裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

水曜日

有給たる黄河の流れ

 会社休んで中国旅行。朝7時半起き。目が覚めてしまうんだよ、老人はさ。朝食、ペペロンチーノ小皿ヒトツ。例の仙台の殺人点滴准看護士、メガネかけた顔が某知人ソックリ。思わず笑う。インドネシアの味の素事件報道を見てへえ、と思ったのは、あちらではまだ懐かしいお椀のマークを使っていること。あっちの方が絶対イイのになんでスカした英字表記に変えてしまったのかな。

 腹具合悪し。スズメバチか、酒か。原稿書き、すすまず。薬局新聞一本アゲたのみで、後はたまっている日記だけ、片付ける。電話数本。土曜日収録のハズのBOOKTV、スタジオの都合で日曜に変更とやら。同じくメール、いくつか。鶴岡から電話くる。キチガイくんたちの話。その中で、春風亭昇太の年齢の話が出た。なんと私と同い年だという。調べてみたら一ツ下。四○代であのハシャギっぷりは見事というかなんというか。老人なんて言ってられない。もう少し馬鹿な言動に励もう。

 昼は3時近く、お茶漬けを流し込む。今日から開催の新宿小田急古書市へ。回っていたら、例のUさんにバッタリあった。コミケに行ったのだが、もう引き払った後で誰もいなかったという。もっとも、目的は志水さんだったらしいので、結局ムダ足。今回もマンガ、それから少年小説類が出ているが、どれも購買意欲の一気に失せる値段である。ブームだからといって、これほどの高値をつけてしまうと若い世代がまるで手を出せなくなり、結局、また古書ばなれを起こしてしまわないだろうか。聞いたら、ブームだからとうかれていると最近はすぐ復刻されてしまい、値段がガタ落ちになるので、復刻目当ての出版社用に高くつけているのだ、との噂であるが、そもそも最初にそういう本をオモシロイ、と言い出すマスコミ人にすら手の出ない値段になりつつある。手塚治虫や水木しげるの本が高いのはまあ、納得できるとして、同じ出版社から出ているというだけで、まるきり価値のないものにまで同等の値段がついているのは、丁寧に商品一点々々の価値を見定めてないで、丸ごとで値段をつけているのが見え見えである。同時開催されている骨董市などの業界の相場が古書業界にも影響を与えているのだろうが、骨董と古書では支えている人たちの層がまるで違う。長期的に見て、こういう超バカ高値は業界のためにならないと思うがなあ。

 最初一まわり回って、それほどのものもないな、とタカをくくっていたら、昭和二十年代後期〜三十年代初期の小版雑誌『デカメロン』がズラリと揃っていた一段がある。内容は大したことのない雑誌だが、表紙の、ディフォルメされた女性の絵(秋吉巒、八木静男ほか)が好きだし、『デカメロン』だけ(別冊の『モダン夫婦読本』含む)これだけ揃っているというのも珍しいので、持っているものいないもの、まとめてエーイと全部カゴに入れた。まあ、一冊千円と安かったこともある。これをやってしまうと後はトメドがなくなる。アイヌが主人公のチャンバラ貸本マンガってえなあちょいと珍しい、なに、メカケを囲うときの心得集、こいつ面白しと雑本中心ではあるが買いまくり、結局、いささか財布が軽くなり、両の手に紙袋を下げてエンヤコラショと帰るハメになった。

 なにか気力ゲージがそれでガタンと下がり、何もする気が起きなくなる。とりあえず、自架にあるデカメロンと、買ったものとのツケアワセをする。案外ダブっておらず、ダブっているものも今回買ったものの方が美本のものが多いので、やや気分をよくする。さて、これを棚のドコに収納するか、で頭を悩ませる。7時過ぎまで、仕事場の棚の整理。パラパラと中味も読んでみるが、やはり別冊(後に独立)の『モダン夫婦読本』の方がはるかに面白い。これは、小説中心の本誌に比べ、当時の考現学的風俗ルポが多いせいだろう。マンガをやなせ・たかしなんかが描いているのもオモシロイ。『告白集・男色地獄はこうすれば救はれる』という記事が傑作で、“美少年は年をとると魅力がなくなる”という結論にはひッくりかえって笑った。

 8時半、すがわらでK子と寿司。ひさびさに食べたせいか、何食ってもうまい。突きだしのヅケがねっとりとして、いかにもマグロという感じを味あわせてくれた。コハダ、甘エビ、アナゴ、白子酢など。日本酒熱燗で三本。正月なので熊手にご祝儀を出して飾る。出前で、五千円の台でウニとイクラとアワビ入れて欲しいんですが、という注文の電話あり。計算して、六千円なら大丈夫です、と主人が答えると、電話の向こうでしばらくなんだかんだ言って考えている。ウニだのアワビだの食べたがるならケチんなよ、と主人、苦笑していた。

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