裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

25日

水曜日

思い権田原試練の道を

神宮外苑近辺で黙々と練習する飛雄馬であった。
朝6時起床、早いが目が覚めてしまったので日記つけなどしばらく。9時朝食。リンゴと黄桃、スープ。朝食時は寒かったがやがて日差し強くなり、庭を見たら日が当たっているところが綺麗にその線に沿って雪解け。とはいえこういう快晴の日は夜になると寒い。

東京へ拠点を移したという小村りこ(現・江辺香織)ちゃんからのメールに返事出すが何故か何度打っても返ってきてしまう。
2時過ぎまでアスペクト『ホリエモン逮捕号外』原稿、オチに持っていくダンドリつかずに難航。いったん弁当(タラコと卵焼き)使い、気分替えて事務所へ。

講演依頼が2ヶ所から、いずれも5月、場所は酒田と福井。こういう仕事がないとまず行かないと思うところなのでうれしいが、日帰りだと何も見られず食べられずで終わってしまうんだろうなあ。実を言うと、トークとか漫談ならともかく、エラそうなことをたれる講演というのはあまり得意でない。とはいえ、マネージャー一人分の給料まるまる、一回の講演でまかなえるわけで(トークはそんなにいかない)、月に一回は講演仕事をとりたいと経営上の都合で思う。

原稿、引き続き。5時までになんとか完成、当初の予定の倍近くの分量になった。急いでオノと二人で時間割へ。某社某さん。今年初めて会うのであったが、なんか目のあたりが落ちくぼんでいる様子。話を聞いたらやはりちょっと年末からトラブルあった模様。それで連絡がとりずらかった、と。代案を作ってきたというので見てみるが、これがなかなかの出来、というかウン、これはいい、最初にこれが出ていれば……というものだったので、こちらの気も落ち着く。

これが準備されてなかったとしたら、席を立って帰ってしまったところ。その代案の出来を褒めた上で、
「いいですか、お仕事をやっていく上で最も大事なのはリスクコミュニケーションなんですよ」
とお説教。

「ことに今回の場合は私とYさんの二人きりのお仕事(したいけど)じゃない。私は言わばプロデューサーの立場です。何かあって、それが相手に伝わっているのに私が知らない、では私の顔がつぶれるわけです。私は人同士の信頼というのは、ネガティブな情報をどれくらい伝えてくれるか、ということにかかっていると思います。いいことしか言わない人とか組織とは仕事はできません。今回の件で、私はそのトラブルの件を年を越して伝えられてなかった。本来なら冗談じゃねえやになるところです。人の能力というのはトラブルを目の前にして善後策がきちんと立てられるかどうか、で決まるものだと思います。自慢じゃないが私は善後策を立てさせれば達者な方です。安心して、今後、悪い報せほど早く、確実に伝えていただきたい」
と述べる。

これだけ読むと私が実に理性的で情にあふれたいいおじさんに思えるであろう。実際にはそれにかこつけて
「罰として今度一晩、つきあいなさい。いひひひひ」
とヒヒ爺ぶりを発揮。承諾をとる。

以前、オノプロ時代に伯父がでかいビジネスの打ち合せに行き、その交渉を成功させて上機嫌で帰ってきて、こちらも勢い込んでその準備をしていたら当の交渉相手から電話があり、実はさっきの話はウソで話が最初からなかったことになっていた、と伝えてきて愕然としたことがあった。
「小野さん(伯父である)があんまり喜んでいたのでそれを伝えられなくて……」
とのことだったが、お互い弱い人間同士だと、こういう信じられないことが起こり得るのである。

仕事場に戻り、そのトラブルの件を相手側にメール、最悪の事態には至らずホッと。7時、家を出てオノとタクシーで新宿、中央線で中野。開田夫妻と北口改札で待ち合わせ、金沢と能登でのトークの打ち合せという予定。開田さんが中野でどこかいい店を開発したい、と言っていたので、こないだシャオヤンロウを食べてうまかった金竜門に誘う。店の位置がいまいち不確かだったので、オノを改札で待たせて確認。確認して正解で、記憶と本来の通りが一本違っていた(こないだ入ったのが行き当たりばったりだったのだ)。

台湾人のお父さんに
「こないだここでバッグ忘れていったんだけど……」
と言ったら、
「アア、アルヨ」
と出してくれた。
年を越して一ヶ月ぶりの再開。
「わかっていたならなんで早く取りに来ないのよー」
とあやさんに言われるが、
「あるってわかっているなら今度ここでメシを食うときに受け取ればいいから」
と答えてノンキさに呆れられる。
打ち合せそのものは1分かからずに終わり、これも 呆れられた。

あとはシャオヤンロウ。ここの羊肉はきちんと羊の旨みがあり、実にうまい、と自分では思っていたのだが、羊にうるさいオノはじめ、開田さん、あやさんにも大好評で、面目をほどこす(サンモールにあって、以前悪評フンプンだった某オサレ系ジンギスカン屋はつぶれたようで、みんなでガッツポーズをとる)。肉に味噌ダレと、香菜をまぶして食うと最高。春雨も餃子(中にいれる)もうまいが、最後に入れるラーメンが特筆的にうまい。
「羊からこんな旨いダシが出るとは」
とみんなで驚く。

青島ビール、関帝紹興酒と飲んで、
「パイチュウ(蒸留酒)はないの?」
と聞いたら、ちょうど一本、汾酒があったので
(たぶんお父さんが台湾に帰ったときおみやげに買って店に置いておいたものだと思う)
開けて飲んでみると実に上品で結構な味汾酒はマオタイと同じく高梁を原料とするが、ラベルを見ると他に大麦と豌豆マメも原料であるらしい。お父さん、
「フェンチュウにはコレが合うヨ」
と酔蟹を出してくれて、自らハサミでジョキジョキ切ってわけてくれる。うーむ、これは酒がすすむわ。

オタク話(ホリエモンは『王立宇宙軍』の大ファンであったとか)、映画の話、旅行の話、芝居の話、ひとの悪口など盛り上がり、気がついたら4人で汾酒ひと瓶、空けてしまっていた。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa