裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

14日

水曜日

辟易の戦い

 こんな戦法しかけてくるヤツとの戦はもう辟易じゃ(曹操氏・談)。朝、目が覚めたらもう7時20分近く。寝坊してしまった。しかし、昨日そんなに飲んだわけでも遅寝だったわけでもないのに、何故かと思えば、今にも雨が降りそうな空模様。このせいか、とうらめしげに天をにらむ。それでも大急ぎで入浴、シャワーのみ浴びる。

 ところが、いっかな食事の合図のベルが鳴らない。言ってみたら母がちょっととり乱していて、呼び出しホンが鳴らないと言っている。いろいろ聞いてみると、室内ホンの操作を間違えていたのであった。これは私にもときどきある。毎回、アタマで考えずに反射的に行っている動作を、何かの拍子に“ええと、どうやるんだっけ”と、アタマで思い出そうとすると、とたんに手も足も出なくなってしまうという。

 朝食、サラダ菜のアンチョビサラダ。高校生の頃か、大藪春彦の小説でアンチョビサラダというものを覚えて、実際に食ってみて、これぞ大人のサラダと感動、それ以外のサラダは邪道、などとスカしていたこともありました。あとはゴマパンに果物。

 9時25分の渋谷行きに乗り、仕事場へ。また昨日の半村良的な事への調査依頼の件で電話。『社会派くんがゆく!』から、今回のイラク人質事件に対して緊急コメント依頼。また、『トンデモ本の世界S』と同『T』の某件に関し、太田出版H氏から ちょっと相談事メール。意見を述べておく。

 雨、通勤時はまだ降ってなかったがすぐにポツポツ来だし、やがて本格的な降りとなる。アタマ重く肩重く、テンションがピクとも上がらず。社会派くんコメントも、いつもなら30分で書き上げられる筈の内容・文字数にもかかわらず、実に々々手こ ずる。最近、ここまでのダルさはちょっとなかった。

 弁当をモソモソ食う。おかずはサバの粕漬けに焼きタラコ、ぬか漬けと好物が揃うので嬉しい。しかし、腹にモノが入ると、さらにダルさが増す。なんとかんとか、社会派くんコメントはアゲてメール。身体を動かさねばと、傘をさして出て、モゲさんの葬儀への花輪の代金を振り込んだり、それから平山さんのところに頼まれていたものを送ったり。母から電話で、今日届くはずのテレビが届かないという。K子にしら せておく。

 帰宅、全身の血が抜けてしまった感じで何も出来ず、仕方なくこのあいだ読了したのだが、細切れに読んでいたため筋がこんがらかっていた、芦辺拓『時の誘拐』を再読。今度はすっきりとわかったし、前回見逃してしまっていたお遊びも発見した。それより、タイトルの『時の誘拐』が、現在の日本の誘拐事件が敗戦直後の大阪の殺人事件に関わってくるという構成のことばかりでなく、“時”そのものをパッケージ化してしまったというトリックにもかけてあるのだな、ということがわかって、二重に感心。あと、やはり、昭和20年代の大阪の情景、カストリ雑誌編集部などという舞台設定、さらには行友李風などという絶妙の実在人物を登場させるという趣味性など が何度読んでも楽しい。

 何よりこの作品が読書の醍醐味を味あわせてくれるのは、この作品がカーニバル的な“過剰”小説だからであろう。プロットの多層性、大小のトリックの詰め込み、実在・架空あわせての大量の登場人物、ミステリの枠を壊しかねない時代背景解説とウンチク。山本弘『神は沈黙せず』の根本的魅力もこれだったが、この作品もまさに過剰作品で、読んでも読んでも、まだそこに描き混まれている情報を消化しきれない、という、お祭りの時のご馳走を頬張っているような、脳内の血糖値上昇の快楽を味わえる。ここらへんが、映画と違い、気になった部分をいつでも何度でも読み返せるという特性を持つ小説というものの強みである。“すっきりとわかりやすい”小説など子供の読むものだ。大人は昔から、こういう、普通の小説の型から大きく逸脱した、 内容過剰な作品を愛してきたのである。

 6時40分、K子来て、一緒に雨さらに降りしぶく中、タクシーで青山の居酒屋、『大さじ小さじ』に向かう。ネット四コマ関連のスカイバナナ、講談社、エイバックに加えて、某大手マスコミのT氏を加えての顔合わせ。お膳立てしたのはエイバックのO氏で、要は私をT氏に売り込むことにあったのだろうが、雨で調子あがらず、なんとかテンションあげようと話をすると、アブナい話題ばかりになってしまい、どう考えても“ダメだこりゃ”な結果となる。もっとも、まだネット四コマ配信も始まっ ていない段階では、どうもこうも話が転がり出しようがなし。

 帰途のタクシーで、今日の料理にすさまじく不満のK子、“くりくりで口直ししよう”と言い出すが、ワインかなり飲まされて、雨時の体調もあってへろへろ状態にあり、とてもアキマセンと、帰宅、ぶっ倒れるようにして寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa