージャーの女性、
熱烈なファンで、遺灰を何とか奪いたいとねらっている青年など、
さまざまな人々の思いが交錯していた。しかもそこに、リョウの
浮気相手の女性、マユミがやってきて、話をややこしくする。
マユミは美奈に、自分はリョウの子供を妊娠している、
赤ちゃんは自分が育てていくから、お金をちょうだい、と詰め寄る。
許してくれるどころか、どんどん美奈の自分に対する印象が悪く
なっていくのにあせるリョウ。しかも、話を聞いて行くうちに、どうも、
自分を殺したのは美奈本人なんじゃないか? という疑いさえ
芽生えていく。果たして自分の体が焼かれる前に、人々に思いを
伝えられるのだろうか?(以上、ストーリィ)

主人公が死んで、天国(か地獄)に行く前に、この世で
やり残したことを誰かに乗り移って……というストーリィ設定は、
映画『天国から来たチャンピオン』をはじめ、山のようにある。
舞台でも似たような話をいくつも見ている。
今回もああ、あのパターンかと思っていたら、人物の使い方の
上手さでアッと言わされてしまった。
おなじみのテーマだけに、どこに収束していくか、という予測を、
裏切りながらももっとも観客がホッとする方向に持って行き、
これで終わりか、と思った末に駄目押しがあるところがいい。
あきらかな台詞抜けや出とちりなど、初日ゆえのグダグダはあったが
ホンに関してはやはりここは、上手いな、と思う。

主演はあぁルナのテリーこと佐々木輝之なので、彼の客演ならではの
魅力が味わえるのが嬉しい。妻の美奈役の権藤あかねさんは、
なんと照明の権藤まどかさんの妹! 美人ですねえ。
地獄の使いはもやしくんで、彼の体形とスーツの赤紫色からの
アドリブだろう、テリーが彼のことを
「こんな腐ったミョウガみたいな野郎」
というセリフに大爆笑。

そして、霊になってしまった主人公が乗り移る相手というのが、
もと力士の大至さんだという意表をつくキャスティング。
この大至さんの使い方がうまく、また大至さんの使われ方がうまい。
観る前までは、いわゆる特出的な素人の使い方をするんだろうと
思っていたが、いや、達者なこと。最後では歌まで披露する。
来年、実はこのトツゲキ倶楽部の芝居に出演を依頼されているのだが、
ちょっと楽しみになってきた。
日曜日までまだやっているので、お時間に余裕があったら急いで
予約を(もう残席わずかだそう)。
http://web.mac.com/totsugeki_club/iWeb/9C688111-317E-4E77-ADA7-7127B8F4A4F6/AC149088-3CB2-4106-B705-2CB1396950F3.html

表に出て、出演人に挨拶。
しかし外がもう、寒い寒い。
Tシャツ姿で出てきた助川くん(大至さんの息子役。19歳という
設定。童顔なのでそう見えてしまうが)がダンスするみたいに
ふるえていた。市森さんには
「カラサワさんの笑い声はすぐわかりますね」
と言われる。彼と樋口かずえちゃんが今回は悪役なのだが、
ワルであっても笑いをとるラストがいい。

大和さん、恵理ちゃん、オノ・マド、T田くんと
誘いあって、どこかで飲もうと歩き出す。
私とオノマドが、
「ギョウザが食いたい!」
という主張を熱烈にするので(なにしろ世間では毒ギョウザの
話題でテレビもラジオもギョウザギョウザの連呼なので、どうしても
食べたくなる)中華を探すが、銀座ってところは店が閉まるのが
早く、どこもカンバン、または満員。
歩き回って、とうとう有楽町のガード下の大衆居酒屋『八起』に。
ここは以前、落語界の打ち上げで入ったことがある。
メニューを見たら、嬉しいことにギョウザがあった!
揚げギョウザではあったが、さっそく注文。
ニンニクたっぷりで満足。

芝居ばなし、人物月旦、それから恵理さんが地理がまるでダメなので
それをつついての大笑いなど。今日の芝居で大至さんが元力士と
いうことを、大和さんはまるで気がつかず、普通の役者さんだと
思っていたらしく、みんなに指摘されて
「えーっ、しまったー! あの芝居の面白さを1500円分くらい
見過ごしていたーっ!」
とくやしがっていた。

二日続きの飲み会になったが連夜楽しく飲んだ。
ハイボール(というか、炭酸が頼めるので、ウイスキーやバーボンを
それで割れる)カプカプいって、ちょっと酔いが回ったか。
それでも11時45分カンバンだったのでいい具合なところで
〆になり、丸ノ内線の終電で新中野まで帰宅できた。
帰宅して、焼酎をロックでやって酔いを仕上げ、1時半ころ就寝。

*写真はオノ&マド&大和さん&恵理ちゃん。あと恵理ちゃんと。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa