裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

火曜日

ドジっ娘ふなっこ

夏になればコミケも開きドジっ娘だの眼鏡っ娘だの同人誌たくさん売れるべなー。

※『鉄人28号 白昼の残月』試写会 『三丁目の猟奇』ゲラチェック

朝6時半起床。掃除などしていたらすぐ8時になる。入浴、朝食。明日からは母がいるので、残ったミニクロワッサン5個、残らず食べた。さすがに腹がくちくなる。

日記つけ。“UFOっ、いい男”というシャレは夢うつつの布団の中で思いついて、自分で笑い出してしまった。毎回、日記つけ終わってからタイトル決まらず四苦八苦するのが常なので、前もって決まっている場合は実に気が楽である(なにもそんなに苦労せんでも、と思うが)。

某企画についていろいろメール。その中で、BLという単語を使ったら先方から
「すいません、BLってなんでしょうか。ブリスターのことですか?」
と。ああ、特殊業界用語だったか、これ。つい、日常語として使ってしまった。ブリスターも一般にはわからぬと思うが。

ミリオン出版『三丁目の猟奇』ゲラチェック。終わって2時、急いで出かける準備をして、地下鉄で銀座。期限切れ卵事件のせいで、不二家が店を閉めていた。地下鉄の新聞売り場の垂れ見出しにも不二家、森永に吸収か、とある。銀座と言えば不二家、という記号、ペコちゃんのあの人形、そしてポパイやオバQを提供してくれたあの不二家、われわれ世代にとりある種“戦後”の象徴でもあった不二家が、こんなに簡単に消失の淵に立たされるとは。年末に恵比寿ガーデンルームの楽屋廊下に自販機で不二家ネクターを十年ぶりくらいに飲んだが、あれが最後になってしまうのかな。

昼飯は『むぎたん』。以前、K子と夜、飲みに入った店。牛タン焼きにとろろ麦飯の定食。“祝・復活!”と書いてあった。隣のOL二人連れ、ずっと納豆の話。えんえん話して、
「……なんか、これじゃテレビに毒されているみたいだけど」
と。“みたい”じゃなく本当に毒されていると思う。

そこから銀座線で一駅、京橋。今日は今川泰宏監督『鉄人28号 白昼の残月』試写なのだが、少し早いのでエクセルシオール・カフェで時間つぶす。そこで読んでいたのが石破茂・清谷信一『軍事を知らずして平和を語るな』(KKベストセラーズ)。内容はもう、石破さん清谷さんの面目躍如なマニアぶり(石破さんはマニアと呼ばれるのがいやらしいが)が縦横にあふれていて面白い。左翼の平和ボケを突くばかりでなく中国脅威論や日本核武装論などを言う右の方の戦争ボケもちゃんと指摘しているバランス感覚がいい。全ての論に賛同するわけではないがアジアでの日本のイメージを変えるのはドラえもんやキティちゃんによるオタクパワーだ、という着眼点なども面白い。

とはいえ、いわゆる平和ボケ運動家たちはまず、このタイトルだけで拒否反応を起すだろうし、本当に問題なのは平和ボケしている人々ではなく、日本の軍事・政治機構を劣化させるべく運動している連中なのであって(平和ボケは悪いことではない。しかし、平和ボケ国民を利用しようとする者がいるとき、その存在は国を危うくするものとなる)、理性・理屈をいくら言っても空しい気もする。この本が内容に比していまいち売れていないというのも、常識ある国民にはもはやこの本で主張しているようなことはわかっていて、その上で、この主張を通せるような日本にするにはどうしたらいいか、が聞きたい段階に入っているからではないか。

対談集ですらすら読めるので、思いの他早く読了してしまい、早めにカフェを出る。これがよかったので、試写の案内状をよく見たら、会場がちょっと離れたアサコ京橋ビルだった。片倉キャロンと間違えていた。あわててアサコの方へ向かう。

で、『鉄人』。以前の、昭和30年代を舞台にした04年のテレビの鉄人シリーズからスピンアウトした劇場公開作品であるが、テレビ以上にレトロ感覚をあふれさせた濃い造り。いかにも横山光輝作品、のように見えて、横光という人は実際には作品にこのように時代感覚を大きく付与する人ではなかった(結果としてそうなっているだけ)。これはもう、完全に今川泰宏作品、今川ワールドの物語である。

ティム・バートンが『バットマン』を自分のイメージで映像化してしまったあたりから、日本でも
「そうか、こういうことをやってもいいんだ」
と気づいたクリエイターたちが、かつての自分のハマった作品を自分なりの世界観で再構成する、というムーブメントが巻き起こった。今川監督の『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』が、その嚆矢だったと思う。それに続き、さまざまな映像作家がさまざまに自分のフェイバリット・ヒーローたちをリメイクしてきたが、今川監督のように、原作ファンからも絶賛を受けたものは少なかったのではないか。たとえどのように作品世界を改変しようと、彼の作品には横山作品、横山キャラに対する愛があふれかえっており、それを自己満足でなく、
「こういうの、見たかったでしょう?」
という、オトナになった横光ファンの心をくすぐるサービスとして見せている。その出し方のうまさが、彼をしてほぼ万人が認める横山ファンのトップとしているのである。

今回は初めての劇場用長編演出ということもあり、ちょっと力み過ぎの感は否めず、またオープニングの処理などそれはどうなのよ、と言いたい部分が多々ある。“廃虚弾”なる兵器の、架空兵器とは言い条あまりの現実味のないところも気になる点だ。また、ショウタロウ(正太郎の異母兄)が特攻隊の生き残りという設定であるなら、終戦時に20歳くらい(ゼロ戦の名パイロットだったという設定からいって17や18ではあるまい)であったにせよ、昭和33年時点ではもう30を越しているはずであり、作品中のショウタロウはあまりに若すぎる。

そんな文句は多々、あるにせよ、ショタコンであばれ天童で村雨竜作で三丁目の夕日で同潤会アパートでベラネード財団でおまけに伊福部昭だ。鉄人ファン、横山ファンとして、あの実写のあとでこれでは褒めずばなるまい。このアニメは、“戦後”にまだ本当の決算をつけていない日本人へ向けての今川監督なりのメッセージだろうが、思えば日本の戦後漫画史は、手塚治虫を必要以上に過大評価し、横山光輝を必要以上に過小評価してきた歴史であった。今川泰宏という人物の出現によって、その“戦後”に、いま、やっと決算がつけられるのかもしれない。

終わって試写室出たところで、配給会社の人から挨拶され、名刺交換。映画、気に入った旨を告げると、コメントを宣伝用にいただけないかとのこと。メアド告げて、連絡くれるよう言っておく。

試写会始まる前、携帯のスイッチを切ろうとするまさにその寸前にオノから電話。昨日朝に送った『週刊現代』マンガ評、コラム欄のリニューアルで文字数が変わったので、かなりの行数を削らねばならず、そのタイムリミットが今日6時だという。終わったらトンで帰るから、と伝えておく。で、タクシーの中で、オノに“これから帰るから”と連絡。そしたら、“じゃ、その後7時くらいにミリオンのゲラの受け渡しを”と言われてハッと気がつく。赤を入れたもの、自宅のテーブルに置きわすれてきてしまった。Yくんに連絡して、夜、自宅の方に取りに来てもらうよう変更を指示。

事務所についたのが5時半、15分でゲラの行数削りをやってFAX。折り返しで間に合いましたと編集Nさんから電話あり、ホッとする。明日の東文研新年会の店、予約。

6時半、片瀬くん来訪。ある件で人から預かった原稿を持ってくる。その世界では大変に著名な人(故人)のことにつき、これまた大変著名な人が思い出を綴った原稿。これがある事情から出版できないでいるので、その件で相談。力になってみようと約す。それと同時に、その原稿を書いた人にちょっと頼みごとが出来るかどうか、打診してみてくれと依頼する。奥さんが私の大ファンなのだそうである。意外なつながりである。

8時帰宅。半にバイク便来て、『三丁目の猟奇』ゲラ受け取っていく。担当Yくんとメールやりとり。企画書まとめのメモ製作しながら、料理。ソーセージと鴨肉のポトフ。野菜はセロリ、トマト、ジャガイモ、タマネギ。ちょっと前に作ったときは煮過ぎて失敗してしまった。今回はそこに注意して作る。果然大成功、スープも鴨肉使ったせいか大変にうまく、大鍋に作ったものをそっくりさらってしまった。母、無事帰京。結局企画書はまとめられず、古いプロレスのビデオなど見て酒飲んで、1時就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa