裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

9日

土曜日

ダイバダッタがよーほほほっ

 ダイバダッタが150人(それは怖い)。朝4時、暗い中起き、朗読コンテンツ原稿、一本仕上げて送る。窓の外は雨、まだひどくはなってないがそぼそぼそぼという感じで降り続く。とはいえ争えぬもので朝っぽい明るさにはなる。少し寝て6時半再 起床。7時入浴、7時半朝食(バナナとブドー、半熟卵小一ヶ)。

 今日は予定ではこれから仕事場に行き昼までに残りの朗読原稿書き上げて送り、それから1時に明大前の東放学園で1時間半講義をして、その足ですぐ護国寺へ出て講談社で島優子さんとコンテンツ録音。そのあとうわの空のみんなと合流して谷中のもんじゃ屋へ……と書くと、それほどでもないスケジュールだが、なにしろこれだけのことを過去10年の中で最大という台風の直撃の中で行う。蔵前籠じゃないが、もんじゃ食いの決死隊になるかどうか。9時半現在、窓の外は意外に静か。

 タクシー出勤、まずコピー機で今日の東放で配ってもらうチラシ作り。窓の外の雨を眺めながら朗読原稿。都市伝説の資料を読み散らかしながら昨夜あたりはどうやって書けばいいんだ、と頭を抱えていたが、すでに二本、書き上げて我ながらなかなかという手ごたえを得て自信をつけ、どんどん書き進める。男女ペアでの朗読だから会話が中心になり、会話なら昔コントの原稿をオノプロの若手の練習用に書きまくっていた経験があるから得意なのである。結局、家を出るギリギリの時間までに三本、書き上げて講談社Yくんと島さん、土田さんにメール出来た。その際に、家で書いたやつのデータをあっちのパソコンに保管して忘れてきたことに気がついたが、K子に電話して送ってもらって事なきを得る。綱渡りの連続でヒヤヒヤ、しかしアドレナリンは確かに分泌されるし、こういうものを書くことが面白くなってきた(創作モードに切り替わった)自分を確認できたのは貴重な経験だったかもしれない。。出かける前 にホンコン焼きそば作ってかき込んでいく。

 タクシーで東放学園明大前校、Kさん迎えに出ていてくれた。講義準備室で少し話す。雨の中、うわの空のチラシを尾針恵が届けてくれる。アメリカで以前買ってきたウサギの人形を出かける前に見つけてカバンの中に放り込んでおいたので、それをご苦労様賃で進呈。授業。昨日、ミクシィのメッセージでくすぐリングスの打ち上げで挨拶したユウトさんが聴講しに来てくれて、お菓子まで(実家が和菓子屋さんなのだそうな)いただく。が、生徒はなにしろこの台風の中、ほとんど登校してきておらず15人ほどの寂しさ。とはいえここで話したことを後でまとめて本にすることが私が講義を引き受けた目的なので、人数はどうでもかまわない。『文筆(雑文)業入門』と題し、“ものを書くことで食っていく(しかも妻子を養う)ためのテクニック”を 講義する。

 講義終わった頃にやっと雨、本格化。“本日の午後の授業は中止になります。生徒たちは校舎内に残らず帰宅すること”と校内放送がある。タクシーで駅まで、と思ったがタクシーが電話してもつかまらず、Kさんがご自分の車で初台駅まで送ってくれた。そこから京王新線で市ヶ谷乗り換え、有楽町線で護国寺、講談社。このときたぶん、東京の風雨最高値。がらんとした講談社本館ロビーで島さんを待つ。やがてどうも、旧館の入り口前(既に閉鎖)でうろうろしている美女二人組らしき影が見えたので本館の方へと手招き。傘をオチョコにして島優子さんと土田真巳さんが来た。他の見学予定メンバーは雨がひどいので今日は中止、とキャンセル。ビルの中を通って旧館二階のWeb現代編集部へ。Yくんは待っていてくれたが、他の社員は、そもそも土曜ということもありほとんどおらず、古びた洋館のような旧館の廊下、なかなか不 気味な雰囲気。

 そこから少し離れたスタジオへと向かう。前の朗読の録音でも使った、廃墟みたいな(実際、CSかなんかの事業用に作って、その事業が立ち消えたあと、しばらく廃墟になっていた)スタジオ。録音スタッフの人が待っていてくれた。さっそく、録音開始。不思議なもので、おぐりゆかとの仕事のときはまったく緊張しないというか、遊び感覚でやれるのだが、島さんが相手だと思うと微妙に硬くなる。これは、『サヨナラ』で彼女の演技に痺れて以来、ずっとあこがれていた人との仕事だからだろう。

 島さん、初めてのこういう現場で少し硬くなっていたようだが、徐々に調子が出てきて、いい感じになる。困ったのは、時間がすでに6時を回っており、私も彼女もおなかがかなり空いていて、グー、という腹の虫の音をマイクがときどき拾ってしまうこと。あと、五本の中で一本、飛行機の中で爆弾と間違えられた電動バ○ブ、という都市伝説ばなしがあり、取材仕事でそれを持ち込んだ女性ライターが死ぬほど恥ずかしい目に遭う、というもので、自分でもゲラゲラ笑いながら書いたケッサクな独白劇だった。島さんのときどきライブで見せるブチ切れ演技にピッタリなストーリィなのだが、なにしろバ○ブバ○ブとセリフ中に十何度も繰り返される。この脚本を読んだ村木座長から、“ちょっとこれは”とNGが出た、と土田さんからお達しがあった。 うーん。

 看板女優にそういう役をやらせたくない村木さんの気持ちもわかるが、これは島さんの、そういう下品さとは180度方向の異なる演技と声があって初めて成り立つ話なのである。逆に言うと、下品な単語を連発すればするほど、島さんのピュアさが引き立つつもりで書いているし、練習段階でもそれを確信したのである。単語が下品だからと機械的にNG出されてもなあ、とかなり頭を抱える。とりあえず、島さんバージョンと私バージョンを両方録音し(島さんバージョンは出来るだけバ○ブという単語をカットして“もの”とか“これ”で処理)、そのテープを座長に聴き比べて貰って判断してもらおう、ということになる。で、私の録音、まあ力はいるはいる。私が女性の声優だったら、代表作としてCD化されるのではないか、と思えるほどの(とは大ゲサだが)ものであった。とはいえ、こっちではなく、出来れば島バージョンを 採用してもらいたいのがホンネなのであるが。

 他の脚本もそれぞれ笑わせどころ、怖がらせどころあり、いい感じの録音になる。頭の中に、これを芯にした企画がたちまちだだだ、と立ち上がってきた。まったく、うわの空との仕事はこれまでとは頭脳の違うところが刺激されて快感である。ただしそれやこれやで、最初は2時間くらいで終わるとふんでいた録音が3時間強のものとなり、人数の変更もあって、予定していたもんじゃはちょっと無理となる。惜しいが携帯で電話して、キャンセル。大将もまあ、この風雨では“仕方ないよなあ”と了承 してくれた。

 7時半、録音終わって、スタジオを出る。台風の具合はどうだろうか、とおそるおそる出るが、驚いたことに、すでに、すっかりあがっていた。一番風雨の激しい時間帯を、防音の録音スタジオの中で過ごしていたわけだ。これは運がいいと喜ぶ。とりあえず、メシを食おうと地下鉄を乗り継いで大江戸線、東新宿でホルモン『幸永』。今日もんじゃを食べそこねた宮垣雄樹くんも誘おうと島さんが電話したが、残念、いま夕ご飯を食べ終わったところだった。食運のない日だったね。で、ここの特異な焼肉に目を丸くしている美女二人前にして演劇ばなし、うまいもの話などとめどなくしながら、極ホルモン、豚骨タタキ、シビレ、ゲタカルビ、レバ刺しなどを食し、ホッピーを飲む。もっとも、私は声仕事の後の特徴で、アドレナリンで興奮状態のためかあまり食がすすまず。島さんはゲタカルビとシビレを気に入ったと見えて、もりもり 食べていた。11時近くに出て、地下鉄で二人と別れる。別れ際、島さんに
「出来ればあのバ○ブばなしは島さんバージョンでいきたいと思っている」
 と伝えておく。地下鉄乗り継いで帰宅しようとしたが、酔っていたのか、反対方向のに乗ってしまい、あわてて乗り換えた電車が新宿止まり。仕方ないので新宿からタ クシーで帰る。

 帰宅が12時ちょい前だったが、K子まだ帰ってない。すぐベッドにもぐり込んでしばらく寝て、ふと目を覚ますが、まだ帰っていない。時間はすでに1時半を回って いる。携帯に電話したが出ず。2時にもう一度電話したら、出た、
「あ、もうそんな時間? 急いで帰る」
 と。虎の子夫婦と飲んでいたらしい。明日は長野旅行だというのにノンキな話だ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa