裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

月曜日

UFOっ、いい男

私は宇宙人(♂)に「やらないか」と言われた!

※ウェッジホールディングス打ち合わせ、『東京中低域』ライブ

朝目が覚めて6時くらいかな、と思って時計を見たら1時半だった。仕方なくベッドの中で『偽書「東日流外三郡誌」事件』(斎藤光政著、新人物往来社)読むが、これがもう、なまじの小説などより面白くておもしろくて、最後の二章を除いてほぼ、一冊一気読みしてしまった。

東日流外三郡誌に関してはもう、偽書ということは知れ渡っており、その解明に関して新事実はない。と、いうか、そもそも東日流外三郡誌って何て読むのか、というレベルの読者にはやや、不親切な書き方かもしれない(三郡誌そのものの内容説明が80ページ以上読み進まないと出てこない)。そういう人は原田実氏の『幻想の津軽王国』(批評社)あたりを読んでから、の方がいいかもしれない。で、その著者の原田氏もこの本の中では大活躍している。ちなみに、この本の冒頭に出てくる原田氏の姿は、私が以前、この裏モノ日記で書いた
http://www.tobunken.com/diary/diary20030216000000.html
↑ここの描写にある原田さんの、数時間後の姿である。

果たして東日流三郡誌が偽書なのかどうか、どういう過程で作られてきたのか、ということはもう、さんざ語り尽くされた感があるが、この本が面白いのは、その事件を1992年以降ずっと追いかけて記事にし、外三郡誌擁護派からは偽作キャンペーンをはる悪のジャーナリズムとののしられるまでになった東奥日報記者が、東日流外三郡誌とその“著者”である和田喜八郎に振り回された人々の悲劇であり喜劇である人生模様を追った、人間ドラマなのだ。

それにしても、本書中の大物悪役として登場して、実際偽書派の動きをつぶそうと悪の限りをつくす古田武彦氏も、結局は和田喜八郎というデモーニッシュな人間に振り回された三枚目でしかない。和田という人間の凄いところは、人をだますのにあたって、巧妙なテクニックを全く用いないところだろう。いや、用いられないのだと思う。まったく、本書でも著者や周囲の偽書派が呆れるほど、子供でもわかるような小細工で、それを
「絶対の本物、正真正銘」
と言いきる。なまじいテクニックを使っていない分、古田のようなインテリに“これは本物”と信じ込ませてしまう、野太い迫力があるのである。和田氏が無教養だからこそ、できた詐欺だろう。インテリはしょせん、無教養な奴にはかなわない。

一番笑ったのは、衣川村に(もちろん和田氏の手で)安倍頼時のものして埋葬された遺骨が実はクジラの骨だったという事件だが、これに関しては以前、『GON!』ににこんなコラムが載った。
「安倍頼時がクジラだったなんて、まったく知らなかった。きっと子供の貞任もクジラだったのだろう。クジラが反乱を起こすとは、岩手県も鋭角的だ。グリーンピースも真っ青だろう。古事記などを読んでも、日本人の祖先は海産物であると思われるふしがある……」
安倍頼時はもちろん、今の安倍晋三首相の先祖だが、グリンピース出身の辻元清美は安倍首相をあまり厳しく追求してはいけませんな、クジラの子孫なんだから。

読み進んでいるうち5時になり、こりゃマズいとあわてて二度寝。起きたらもう9時近く。あちゃあである。しかも頭フラフラ、昨日の蟻酒がまだ残っている。入浴して、朝食。小型クロワッサンにマーマレードつけて二個。それとインスタントのオニオンスープ。

午前中はずっと、今日2時からのエースデュース打ち合わせに持って行く企画の書き直し。これが、書いたときにアイデアわかず、どうにかデッチあげた代物だったので、直しても直しても面白くならない。いや、面白くなるかもしれないが、わざわざ私が関わる必然性が見えてこない。大幅にタイトルからして直して一旦完成させたが、読み返してみて、これは本当にやったらえらい予算がかかる、と気がつき、あわててスケールを縮小させたら、やけにショボいものになってしまう。

しかも、いま、わが家のエプソンのプリンターはインク切れでプリントアウトができない。ちょっと早めに事務所に行き、プリントアウトして、そこから神田の某社に打ち合わせに行かねばならない。で、不本意ながらも何とか形になったものを事務所のパソコンに転送。

事務所に出てプリントアウトしようとしたら、パソコン不調でフリーズド。こういうときは頭の血管がブチ切れそうになる。一旦電源引っこ抜いて再起動、何とかことなきを得る。プリントアウトは出来たものの、やはり不出来。暗い気持ちで神田まで。どうにかこうにか、大遅刻はしないですんだ。

社長F氏、久しぶりだが相変わらず意気軒高。子会社A社のK氏と共に。いきなり、いまボーイズラブもののDVDが売れているんだ、というような話。本編よりメイキングの方が売れるそうである。私の旧著書を買い取って再版したいという話。ちょうど増補改訂版を出したいところだったので、渡りに船。こっちからも、向うに出した話が渡りに船的なものだったようで、どんどん話がふくらむ。まあ、ここらはF氏のことだから、話半分くらいに聞いておく。とはいえ、以前大きな企画がこのF社長(まだ社長じゃなかったが)の“あ、いいね、
それ。面白そうじゃない”の一言で実現してしまったという経緯があり、軽視できず。

で、いよいよ例の企画の話。メモを出すのがはばかられたので、最初雑談で、昨日のUFO講座のことなどを話しているうちに、F社長の発した一言で、アイデアが天啓の如くにひらめき、
「えーと、これこれでこういうのっていかがです? こうして、しかるのちにこうなって、こういうの」
と、企画を瞬時に頭の中でまとめて話す。話しながら、あ、これだ、こういう企画をやりたかったんだ、と自分でもノってくるのがありありとわかる。最初の企画内容を知っているK社長がちょっと呆れた顔をしていたが、F社長ノリよく、例の
「あ、いいね、面白そうじゃないの、それ」
が出る。幸先よし。じゃ、一週間後、それについてまた具体的打ち合わせを、と約して別れる。いやあ、一時はどうなることかと思ったが、まとまるときはまとまる。

昼飯を食ってなかったこと思い出して、地下鉄で赤坂見附まで出かけて立ち食い蕎麦。事務所に、何とか打ち合わせうまくいったお祝いに、青埜のうぐいす餅と花びら餅を買って帰り、オノとお茶で乾杯。まあ、まだ最初のステージをクリアしたって段階に過ぎないが。

モウラに図版資料送ったこと確認してから、いろいろと連絡。それから6時、家を出てタクシーで下北沢。乗ったタクシーの運転手が
「唐沢さんですよね……Sです」
と声をかける。子供の就職を相談され、NHKをすすめ(一回目に乗ったとき)、それにしたがって就職試験を受けて見事合格(二回目)、研修期間中で、終わったらどこかの地方局に配属されるのでいま、配属希望で悩んでいる(三回目)と、その家庭事情をずっと追うみたいな形になった運転手さん。別に乗り場に並んでいるわけでなく、流しで回ってきて、四回も同じ運転手のタクシーに乗り合わせるとは奇遇も奇遇、西手新九郎正兼(まさかね)。配属先のことなどを聞く。降りるとき、“じゃ、また”と挨拶してしまった。

下北沢駅前で降りて、そこから『東京中低域』初ライブ会場の440なるところ、サイトの地図とその案内図が極めてわかりにくい。“右と左がわかんない人間が書いたんじゃないか?”と思うくらい。着いてしまえば“なんだ、ここか”なのだが。モウ諦めて帰ろうか、と思ったところで松本健一さんに会って、“あそこですよ”と教えられて、やっと行き着けた。確か大久保のライブのときも、迷ったときに松本さんに出会ったのだった。不思議な縁。

まだ前の方の席にどうにか座れる時間だった。客席には鈴木慶一氏(らしい)姿も見えた。舞台にはスクリーンが降りて、ロンドンライブの模様が中継されている。しかしみんな、仲がいいねえ。ドリンク兼でビールちびちびやりながら待つが、テーブル席のグラスに立ててある、細目のスパゲッティを揚げてクレイジー・ソルトをまぶしたようなスナックがやたらおいしい。

やがてライブ開始、今回は赤の衣装で統一しているようだが、タンクトップのシャツありスキーウェアみたいなのあり、てんでバラバラ。ここまで各人の外見と個性がバラバラであれだけ演奏にまとまりがあるのが一奇。バラバラと言えば
「♪マイベビベビバラバラ……妹がバラバラ」
というベタなギャグも飛ばしてくれてました。これに限らず水谷さんの脱力系トーク、今回も全開に脱力気味。おまけにステージの上でのアクションが少年みたいに無邪気でますます年齢不詳。

狭い店内だが、それだけに生バリサクの振動が直に伝わり、ちゃんと恒例の“お練り”もあり、満足。松本さん大活躍で“朝までやるぞ!”とかガンバっていたし(ちなみにタンクトップシャツはこの人)、アンコールでは“今回はないのか”と残念に思っていた田中邦和の超絶奏法も聞けた。田中さんは中低域結成時に某メンバーに対し“あいつを殺してオレも退団する!”と、えらい不公平な怒り方をしたことがある、というエピソードを水谷さんが紹介していたような、ガタイもデカく体育系ぽく見える人だが、実は東大のジャズ研出身というインテリなのである。

女性ファンがとにかく熱心なのも東中域の特徴だが、今回、最前列のいいテーブルに座って、前半の途中、トークの最中に席を立って帰った女性二人連れがいた。トークをしていた水谷さんが、ちょうどアブナい話をしていたときだったのでやや、ビビっていた。都合で早く帰らねばならなかったのだろうが、なら、最前列に座るというのはいかがなものか。途中で帰る客を見て演奏者のテンションはやはり下がるだろう。最前列に座るくらいのファンなら、そこらへん気をつかって、中座しなければならない日は後ろの目立たない方に席をとるとか、できないものだろうか。

出て、少し腹でもふくらそうかと思っていて、虎の子の前を通ったらキミちゃんが客のいない店内で退屈そうだったので新年の挨拶に入り、イッパイ。もうここの店も六年目だという。馬刺し中トロを肴に日高見をやっていたら、急に客が立て込んできたのでまた、と出て、帰宅。家でネット見ながら水割缶小一本飲んで、12時半、就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa