裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

27日

火曜日

町内の赤い衆

「いえ、革命の成功は党の働きじゃありません、町内の赤い衆がよってたかって」

※『アストロ劇団ワールドエンド』最終稽古

朝、ベッド読書、ランプで快適。
ただし読んでいたのは小宮喬介『殺人の法医学』という
快適とは言えない本。昭和二十四年刊行で戦後のエログロ
ブームの反映か、写真図版が死体のオンパレード。
中でも殺した女の頭皮を剥いで頭に被って首つり自殺した“淫獣”
増淵倉吉の、まさに天井からブラ下がっている写真が貴重と言えば
貴重。日本版“レザーフェイス”であるが、確かにソックリ。

8時45分起床、入浴、歯磨等。
K子が買ってきた新しい歯ブラシ、毛先が柔らか過ぎて
ちょっと不満。
9時、朝食。富有柿、リンゴ、ブドー。

メールいくつか。
その中でオカルトについての考察をちょっと。
大衆的オカルトへの反論が非難されがちなのは、
そのの多くが“善意”にもとづくものだから、であろう。
ちょっと前に“神の目”チェーンメールというのがあった。
天文ファンには昔から有名な(つまりさして珍しいものでもない)、
らせん状星雲NGC7293の写真を
「3000年に一度という珍しい現象」
と称して、その写真を、送った相手の幸福を念じてメールすると
みんなが幸せになる、といって送り付けてくるというもの。
人の幸福を祈るのだから、チェーンメールでもいいじゃない、
という、庶民的な単純善意で何人もの人に同時送信して、
他人のアドレスを無断で第三者にばらまいていた“善意”の人が
どれだけいたか。
大衆的オカルトの、実は最大の問題点(その理論がトンデモである、
というようなことは実はさしたる問題でもない)はここにある。
要は、動機が“善意”でありさえすれば手段の是非を
問わないとする心理の問題なのである。

12時半、家を出て、近くの旭川ラーメンの店でキムチつけ麺。
この店、麺はシコシコと堅くて細く、私好み。
これでスープがもう少しうまければなあ。

丸ノ内線で荻窪、八幡神社の方に歩いて、天沼会議室。
『アストロ劇団ワールドエンド』最終稽古。
途中で“昔ながらの酒まんじゅう”という看板があったので、
買ってみる。商品はこれ一種類、売り切れたらおしまいという店。
人気の品らしいが、確かにあっさりして、非常にいい感じの饅頭だった。
途中、コンビニ“スリーエイト”があり、ここで売っている鶏肉は
新井薬師にある西島畜産のもので、大変おいしいので、買い込む。
荻窪は意外にグルメな街なのである。
ちなみに西島畜産は『池上線』や、木の実ナナの『うぬぼれワルツ』
で有名な西島三重子の実家だそうな。

稽古、台詞はほぼ入ったが、まだ芝居声になっていない。
稽古不足の出るところだろう。テンションあげると何言っているか
聞き取れなくなると言われた。
出番が少ないので、ギャグを一個、考えてやってみる。
今回の客演者の中では、向川圭介が光っている。

稽古が最初は5時終わりと聞いていたので、『社会派くん』対談、
6時から新宿で場所をとってもらっていたが、6時ころまで
延びそうなので、あわててオノにメールして、待ってもらう参段。
通しを二回。一回目がやたら長くてハラハラしたが、二回目は
トントンサクサクと進み、5時15分には上がり、ダメだしを
含めても半には終わる。急いで荻窪から地下鉄で新宿三丁目。
ルノアール会議室で対談。時間を気にしてあせって入った
テンションのせいか、奇妙に盛り上がった感じだった。

対談アガリ8時半。
出て地下鉄で新中野に帰る。
さっき“真犯人は……”とさんざ対談した坂出市の祖母孫殺し、
犯人がつかまっていた。
あの親父への容疑、こないだのTBSでも“実は違うらしい”という
情報が流れて、マスコミ各社がサーッと引いていた。
理由はちょっと、おおっぴらにはかけない。
ま、“名は体を表す”ってことで。

メールやりとり、白夜書房関係。
公演中にゲラチェックして、楽日翌日の月曜に手渡し。
楽屋での作業になることだろう。
今回の公演の出番が少ないことが逆にラッキーだったかも。

資料用ビデオ、チェックしながら夜食。
西島畜産の鶏肉をフライパンで焼いて、おろしポン酢に
一乃谷の自家製柚子胡椒を入れたもので食べる。
柔らかくて甘味があり、美味。
と、言ってもこれ、ブロイラーである。
ブロイラー鶏の肉は脂がたっぷりで、実はうまいのだ。

このあいだ書評原稿を書いた『食通小説の記号学』で紹介されて
いた矢田津世子『茶粥の記』、およびその資料となった
『食通放談』によれば、
「(鶏の)雄の若い奴を去勢してね、光線の全く届かない真暗な
狭い箱に入れて運動をさせない。おまけに毎日脂肪分の豊富な穀類を
咽喉へ押し込むやうにドン々々食はせるんだ。二週間もこれを
続けると、肛門からタラリ々々脂肪を落とすね」
という鶏を、
「この肥育鶏の肉をジュウ々々焼き、大根下ろし下地で頬張るんだ。
うまいよ。鶏には気の毒だが、これに限る」
ということで、これは要するに昨今のブロイラーのことである。

『食通放談』は昭和十二年刊。
当時の食通はその当時なかなか食べられなかった、脂たっぷりで
運動させていない柔らかな鶏肉を美食の極地と思い、
今のグルメたちは昨今なかなか食べられない、身の締まった
歯ごたえのある鶏の肉を美食の極地と思う。
要は、“そう簡単に食えぬもの”が美味、なのである。

ネット散策。某所の記述を見ていい気分になる。
雑誌切り抜きだのなんだのを見ながら、酒。
サントクで買った牡蛎と青柳の舌で貝味噌を作る。
水で割った酒を煮立たせて、カツブシパック一袋、みじん切りの
ショウガを加え、味噌を溶かす。
そこに貝類を入れ、あまり堅くならないうちに青ネギの
みじん切りをどっさり、そして卵を溶き入れて。
貝の身をつつきながら酒を飲んで、残った汁はご飯にぶっかけて
掻き込んだ。

雑誌切り抜き資料などを見ているうち、芸者遊びのことを
調べたくなり、DVDで『白い巨塔』の、財前五郎の教授昇任
祝いの席のシーンを見る。ちょっと前から、もうちょっと前から
とチャプターを遡らせるうち、最初から通しで見てしまった。
その祝いの席で五郎の養父、財前又一(石山健二郎)が言う
「大願成就、金鶏冠は唐のニワトリや〜」
というセリフ、最初なんのことだかわからなかったが、
将棋にくわしい人から
「金鶏鳥は唐のにわとり」
という駄洒落(金、桂、香を取ったときに言う)がある、
という教示があり、なるほど、と思ったが、又一のセリフは
何度聞いても“キンケイカン”である。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa