裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

日曜日

DV女優

 家庭内暴力の演技をやらせたら日本で彼女の右に出るものはいません。夜、雨の音が枕元の窓からかなり強く響いていた。6時起き、少しパソでメールなど。と学会のMLで復刊された岩崎書店レイモンド・ジョーンズ『合成怪物の逆しゅう(合成脳のはんらん)』ばなしなど。あの当時の世代にとってのトラウマ小説のひとつであり、これが復刊されて現代の少年少女読者をもトラウマに落とし込むと思うと痛快である(もっとも、買うのはほとんどが子供時代に読んだわれわれロートルだろうが)。ゴセシケ(合成神経細胞群塊)の不気味なイラスト(三輪しげる)が変わってしまっているのも減点対象。岩崎書店のこのシリーズ、挿絵を灘本唯人、久里洋二、和田誠、井上洋介、田名網敬一、井坂芳太良という今思えば凄い面々(とはいえSFを描かせるにはどうかというような面々)が担当しており、そのミスマッチがまた、こちらの意識に強く残ったような気がする。ゴセシケももちろんだが、ハインラインの『超能力部隊』なども、単純なヒーローものかと思って読んだら、女性を全裸にして処刑するシーンがあったりして、これまたトラウマだった。なをきはいまだにアシモフのロビイやスピーディはこのシリーズの『くるったロボット』の中の、和田誠のあのイラストのデザイン以外認めぬ、と頑張っている。頑張られても困ると思うが。
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 7時入浴、7時35分朝食。アボカド半個、リンゴ。8時45分、タクシーで仕事場へ。今日の待ち合わせの東武ホテルの場所の確認など、連絡事項多々あり。なかなか忙しい。FRIDAYのコラムを書いて講談社へ送信。11時半、出てコンビニに行き、日用品を買い込む。帰って昼食、オニギリ一個(高菜)、納豆。朗読コンテンツ原稿を続けて書く。ときどき煮詰まると、アマゾンから送られた『ふしぎの海のナ ディア』DVDを見たり。

 雨、相変わらず。5時、東武ホテルロビーへ向かう。入り口を入ったところで、
「あ、カラサワ先生!」
 と声をかけられる。うわの空のツチダマさん。今日はマネージャーとしての役割でセミロングのコートに黒のシャツ姿。なかなかに決まっている。ロビーに二人で入るとすでにザ・ワークスのIさん、Kさんが待っていた。ツチダマさん紹介して、三人で雑談などしながらおぐりゆかを待つが、なかなか来ない。ツチダマさんが携帯で連絡とると、どうも迷っているらしい。こっちはいつも来ている場所だから、“公園通りのパルコの先”としか伝えてなかったのだが、東急本店の方に行ってしまったらしい。こういう大事な時に困ったこと、ではあるのだが、それがまたいかにもおぐりらしくて、苦笑してしまう。昔、川上宗薫が“手紙に誤字のない女性とはつきあいたくない”とエッセイに書いていて“変な趣味だな”と思っていたのだが、ああ、あのデンか、とこんなときに思い出して納得。私が日頃、マンガや映画などに言うことで、欠損というのは、作品の欠点になるばかりではなく、時には最も大きな魅力になり得るのである。この日記の読者諸兄も、遅刻もしない女とはつきあいたくないであろう (ね?)。

 IさんKさんとの“間の悪い時間”を雑談でツナぐ。やがて駆け込んできたおぐりが、よほどあせっていたのだろう、小林まことの『1・2の三四郎』みたいな口のカタチで飛び込んできて、息を切らしながら“どをも、すうぃませえん!”と叫んだの に、心の中では手を叩いてしまった。キャラ、立ちすぎ。

 喫茶に場所を移して、番組の打ち合わせ。向こうはやはり助手キャラで行きたいので、白衣をおぐりには着せたいという。あと、メガネ。これは現場で、用意した小道具のものをかけさせて判断しようということに。ダンドリその他は前に送っておいた台本をもとにこちらで話をつける(Iさんが嬉しそうな顔で“あれ、面白くなりそうです”と言ってくれた)。あとは3日後の収録日に、ということで、とりあえず二人は帰る。……話しているうちに、ちょっとこっちの認識が改まる。最初は日曜4時という早朝の時間帯で予算もロクにない、ショボい番組だと思っていたのだが、こういう風に打ち合わせを繰り返しながら番組を作っていく姿勢や、スタジオの場所、入館手続きの確認など、細かいところまで分担が決まりテキパキと進めていく様子は、さすがプロの仕事、という感じだし、番組のことをネットなどで調べていくと、特殊な時間帯の放送ながら(それ故に?)、カルト人気を保っている番組であるらしい。これはちょっと、気を引き締めてかからないといけないぞ、と思ってきたのである。

 今日はこの後、島さんと朗読コンテンツの打ち合わせもあるので、待つ間、われわれ三人は同じ席で雑談。このホテルのこの喫茶店は、NHKが近いこともあるのだろうか、タレントさんの打ち合わせのメッカで、前は何故かしらないがタヌキのヌイグルミを来たままのコメディアンが他のネクタイ姿のスタッフと打ち合わせていたし、イケメン系からAV系まで、必ず誰か彼か業界人風がいる。まあ、われわれも今日はその組なわけだが、別のテーブルで打ち合わせしていたお姉ちゃんたちの服装が、タヌキのヌイグルミ以上に凄かった。AV系なのかなんなのか、みんな派手々々で、一番凄いやつなど、背中がぱっくり開いているというか、背中の部分に生地がないというか、黒ブラが丸見え。なんのこたない、ハッピを後ろ前に着ているようなもんじゃ ねえか、と思ってしまった。

 土曜の朝日夕刊もおぐりにあげる。ピンホールコラムで南野法相のことを書いたのだが、中に演劇のことにからめて、ちょっと彼女の名を使わせて貰ったのである。田舎のお母さんが驚いていたという。とにかく、売り出し中には“出し過ぎ”というく らいあちこちに名前を出さないと駄目。

 15分ほど待つうちに、6時きっかり、雨の中、島さんと、村木座長までが来てくれる。すぐに出て、さて、最初の予定では牛タン焼きの仙台四郎あたりにと思っていたのだが、少し変えようと、歩いて『九州』Mで久しぶりに。おばちゃんが“あら、おひさしぶり”と、座敷に上げてくれた。さきほどのおぐり打ち合わせの報告と、島さんのコンテンツ渡しなどをすませた上で、馬刺、わらすぼ、薩摩揚げなどで乾杯。おぐり&島の売り出し計画を。島さんはラジオに売っていくつもり。おぐりはこの番組を元にDVDを作る計画が進んでいるが、どう作っていくか、というようなこと。
「講談社のアイドル系DVDなら、水着きせて浜辺を走らせればそれで出来ちゃうん だけどねえ」
 と言うとおぐりが
「ワタシ、顔は巨乳顔なんですけどねえ」
 と、またワケのわからんことを。

 馬刺にはタテガミ部分がたっぷり添えてあり、島さんが感動。モツナベも大好評。ただし、カラシレンコンだけは“久しぶりにまったく関心の湧かない食べ物に出会いました”と。話して食べて、であまり気がつかなかったがムチャクチャ飲んだ。ふと気がつくと、焼酎の720ミリリットルボトルを二本、スッカラカンにして、村木さんと二人で人の月旦で“アイツぁ駄目だ”“そうだそうだ、なんだ、アイツのくせにエラそうに”などとダメダメな盛り上がり方をしてご機嫌になっていた。しかも、モツナベの後のチャンポンを食べているあいだにみずしな孝之先生から電話あり、いまアリキリの石井さんと一緒に渋谷にいるので、どこかで合流しようと。

 久しぶりの大ノリで店を出て、みずしなさん、石井さん、あと放送作家の人と落ち合い、どこか店を選んで、というので、以前よく使っていた、名前忘れたダイニングバーの方へ。幸い空いていて、総勢7人で入って、また飲み。石井さんから、コンビ名を決めたエピソードや、西園寺刑事役のことなどを聞く。うむ、非常にいい話を聞いた! とそのときは感動したが、さてどれくらい身になったものか。なにしろこのときは既にこっちの全員、異様なテンションになっており、ツチダマさんが注文のとき“シャルドネ”と言うと、みんなで“あはははは、シャルドネだって。あははは”と、何がオカシイんだかよくわからないが大ウケとなる。私も八海山など飲みながら やたらハイになってしゃべるが、舌が動かない。おぐりがそれをつかまえて
「ヤーイ、ろれつが回ってない」
 とはしゃぐが、そういう彼女のろれつも回ってない。島さんのみは乱れもせずに、サンマ塩焼きとか、ひたすら食い物をつついていた。クールだ。結局、千葉組の電車終点に合わせて出たのが、12時ギリギリ。と、いうことはつまり、飲み始めたのが6時だから6時間、四半日エンエンと飲み続けていたわけである。こういうテンションも最近、珍しい。やはり劇団の人たちとつきあうと若返るなあ。もちろんベロの酔いではあるがキチンとタクシー拾って帰宅、キチンとシャワー浴びて就寝、ああ、オレはなんとしっかりしていることであろうか、と自賛するが、気がついてみたら傘を どこかに無くしてきていた。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa