裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

土曜日

サマンサだべさ

「お花、おめええらいブランドもののバッグさ持ってんでねえけ。どこんだ?」

※早稲田『コンタキンテのNON STOP!』 上野広小路『前田隣ライブ』

ある会議に出席して、周囲のわがままな意見に
徹底して振り回され、ヒイヒイ言う夢。
その振り回され方の表現で、断崖絶壁を登らされたり、
皿を何百枚も洗わされたりと、妙に具体的な情景がイメージで
(夢の中でさらにイメージとして)出てくる。

6時半に目が覚め、寝床の中で誉田龍一『消えずの行灯―本所
七不思議捕物帖』(双葉書房)読む。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4575235954/karasawashyun-22
七不思議を題材にした短編捕物推理で、ちょいとつまみ読みするのに
いいかな、と思って読み始めたら、とまらなくなって、一冊を一気読み
してしまった。こういうことも珍しい。
著者は塾講師で、これが最初の短編集というが、なかなかの筆力。

ただし、その筆力は、力の入った書き方でなく、寝床で一冊
2時間弱で読破できる、軽みの方に出ている感じ。
七不思議に幕末の洋学生である名探偵役の釜次郎(後の……)が
合理的な解釈をつけるのだが、そのトリックに
「いくらなんでも」
と思えるものも少なくないし、女性のキャラクターがあまりに現代的、
という感想も抱かざるをえない。現代的と言えば小圓太時代の圓朝が
レギュラーなのだが、彼が旗本屋敷を借りて独演会を開き、
客集めに苦労する、というストーリィ設定は、果たしてこの時代に
あり得ることか。寄席とお座敷以外に、若手噺家が自分で落語会を
プロデュースして入場料をとって開催する、などというのは戦後も
落語ブームが起こってからの現象だろう。
なんだかんだ文句はあるが、短編連作のお約束等をきちんと
やっていて(名探偵の決まり台詞、登場人物の正体とその後を解説する
ラストなど)、まず新人の作としては楽しめた。

それもあって、寝坊してしまい、起きたら9時過ぎ。
あわてて入浴。髭剃りを四枚刃の電動バイブレーション機能付きで
やると、もう、剃った後の肌が赤ん坊の肌になる。ツルツルで、
しばらくなでていたいほどである。もっとも、数十分すると、
もうヒゲが伸びてきていて、チクチク感がある。深剃りすると
ヒゲが濃くなるというのは、この、もう伸びている、という
感覚が生んだデマだろう。9時半、朝食。
ブドーにバナナ。ポテトとオニオンのスープ。
胡椒が利いていて結構。

日記つけ、原稿書き。
自民・民主の連立騒動、自民サイドが小沢の欲かきを利用して
ハメた罠のように思えなくもない。
これで民主における小沢体勢は大きく揺さぶられるだろう。

欲しくなったビデオ、レアものでちょっと高かったが
アマゾンのユーズドで出ていたので、思わず衝動買いしてしまうが
品切れの報告。残念と思いつつもやや、ホッとしていたら、
別のものを発見、またワンクリックで買ってしまう。
今度も品切れだといいが、と変な期待。

昼は焼肉弁当、肉がよく焼けてなくてちょっと生臭い。
焼いてその場で食べるには生焼けが一番うまいのだが。
1時、家を出る。通りに出るところにあった民芸陶器の店
『あじろ』が閉店。陶器の趣味がないので一回も入らなかったが、
ある意味ここらのシンボルのような店であったらしい。
ノリコ姉(従姉妹である)が大学時代下宿していたのが、
この並びにある自動車整備場の上のマンションで、
この『あじろ』には日参していたという。
トイメンにある古い和菓子屋も岡埜も建て替えだというし、
この通りも再開発著し。

バスで新宿、そこから地下鉄で高田馬場、地下鉄で早稲田と
乗り換え、弁天町『THE GUIDE』。
コンタキンテソロライブVol.9『コンタキンテのNON STOP!』鑑賞。
受付で招待扱いにしてもらう。忝なし。

すでに舞台にはコンタさんが、と思ったら等身大の立てカンだった。
と、思ったら本当に本人も出てきて、前説。
一生懸命だな、相変らず。あまりに一生懸命な芸人さんというのは
見ていてイタさが伝わってきてしまうのだが、コンタさんの場合は
その痛さも含め個性なのである。

“全コント下ネタ”というウリの今回、先生たちの不倫ばなしが
スプラッタになってしまう“かぼちゃ幼稚園”から始まって、
“おしりかじり虫”のエロ替え歌“ちんぽしゃぶり虫”
まで。受付でティッシュを渡され(写真参照)、何に使うのかと
思っていたら、水鉄砲を客席に向かって次々噴射、濡れた顔を
それで拭け、という意味だった。

コントの間々にビデオが入る。国会議事堂前、自民党本部前、
民社党本部前などでパンツ姿でY字バランスするとか、
浅草で死んだフリをするとか、いろんな“羞恥芸”。
お客さんがノリがよく、笑いが巻き起こるから見ていられるが、
これでシーンとしていたら、いたたまれなくなって会場を
逃げ出していたかも。それくらい、濃くてイタい。
濃いイタ芸人である。ラストひとつ前の、自分の女王様フェチの変態を
ハムスターにだけ告白して自殺するサラリーマンのコント(と、
言っても笑いはほとんどない)などそれを前面に出したネタ。
いかにもコンタキンテらしいが、私としては、ここらで大きく
もう一歩ステージを上がってもいい実力を備えている人だと思う彼に、
一般客にも入りやすいネタ、わかりやすさを第一義にしたネタも、
やって欲しいと思ってしまう。彼の本意ではそれはないかも
しれないのだが、それでも。これは、単にカルト芸人が好きな
一ファンでなく、芸能プロダクションやっていた者としての、
“好きな芸人には売れて欲しい”本能なのだろうが。
歳をとってからも好きなことは出来る。しかし、売れるには
絶対、時期というものがあるのだ。

そこを出て、さて、6時からの広小路亭のダーリン先生の会までには
まだ時間があるし、どうしようかと考える。
メシをどこかで、と思い、そうだどうせ同じ銀座線なのだから、
と、東西線日本橋で銀座線に乗り換え、浅草まで。
まずは浅草公会堂に行き(さすが日曜でえらい人出)、
その裏手のチョコレート屋さんLISZT(リスト)へ。
http://www.liszt.tokyo.walkerplus.com/konshu.html
ここは、大友恵理さんがアルバイトしている店なのである。
行ってみたら、ホントウにレジでお客の応対をやっていた。
挨拶したら、舞台そのままの表情で驚いてくれた。
おすすめの品って何? と聴いたらオレンジピール
チョコだとのこと。そのセットを買う。

それから、六区の方へ行き、リスボンで夕食。
かねてより食べたかったチャプスイ付きのエビフライライス。
チャプスイは、白菜、モヤシ、ネギなどの入った野菜スープの
皿に、生卵が落としてあるシロモノだった(写真参照)。
美味い! ってものじゃないが、いかにも昭和の洋食、という味で結構。
向かいの席では、しゃれたスタイルの老人が、ぎこちなく
ナイフとフォークを使って、ポークソテーライスを食べていた。
何かタイムスリップしたみたいな感じ。

食べて、銀座線をまた戻って広小路、お江戸広小路亭前田隣ライブ。
ライブのハシゴである。開場30分前にしてすでに長蛇の列。
当日券は出ません、という張り紙あり。これはダメかな、せめて
挨拶でも、と楽屋のドアをのぞいたら、前座の小春ちゃん(談春の
弟子)がドアを開けてくれた。

ダーリン先生、ノリローさん等に挨拶、中に入れてくれる。
一番後ろの関係者席に入る。ロケット団、宮田陽・昇、立川談奈等
出演者に挨拶。ダーリン先生に、
「昨日の日記の、インタビューが来た雑誌ってのは××××じゃ
ないの?」
と当てられたのに驚く。常連の某氏が、そこの編集者だそうな。
世間は狭すぎる(今回のインタビューとは無関係。某氏、
構成予定表見て驚きました、と)。

ぎじんさん、待乳庵さん、アスペクトK田さんなど顔見知りも。
開田夫妻は来ていないので、あやさんにと思ったチョコは
ダーリン先生に。浅草住まいの人に浅草の店のものを
おみやげというのも気が利かないが。

で、開演。前説が西口プロレスの二人(リング衣装で上がる)
だったが、笑いがさっぱりとれないので、途中で焦れて
ダーリン先生上がって、自分で前説はじめた。

次が本当に開口一番の小春。ずっと後ろの席だったので、
座布団を直に敷いてその上に座ると小柄な彼女の姿はまるで見えない。
凄まじく達者かつオーソドックスに、柳家系の前座ばなし『道灌』。
何か声優さんの朗読を聴いているようだった。
次が談奈。あまりに小春がてきぱきと前座仕事をするので、
二つ目として、
「あまり働くとこっちの無能さがわかるから働くな」
と小言を言った、というのに笑う。
小春よりもむしろ滑舌は悪く、つっかかったり言い間違いをしたり
するのだが、不思議と、それが“個性”をかもしだし、前座という
機能、部所がしゃべっているのでない、特定の噺家のしゃべりとして
安心して聴ける、というのが高座のしゃべりのマジック。
いまだに紋付姿はハマっていないが、すでに高座は前座のもの
ではない。ちゃんとみなさん期待の(?)夢之助騒動もマクラに
入れたのは感心。こういうニュース性は今の芸人には不可欠。
ネタに入ってからは『だくだく』、さだやん譲りの軽みでこなしていた。

それからダーリン先生の漫談。楽屋では“今日は下ネタだけで
行こうか”と、コンタキンテみたいなことを言っていたが、
あがると、まず病気のネタからはじまって、晴乃ピーチクさんの
話になり、それからヅラの芸人さんの話になり、東京ボーイズの
旭五郎さんの話になって、おかみさんの話になり、と、
融通無碍、そしてエロ話にもきちんと持っていく。
爺さんのダベりと思わせておいて、ちゃんと笑いの間をとり、
かつ、客をいつの間にか引き込んでしまう話術は、私のような
モノカキの、エッセイやコラムの呼吸にも通じて、いや勉強に
なった。

続いて陽・昇、これまでは安心感だけだったが、場にも慣れて
ブラックなアドリブも飛び出し、何やらコッチ好みの芸人さんに
なってきた。どんなアドリブの小さい一言も逃さず拾う、という
二人の息の合い方にも感心。

そこで中入、K田さんとダーリン本についていろいろ。
仕掛けが必要というなら、と、奥の手を提案。
後半はロケット団から。前半で陽・昇にいじられて
いたギャグをちゃんと繰り返すのがよかった。見かけは陽・昇
より現代的な二人だが、漫才の形としてはこっち(特に倉本)が
オーソドックスか。東京漫才の若手のトリデとして頑張ってほしい。

で、最後はいつもの、ノリローさん伴奏での歌。
『モン・パパ』『胸の振り子』『スーベニール』。
そこでも出た雑談、もう少し聴きたい、と思わせてサラリと流す。
夫婦のちょっとプライベートな話題も出て、へえと驚く。
ただ、舞台で“今日は加賀屋貸切りだからみなさん来てよ”と
何度も誘っていたが、いかに貸切りでもあの店はせいぜい入って
50人くらいなので、今日の客が全部来たらあふれるぞ、と
思う。案の定、えらい混雑になった。しかし、貸切メニューの
せいか、いつもの打ち上げよりいいものが出たかも。
おまけに酒まで一升、差し入れがあった。
ワイワイと芸界ゴシップで盛り上がる。

席は離れていたが、常連さんのお一人が以前一行知識掲示板に
常連で書き込んでいてくれた雷蔵さんだと判明。
世間は本当に(と、何遍言ったか)。
11時ころ、挨拶交わしてお開き。地下鉄銀座線、丸ノ内線
乗り継いで帰宅。腹が減った(たまるものを食わなかった)
のでラーメンでも、と思ったが店が休み、仕方なく、
自宅で、茹で豚を作ったときの茹で湯がまだ残っていたので
これに味覇とダシ醤油を足してスープにし、麺を茹で、
冷蔵庫にあったものを乗せたら茹で豚で作った簡便チャーシュー、
半熟卵、メンマ、ネギ、ノリと、ラーメンの具がほぼ全部
揃ってしまった。啜ってみるに美味いこと。
昨日までの夜の食欲のなさは何なんだという感じ。
胃の元気さもダーリン先生から貰ったか。しかし元気な癌患者だ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa