裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

30日

金曜日

トシ伝説

「人面犬か!」

※実相寺監督追悼番組収録 『アストロ劇団2』公演。

朝8時起き、急いで入浴。
今日は特番の収録と公演の二連チャンである。
体をいとわなくては、と思う。
9時、朝食。茶碗蒸し、富有柿二切れ、ラフランス同じく二切れ。
10時、家を出てタクシーで新宿西口、1300円。
小田急で成城学園前駅、そこの駅前からバスに乗って、
寒々しく霧雨もよいの中、祖師ケ谷大蔵の国際放映TMCスタジオ。
コダイ製作、NHK−FM放映の実相寺昭雄監督追悼番組。

控室に通されて、弁当を使う。
ゲストの山崎バニラちゃん、清水崇監督挨拶にくる。
バニラちゃんとは以前『天保異聞妖奇士』でご一緒して以来。
清水監督は映画の作風から受ける印象と全く違う外見なので驚く。
しかし、私が最年長とはいえ、本来は私の方で挨拶に回らねばならぬ
ような人たちである。こういうところ、気が回らぬ人間である。
と、思っていたら私よりはるかに年長の寺田農さんまで挨拶に
見えられて大恐縮。
「こないだ、『ピンポン!』拝見しました」
と言われる。名刺代わりにはしかし、大変に有効な番組であるな。

スタジオで収録開始。
京極夏彦さんが番組全体の進行役だが、それは合成によって
行われるようで、席には黒子が座っている。
司会は寺田さん。清水さんに訊いたら、実相寺監督とは
実際にはお会いしたことがないそうで、バニラさんも
実相寺監督作品に触れたのはごく最近、という。
実際に親交のあった者としてのスタンスをどう作って話すか、
ちょっと難しいな、と思う。

さすがコダイだけあって、貴重な資料が次々と。
60年代に監督が演出した歌番組(伊東ゆかりの歌を映像処理で
さまざまに見せたり、歌の合間に佐々木功らが青春とは、
若さとは、などと語り合うというもの)が無茶苦茶にきれいな
映像で残っていたりする。訊いたら、地方局に言って、そこの
ビデオで録画させていたものだそうな。

それから、細かい数字がやたらに書き込まれた手帖や
スケジュール帳、画帳、葉書、電話ボックスの風俗チラシの
コレクションなどなど。中には、家の庭にネコが何匹、何時から
何時までいたか、というような、
「なんのためにこんな記録をつけなくてはいかんのか」
と呆れるようなものもある。旅行などすると、寝台車の
室内や、ベッドサイドのパネルのスイッチが、いちいち、
これは何のスイッチ、これは何のスイッチという解説まで
つけて筆記されている。
夢日記も、何年にもわたって克明に記されており、実相寺昭雄と
いう人は自分の頭の中に浮かぶ思考全てを記録しておきたかったのでは
ないかとさえ思う。
コダイS氏によると、監督のコレクション癖は、切った自分の爪を
ビニール袋に入れて何年分も保存しておくようなところまで
行っていたらしい。そうなると、やはりビョーキだな。

30年以上につきあいのある寺田さんが、実相寺監督のことを
「ジッソーは……」
と呼ぶのが大変にいい感じ。あと、寺田さんが再現してくださる
監督の口調が
「そうなのよ、寺田ちゃん」
というような女コトバなのも実に何とも。

BSとはいえNHKなのに、エロスの追求シーンなどでは
ヌードも緊縛シーンもどんどん出てくる。
バニラちゃんに
「こういうの平気?」
と訊いたら、彼女、
「昔、ストリップにあこがれて、ストリッパーになりたいと
親に相談したことがあったんです」
と凄いことを言う(彼女の父親は大学教授、母親はピアノ教師で
ある)。お母さまは優しく
「あなたみたいにおっぱいの小さい子は残念だけどストリッパーには
なれないのよ」
と諭したらしい。いい家というのはわれわれ下賎な家庭とは
諭し方からして違うものだなあ、としみじみ。

結局、話がはずみ、ビデオ映像なども見入ってしまい、
ケツとして伝えていた3時を大きくオーバーして4時。
まあ、芝居に影響はないにしろ、ちょっとあせってドタバタ。
S氏が自分のバンで駅まで送ってくれるというので乗せていただく。
寺田さんが“ぜひまた何かご一緒に”と、小雨の中、見送って
くださったのに大恐縮。

結局、溝ノ口駅まで送っていただき、南武線で川崎まで。
窓外は寒々しい空模様。
最近はこういう気候が何故か好ましいものに思えてきた。
腹が減ったので、昨日買っておいたパンをロビーで噛る。
それから社員用コンビニに行き、イカ飯のおにぎりを
買って、ダンスシーンのダメ出しなどを見ながら噛る。
何か舞台公演に入るといつでもそうだが、やたら腹が空く。

で、本番。二日目はちょっと客入り心配だったが(初日はほぼ
満席)なかなかの入り。改めてあぁルナも伊達に二十年、やって
いないなあと感心。とはいえ、昨日のセクシー寄席のネタを見て、
翌日人を誘っていたのがキャンセルになったお堅い人が四人、いたとか。
これはセクシー寄席にとっちゃ勲章である。

私のところ、セリフをかなりゆっくり目にやってみる。
後でオノに、格段によくなったと褒められた。
今回は劇一のテリーはじめ、前回の主要人物たちが全体的には
ストーリィに関与できない(そこがギャグ)という趣向なので、
ワキのキャラたちが光る。美輪明宏役の大和衛さんには手が来るし、
向川圭介のドラゴンも、若いながら光っている。

今日の日替わりゲストは幹てつや氏。
♪ミキミキミキミキ、ミキてつや〜のあの人。
ハッシーは一面識も無い彼に出演依頼の電話をかけて応諾して
貰ったそうである。
助ちゃん、maimちゃんはじめ、幹さんをテレビで知っていた
人はそのネタをナマで見た、と感激していた模様。
しかし、私が一番笑ったのは、終演のあとの役者紹介で
「電話いただいたときに、声があまりいいので、どういう二枚目
かな〜と思って、劇場(こや)入りしたとき、この人(圭介)に
“よろしくお願いします”と挨拶してしまって、後から座長が
来たとき、“大道具さんかな”思たんですわ“という話だった。

舞台裏のところで出番を待つとき、ちょっとオチる。
夕べが午前様だということもあるが、やはり昼夜別仕事は
こたえる。疲れた! というのが正直な感想。
昼夜どちらも楽しいのだけどねえ。

終わってハケ、昨日と同じルートで東京。
新人の女の子二人、松下あゆみ、吉澤純子と同席する。
今日観に来てくれたはれつさん、大和さん、もやし、オノ・マドと
いうメンバーと中野で下り、炙り屋で酒とメシ。
話はずみ、盛り上がる。かなり辛口の演劇論もあり。
いや、疲れた体に興奮する神経、というのは、ドラッグに
通ずるテンションアップの条件だな。
またも帰宅2時になる。
しかし意気のみは当然のことながら軒昂たり。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa