裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

土曜日

訪朝一本、サラシに巻いて

 旅に出るのも、復帰の準備(山拓の歌)。朝、6時ころ(目覚ましが壊れて時間がよくわからぬ)目が覚めて、フトンの中で輾転反側。猫が遊べというのかメシをよこせというのか、ベッドに飛び乗ってきてにゃごにゃごとうるさく鳴く。人間の年齢で言えば80を超えているのに、ベッドにポンと飛び乗ってくるのは凄い。

 入浴して、7時半、朝飯。黒豆のジュース、クルミのサラダ、ゴマパン。土曜は弁当ナシなので空のカバンを抱えて、通勤。土曜はこの時間帯、幡ヶ谷経由の渋谷行きは8時20分と31分。急いで、なんとか20分のものに間に合う。ガールスカウトの格好した二人組が乗り込んできた。ガールスカウトと言えば映画『アトミック・カフェ』で、原爆投下で地下生活を余儀なくされた場合の生活方法を、50年代当時の学校で生徒たちに教える授業があり、その説明を、これ以上ないくらいブスなガールスカウトの二人が行っているフィルムがあった(もっと可愛い子が説明している映像だってあったと思うのだが、こういう顔の子たちが出てくるフィルムを選び出すところが演出家のセンスである)が、今日乗り込んで来たガールスカウト二人が、まさにあの映画に出てきたガールスカウトを日本人にしたような顔立ちだったのに驚く。

 日記つけたり、編集部宛にメール打ったり、船山さん(和食処『船山』の)から電話もらって、ちょっと長めに話をしたりして、午前中は過ぎる。ネットで注文していた本が二冊、届く。又吉イエスの著作『再臨のキリスト、唯一神又吉イエスは日本・世界をどうするか どのようにするか』(自費出版)と、山川純一『ウホッ!! いい男たち/ヤマジュン・パーフェクト』(第二書房)。凄い取り合わせである。山川純一の本は4800円もするが、単行本未収録作品が入っているので仕方ない(考え てみれば別に仕方なくもない)。

 バスで参宮橋まで行き、道楽の豚骨味噌ラーメン。ドイツ人の三人グループが来ていて、“ビール、オカワリ”とかいいながら、ラーメンを食べていた。そこからバスでまた渋谷駅へ戻る。車内で先日『ふれあいラジオパーク』に出演しときのディレクター氏と偶然隣り合わせの席になり、横山光輝さんのこと、鷺沢萠さんのことなどを しばらく話す。

 渋谷駅から半蔵門線で神保町。古書会館に行くが、日を間違えていて、今日は業者専門の市で古書展は開催されていなかった。あちゃあ、と思い、そのまま、どこにも寄らずにUターンして帰る。駅で日刊ゲンダイを買う。“人質三人を批判する大手マスコミは絶対おかしい!”という見出し、いつものゲンダイなら表紙にデカデカと大活字で載せるところを、中の方に1/4程度の大きさの扱い。やはり読者の反感をか うのを恐れたのか、という感じ。

 帰宅して、椅子にもたれて又吉イエスの本を読む。
「一九四四年二月五日、一人の男児がこの世に出た。戸籍上の名前を又吉光雄と言い沖縄県中頭郡宜野湾村大字大山の、又吉清真と又吉ウシの二男として生まれたことになっている。しかし、事実はそうではない。この又吉光雄こそ再臨のイエス・キリスト、人間の形をとって天から降りてきた唯一の神である。すなわち又吉清真は父ではなく、又吉ウシも母ではない。ただ又吉ウシの腹の中に自ら宿った者、それが唯一の神再臨のイエス・キリスト、又吉光雄である。従って、そのフルネームは唯一神又吉光雄・イエス・キリストでなければいけない」
 というような書き出しで始まり、彼の唱える世界経済共同体思想によるこの世の改革理念が語られるが、その理念の内容そのものは、さまで奇矯なことを言っているわけではなく、今の社会の腐敗・堕落に怒ったおじさんが“俺の言うことを聞けば世の中はよくなる”と憤っているような、まあ床屋政談のワクでしかない。ちょっと期待 外れであった。ただ、以下の章の以下の部分は笑った。

【29】バカとパンパン的人間が世の中・社会を壊す。
「(前略)病気みたいにツバを吐く真似・ツバをする真似をする者がいる。流行病になっている。それを見た者、挑発された者が、馬鹿にされたくないと思って、同じ真似をするからである。バカとパンパン的人間の日本・世界になる見本である。そうであるから、必要・相応の対応をしなければいけないのである。このようにである。
(ア)“バカ。”“病気か。”等の言葉を言う。(イ)相手の顔に爪あかを飛ばす、または耳クソをとって投げる真似をする。(ウ)相手を指さし、次に三本の指を立てる。更に手を開いてパーというマネをする。そして拳を握って相手の顔を打つ真似をする。“おまえは三つかバカ。”と威してやるのである。等々である(後略)」

 洗面所に異臭あり。洗濯機の排水溝から流れ出る匂いらしい。蓋代わりにスプレー缶のキャップを上にかぶせておく。鶴岡法斎から久しぶりに電話。マンガ原作の方の仕事、名前を出すのや出さないのやといろいろやっていて、まず忙しいらしいのは重畳。近況、共通の知人などのこと、最近の出版業界ばなし、今後の話などしばらく。ジェネレーションギャップの話になって、
「最近はさ、オレの日記読んで、ギャグが不謹慎だって怒るヤツがいるんだよ」
「なんか、寿司屋に入って生魚出されたって怒るようなもんじゃないすか、それ」
「裏モノ会議室とかのぞいたこともない世代が増えたんだろうなあ」

 書き下ろし原稿の仕事、カリカリとやるが、体調不具合で不捗はなはだし。7時半中野駅北口でK子と待ち合わせ、9時の『帰ってきた超放禁・さらば! 中野武蔵野ホール』の入場券買って、少し腹ごしらえと思い、センター街近辺をぶらぶら。おでん屋があったのでそこへ入る。カウンターのみの、ママが一人でやっている店だったが、小ぎれいで、気取らない感じがいい。ベーコンを出汁で温めて出してくれたが、これが黒胡椒で食べると、なかなかおいしい。K子も気にいって、また今度、語学の 日の帰りに寄ります、と言う。トラジの並びの店であった。

 8時50分ころ、武蔵野ホール入り口付近に行く。開田夫妻、FKJさん、S山さんにIPPANさん、傍見さん、それからこのあいだの雪椿での人たちなどがいる。こないだの松林監督を囲んだ写真などいただく。FKJさんには、“レコーダー買っ たがマイクがない”というこの日記を読んで、マイクをいただいた。感謝。

 最後の超放禁だし、ウチのサイトでも告知したかったのだが、しそこねて、ちょっと客の入り悪し。6割強というところか。最初が談笑、冒頭のイラク人質ネタが笑った。肝心の植草教授ネタはあまり出ず。ネタはホームレス実録もの。その次が梅田佳声先生の紙芝居『闇夜の笑』。今回は設営をせずに、スライドで見せる。そのスライドが、後部の撮影室の中に据えられていて、それを舞台の上からリモコンで操作できるスグレモノ。子供が殺し屋“イーグルの権”におびき出されて刺し殺されるような陰惨な話であるが、なにしろ絵が凄まじくキッチュなもので、陰惨というよりは笑え てしまい、実に味がある。

 次が談之助、超放禁の思い出をちょっと語り、“どうせ閉館記念に復活させるのなら昔のメンバーに声をかけようと思ったんですが、大恐慌劇団は行方不明、志らくは断ってきました”と。ネタは『昭和偉人伝・ジャイアント馬場物語』。それから次がゲストの山本竜二。思えば十数年前、この人がゲストで出た第二回の超放禁から、私は通い始めたのであった。今回はそのときと同じネタの、山本竜二物語。話の最後に“特別プレゼント”として、嵐寛寿郎が本当に使っていた楽屋のれんを一枚、提供して、じゃんけんで当選者を決める。ところが、勝ち抜いて当たった人(20代後半か30くらいの、メガネの大柄な男)、山本さんが“アラカン、知ってはりますか”と 訊くと、“いえ、知りません”と無表情で答える。これには呆れた。

 トリはブラック、『百川』の客が立川流真打ち連だったら、というパロディ。皇室ネタなども最初にフるが、実にほのぼのとしていて、怖いモノなしだったあの超放送禁止落語会のおもかげみたいなものはナシ。それも、それぞれがマスコミなどで仕事を持ち、立場も上がった時代の流れで仕方がない。まさにあの頃の超放禁は、リアル タイムで聞けたのが奇跡みたいな一時期であった。

 終わってすでに11時半。そこから焼き肉トラジに移動。開田さんやIPPANさんなどは帰り、ウチの一派はS山さんのみ。山本竜二さんが女性を連れてきていて、“カラサワ先生、この人、某所の熟女AV女優です。このあいだ、人力車の上でウンコするってビデオ撮りました”と、路上で、それがさも平常のことのように例の大声で言うのが、大笑い。梅田先生からは自作の落語の台本をいただいた。

 トラジでは話題はずんで、イラクの話からプロレスの話、アニメの声優の話、晩年のアラカンの話、今日ののれん受け取ったヤツの話など。誰が言った台詞だったか、
「あの今井って人質、出来の悪いフィギュアみたいな顔だねえ」
 と。そういえば、ああいう塗装している目のフィギュア、よくある。佳声先生が戦時中に北海道の酪農場に勤労奉仕に行って、乳搾りや種付けの手伝いをした話に大笑い。“馬のナニはカリがありますが、牛のはないンです。だから、エイヤッ、ドシーンとぶつかって、それで終わっちゃう。カリがあるヤツは行為が長いんです”との話 に、みなハタと膝を叩く。叩くような話かどうかはともかく。

 あと、談笑の真打昇進トライアルに、シャレでこれまた“スーパーバイザー”として名を貸すことになる。これはうわの空の村木サンのアイデアだとか。みんなに“そのうち肩書きを、「スーパーバイザー」にしなきゃならなくなるんじゃないですか”と言われる。何のスーパーバイザーというのでなく、ただスーパーバイザーとしてあちこちに名前だけ出して食っていくという不思議な職業。ガヤガヤとしゃべって笑って食べて(今日は豚足が、K子が驚いたほど甘くてうまかった)宴ハネたのが二時。タクシーで帰宅、焼き肉の脂の匂いを全身からプンプンとさせながら、ベッドに。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa