裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

金曜日

ジョー・ケン反射

『ガッチャマン』の絵を見るとすぐコンドルのジョー×大鷲のケンやおいを思い浮かべるロートル腐女子のサガ。朝、舞台の上に上がって口上を述べる夢。5時半に起きて島優子さんに朗読の件、メール。6時52分入浴、7時34分、母の台所で朝食。 オサツ、キウリ、ニンジンなど野菜。

 8時15分バスで通勤。なんだかんだ行ってバスの持つのんびり感はいい。今の仕事量というのが、こういった感覚を味わえるギリギリのところだろう。仕事場で黒酢ドリンク(ヤクルトから二日おきに配達される)飲んで、さて原稿書き。メールで編集と連絡取り合ってネタ選定し、FRIDAY、モー娘。ネタ三題。執筆中電話いろ いろ。

 フィギュア王原稿、続けて。テーマはこのあいだの生人形展。日記に書いた文章を少し広げて使う。途中で昼飯、オニギリ一個。具はシャケ。それにコンビニで買ったカップワンタンをスープ代わりにする。2時、仕事場を出て時間割。エイバックO氏と打ち合わせ、同席者としてさっきネタ原稿を出したばかりのFRIDAYのT氏、副編集長K氏、あとワークスのS、K、I三氏。『鈴木タイムラー』の件に関してはあとは具体的な進行ダンドリ。おぐりゆかと撮り前の面通しの件など。面通しは要するに彼女のキャラ作りのためである。私と組むにしても、そのキャラは助手キャラなのか、レポーターか、単なるにぎやかしか。呼びかけひとつにしても、“先生”でいくのか、“カラサワさん”でいくのか、いろいろ違う。いくつか例を挙げあう。“お兄ちゃん”てのはどうですかね、と口走るが、考えてみれば年齢が四半世紀近く違う 兄弟てのも不自然。すぐ却下となる。

 その他、関連するモロモロの件。いろいろあるが、どれも進行していっているし、また最終的にカタチにすることはみな了解しているものの、具体的にいまどうなってという段階でなく、みな微妙なところ。思えばこれらの件の販促の一環でこの『鈴木タイムラー』の話が浮かんできて、当初はこれがどうカタチになるものか最も微妙であったため、イラつきもしたが、決定してしまうと、一番具体的になっているのがこ の件、という逆転的状況。これがなんとも。

 中で一番重要事の某件のことのみ、そっちの方面の関係者で打ち合わせしてもらうことをO氏に重ねてお願いして、先に席を立ち、仕事場に帰ってフィギュア王原稿完成させ、4時45分メール。ホッと一息。メール、アマゾン(NHK『BSアニメ夜話』製作会社)から、次回アニメ夜話、『ナディア』の会にも出演をお願いできない か、とのこと。樋口真司さんのピンチヒッターか。

 それから新宿まで急いでタクシー。運転手さん、前にも乗ったおなじみさんだからと端数マケてくれる。銀だこで小腹の虫を養って、中野ZERO。アニドウ上映会。今回は五味洋子さんの『アニメーションの宝箱』出版記念上映会ということで、会場をいつもの芸能小劇場から拡大して。このあいだのと学会例会にいらした熊本大OB 『天動説』のお二人、常連のKさん、K田さん、編集のH女史。
「植木さんの姿がないですねえ」
「そう言えばこないだ風邪ひいたそうですから、今日は寝込んでいるんじゃないです かね」
 などという話。

 上映会そのものは、五味さん(富沢さん)の本に出てくるアニメ作品を中心に、という選定。これまで見たもの(『呪いの黒猫』とか『禿山の一夜』とか)多し。ジョ ン(&フェイス)・ハブリーの名がプログラムにあったので、Kさんと
「ハブリーもいいけど、退屈でねえ」
 とか話していたんだが、年齢のせいか、今回、ハブリーが一番面白く感じたのは大意外。年をとるということは、作品を見返すたびに新鮮さが味わえるということだというのは実にうれしい発見である。これまで駄目だと思っていたものが急に新鮮に、 かつ感性に合ってくる場合がある。

『ムーンバード』もよかったが、天動説のお二人も感動していた『ルーディ・トゥート・トゥート』(1952)がとにかく素晴らしい。アメリカの国民的バラッドである『フランキーとジョニー』のアニメ化なのだが、リミテッド・アニメの源流であるUPAの看板作家であったハブリーの真髄を見せている傑作。これを初めて見た頃の私はとにかくアニメはフル・アニメ、という観念にこり固まっていて、ハブリーを過小評価していた(これは森卓也氏が彼が監督した『近目のマグー』を全く評価していなかったことにも関係ある。いや、たしかにマグーは面白くないのだが……しかしこれもいま、改めて見てみるとどうか)。無理もないわけで、その当時は同時に、フライシャーだのテックス・アヴェリーだのを初見でどんどん見まくっていたのである。そういう作品を飽きるほど観た上でUPAの作品を観ると、これは満漢全席のあとの梅茶漬けみたいな味わいである。今の私なら大喜びだが、若いモンの好みじゃない。

 あと、『フランキーとジョニー』は高校生のころ、『芸術生活』誌で見た、木版の土俗的絵物語が極めて印象的であり、そっちの絵柄以外を認めなかった時期があったことも、このハブリー作品を再発見するのが遅れた原因かも。その絵物語の方では、ジョニーはこの後、誇らしげに縛り首になり、満ち足りたような表情で吊される彼女の絵に添えて“この物語に教訓はない”という文句があって終わる。男女の仲はいつでも愚かしく、そして愚かしい故にせつなく美しい。これがトラウマになっていたのであった。その他、ベルナール・パラッシオスの『雪深い山国』(89)も上映したが、なんとも実に変テコな味わいのある作品。変テコなだけ、という評価もないではないが。デタラメな中国語と、彼らだけ『サウスパーク』みたいな描かれ方の中国人探検隊の絵が面白い。『ベルヴィル・ランデブー』もそうだったが、とにかくフラン ス人てのは人種を差別する。

 上映後、ロビーに出たら(富沢さんの本はこないだの上映会の後で予約したのだが今日は直接購買者のみで、予約者には後で郵送されるという。予約したものが先に本を読めないという、ここらへんの不条理も昔ながらのアニドウ風。困ったもんだ。なんと植木不等式氏いた。やはり風邪で咳がひどいので、後ろの方の席にいた、とか。では、今日はさすがにベトナム料理はやめて、焼肉へ行きましょうかとなり、天動説のお二人も誘って、総勢8人の大人数で『とらじ』へと。思えば2年くらい前に、この月例上映会がスタートしたときには植木さんとKさんくらいしか知り合いの常連がいなかったものだが(一時加藤礼ちゃん夫妻が来ていたが)、大勢常連が増えたもの である。

 とらじ、人数が人数だけに話題頻発、私は植木さんの駄洒落にときおり反応するくらいで、後は食う方に専念。Hさんの“血で書かれたラブレター”ばなしにちょっと耳がぴくんとなったぐらい。なにしろダイエット中なので、夜の大食だけが楽しみになってしまっているのだ(これで本当に効果あるのか? たこ焼きも食ったし)。豚足を生まれて初めて食べるという天動説のE氏が、気に入ったようだったので喜ぶ。別に豚足普及につとめているわけではないが。塩カルビ、タン塩、レバ刺し、ホルモンなど。風邪気味の植木氏にニンニク焼きをすすめる。酒は当然真露。最後はコムタン。かなり酔ったはずだが、なにしろこのメンツではこないだがこないだなので、今 日は割と、いや、ずいぶんとおとなしめ。タクシーで帰宅、12時ころ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa