裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

27日

水曜日

朝だオバケだ

 オバケなら夜出ろよ。朝、早起きしてメールチェックするが、昨日の返信に対する再返信なし。その件の私から見た問題点をまとめて、関係某人にメール。別にこれ自体大したことではないのだが、一度こういうことは流してしまうと、今度大きいことで何かあったときにものが言えなくなる。トラブルになりそうなことはきちんと、仕事の関係者たちには説明しておくべき。風呂入り、朝食後、パソコンの前でいろいろ考える。気圧の乱れのなせる業だとは思うが、神経かき乱されて大立腹状態。

 それやこれやで少し遅れて9時半、家を出る。地下鉄丸の内線で新宿まで出、31日の京都行きの新幹線を予約。タクシーで仕事場に到着したら、その新幹線で向かう先の山田誠二さんから、新幹線の時間を問い合わせてきた。さらに日テレから、『サンクチュアリ』打ち合わせ日取り問い合わせ。もひとつ日テレから、『世界一受けたい授業』、苦労してネタ出ししたら、方針が変わったので、また一からネタ変更を、 という報せ。ダアとなる。

 いろいろとイラつくが、昨日の『デビルマン』の感想をメモにまとめているうちに怒りが収まってくるのを感じる。
「あれを許せたのだから、他のことを許せぬはずがないじゃないか、自分は」
 というような気になってくるのである。ニュースでイラクのテロリストに捕らえられたツーリストのことを報道、そのあまりのバカ(命の危険にさらされているものをこう表現するのは不謹慎だが、そうとしか表現のしようがない)さ加減に腹も立ちそうなものだが、これもなんとなくいい感じに見えてきてしまう。まあ、だいたい自分探しなどという恥ずかしい言葉を口にする若者というのはどうしようもない連中と相場が決まっているが、あそこまでどうしようもないというキャラはなかなかいないものである。世界最狂のテロリストにつかまった犠牲者、という悲壮感というよりは、原宿の裏通りで不良にカツアゲされている中学生みたいな気の毒さしか伝わってこない。同情はするが、どこかで苦笑せざるを得ないのである。さすがの市民団体も今回 は拳の振り上げようがなかろう。

 どこかで既視感があるな、と思ってハタと思いついたのは、あの風船おじさんである。小学生にすら無謀と思える行為を敢えてして、空へ消えていったあのおじさんをバカとは思っても、嫌ったり、命を粗末に、と憤ったりする人はあまりおるまい。あの人が風船おじさんというあだ名で記憶されるなら、この香田青年も“イラク兄ちゃん”くらいの名前で呼んであげるべきではあるまいか。ぜひとも日本に生きて帰り、ちょっとマスコミにちやほやされたりして、そのバカさを全国民の前にさらして楽しませてほしい、と願う。ニュース種が他になければ新聞もテレビももうちょっと騒いだかも知れないが、世間の目は新潟地震で救出作業が続いている車中の母子の方に集中して、あまり大きくも扱われないという、この間の悪さもいい。人間なんてこんなもんさ、という気にさせられて、朝からの憂さを一時忘れさせてくれた。やはり『デ ビルマン』は偉大な映画なるかな。

 日記書き、気圧であまりに頭がテンパっているので、公園通りのマッサージまで出かける。初めての先生。おじさんぽい人だったが揉み方はうまく、ウトウトとしてしまった。出たのが5時半。東急ハンズに寄り、買い物して帰宅。幻冬舎のSくんから次の文庫を出したいという話。すでに事実上機能しなくなっている某社から出したものの件をメール。すぐ返事来て、打ち合わせの期日を。今年は進まない仕事が多くてイラつきもしていたが、よく考えると文庫や単行本は案外コンスタントに出しているし、また今後の企画も続いているのである。モノカキとしては幸福な方である。

 9時半帰宅、K子は語学で遅いので、母と二人で夕飯。タイちり湯豆腐、ナス炒めなど。とりとめない雑談しながら焼酎と日本酒。最後に石垣牛という高級牛肉を珍しく(わが家で食べる牛肉はたいてい、サントクの売り出しで買った安肉である)焼いて食べる。さすがにその味わいは比べものにならず。

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