裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

水曜日

グレート東郷失調症

リングの上では精神分裂のように暴れまくり……。

※札幌オタアミ打ち合わせ、『創』対談、『DVDデラックス』原稿、東文研新年会。

朝7時目を覚まし、寝床読書、米窪明美『明治天皇の一日』(新潮新書)。明治天皇は17歳まで京都暮しをしていたのだから当然とはいえ、宮中のものを叱るのに
「お前、何を言つて居るのや」
と、京都弁で叱っていた、というのはイメージがどうもわかぬ。女官たち仕える方も方で、天皇のことを“旦那さん”と呼んでいたらしい。

8時起床、入浴等如例。9時朝食、久しぶりに母の室。オレンジ半個、豆のスープ。母、羽田の泊まり込みでは警備員に誰何されたり、いろいろドタバタがあった模様。読売新聞の人生案内に、40代男性からの相談。30代女性と結婚し二人暮らしで笑いが耐えない毎日だが、ただ、セックスは快楽でなく種族保存のために行うものという信念を持っていて、妻が求めてくるのが腹立たしいらしく、いい年をして汚らわしい、と拒否しているという。
「動物的なセックスがしたいのです」
という表現に笑う。普通動物的といえばやりまくりの意味だが、彼はもっと生物学的に正確に、快楽のない、純粋に子作りのためのセックスを指して使っている。解答者の立松和平が彼に怒って書いた解答文の、
「動物が性交時に快楽を感じていないかどうかはまだ解明されていません」
と言うのも、どこかピント外れ。で、この男性、ある日妻に、そろそろ子供を作ろうと持ちかけたら、“あなたとセックスするつもりはない”と拒否されたそうで、それで相談してきている。身勝手というのを絵に描いたようではあるが、性の乱脈が常識の今日、こういう40代がいるのか、とむしろ新鮮に思えてしまった。まあ、どうせどこかの宗教がらみだろうが。

本日、阪神淡路大震災から12年目。その翌日、仕事で博報堂に行ったとき、“スピルバーグが援助金を出す代わりにクルーを入れて災害の様子を全部撮影させてくれと言ってきた”という話をそこの社員がしていたが、あれは本当だったのだろうか。

日記つけ、昨日と打って変わってまるでダジャレが思い浮かばず七転八倒。出るときはスイスイと五つ六つも出てくるのになんなんだろう。

『DVDデラックス』原稿、資料いろいろ見散らかすが、自宅には使えそうなものなし。12時半に母の室で昼食(キャベツダイエット再開、キャベツ焼きうどん)とって、すぐ出かける。事務所で書庫籠り。なんとか使えそうなものを探し出す。

原稿、書き出すが3時になってしまい、中断して時間割。眠田さん、札幌のゲーム会社ブルーゲイルのYさん。岡田さんも来る。6月に、ブルーゲイルの創立10周年記念のイベントを行うが、そこでオタアミをやれないかという話。やることに問題はないが、三人ともいろいろ忙しくなってしまって、スケジュールを合わせるのが難しい。最初に向うが提案してきた日時は私がダメ、じゃ前倒しで、とやったら岡田さんがダメ。なんとか17日あたりで、というところで落ち着いた。ネタに関して岡田さん曰く
「僕が豆乳ダイエット、唐沢さんがキャベツダイエット、眠田さんがダンベルダイエットで、ダイエット談義はどうです?」
と。向うは困った顔をしていた。

そこの打ち合わせ終わり、引き続き居残って『創』対談。このあいだ日記に書いた、
「今の若い人たちはマンガを“難しい”と言って読まない」
事件について。詳しくは『創』来月号を読んで欲しいが、もう一回か二回、引っ張れるだけのテーマであると思う。そう言えば昨日、発売(と、言うのか)された無料マンガ雑誌『コミック・ガンボ』を手に入れて読んでみたが、内容はともかく、タダでマンガが読めるという事実に、どう既存の出版社は対抗できるのか。そして、今は景気が上向きであるから成立する(広告収入で原稿料が支払われる)この無料
雑誌という方式、これほど好不況に左右される媒体もないと思うが、これを新たな媒体として頼り切って、マンガ家たちは本当にいいのか。

対談終わり、事務所に帰る。バーバラ来ているので、昨日片瀬くんから預かった原稿、渡して“ざっと読んで、出版出来そうなところがあるかどうか検討してみて”と依頼する。ネームバリューだけでいくらもありますよ、とバーバラ、自信ありげだがさて。

『DVDデラックス』原稿、書き上げる。原稿枚数を大幅に多く間違ってほぼ書き上げる間際に気がつき、半分以上を削除。どんなにベテランになってもこれ、一年に数回やらかすのだよなあ。K子と編集のKくんにメール。Kくんには、
「こないだ話したこと、『創』で対談したので出たら読んでみて」
と付言しておく。

6時40分、オノ、バーバラと事務所を出て、タクシー。車中、京都精華大学マンガ学科の学生が殺された事件について、
「殺された学生さんにはまことに気の毒であるが、“マンガ学科”という表記で悲劇性がかなり薄れた」
という話。真面目な学究生活を送っていた学生だったのだろうが、“マンガ学科”だと、イメージ上において、どうしても“バカに見える”のである。大学までいってマンガ読んでる奴、という色眼鏡で見てしまうのである。マンガ学というものが学問にまで出世して、まだ日の浅い時期に奇禍にあった悲劇だろう。

東北沢『バル・エンリケ』へ。ハートランドビールで今年もよろしく、と乾杯した後、ハモンセラーノ、イワシ酢漬け。それからワインで子エビのアルヒアージョ、マッシュルーム、ムール貝のスープ煮、さらに錦鶏の手羽先のスープ。これがあっさりで絶品。さらにイキオイづいてチーズ三種(ヤギ、羊、牛)、さらにモルシージャ入りもつ煮を食って、〆が定番のあさりリゾット。出汁が出ていること。いや、久しぶりに食って満腹。

外は濛(こさめ)だが、もう一軒、というノリで、下北まで行き虎の子。一昨日の日高見飲みつつ、例の件でテンションあがる。自分たちがあいつは人格破綻者である、と見極めた人間が本当に犯罪的人格破綻者であったことを確認できたことには満足するが、それにいまだ気づかず、いや気づいていても離れられないメンバーの哀れさを思うとやるせなくなる。なぁにが“天使ちゃん”だ。

ふと気がつくとカバンがない。中に、明日K子に渡す図版資料が入っている。青くなって、バル・エンリケに電話したらあった。ホッとする。忘れるものだなあ。12時くらいに出て、タクシーで東北沢に寄ってもらい、受け取ってつつがなく帰宅。明日は今度は焼肉である。太るなあ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa