裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

4日

木曜日

海老で逮捕する

 甘海老密猟現行犯。朝8時近く起き。レストランで朝食。メニューがずっと同じ。正月とかは長期宿泊客も多いだろうから、もう少しバリエーションを考えたらどうかねえ。一流ホテルだけにまずくはないが、うまいものに一度飽きると、まずくて飽きが来たよりもつらい。クロワッサンとマーマレード、ゴハン半分に銀ダラのっけてタラ丼。部屋に帰ってテレビつけたら、桂三木助自殺の報道があり、驚く。芸で悩んでいた、というのがこれくらい似合わない人も珍しい。桂文楽(先代)が“芸人は脳を使っちゃいけません、脳を使うと早く死にます”と言っていたのを思いだす。使いなれない脳を使いすぎたということか。そのあと、談生(小田桐レポーター)のホームレス取材報告があったが、何かいつもの調子ではない感じ。そりゃ同業者だものな。K子はキャアキャアとはしゃいで、すぐ談之助にメールしていた。

 銀行へちょっと寄って、二人で道庁北門前の薬局へ行く。漢方薬、アイリターンとかいう目の疲れにいいらしい健康食品(鯉のキモが原料)など、三万ほど買い物。三木助のことを言ったらおフクロ、“あら、私、昨日テレビで昇太を見て、「これ三木助だったかしら」と思ったのよ。私、霊感があるわ”と、わけのわからないことを言う。先代の三木助をみんなが名人と言っていることに対し、“あんなの、『とんち教室』で有名になっただけで、何にも名人じゃないわよ”と斬って捨てる。血圧を測ってもらう。数値は正常だが、脈の形を見て、豪貴に“疲れてますねえ”と言われる。そこから家へ行き、星さんに新年の挨拶。K子はお年賀のプレゼントをしていた。

 日記をつける。昨日買ってきた『ことわざ名言事典』などをパラパラと見ながら、タイトルの駄ジャレを考える。やっと、いくつか思いつくようになる。シャレですらこれだもの、親父のリハビリも、正月だからと数日休んでいるうちにまたダメになってしまうのは無理ないと思う。昼はおフクロがおせちの煮物のあまりで作ってくれたちらし寿司。イクラがたくさん入っていて美味。ワイドショーで三木助事件の続報を見る。ディレクターは正月早々こういう大事件があって、バンザイを叫んだことであろう。こん平、馬風などが出ていたが、誰もおもしろいことを言わない。仲間うちの死もシャレにしちゃうのが落語家じゃなかったのか? 金馬が、“悩みをもっと打ちあけてくれてればねえ”とコメントし、“もし、悩みを三木助さんが打ちあけていたら、どうお答えしてましたか”の問いに、“「オレも同じだよ」ってね”と言っていた。確かに先代金馬は名人だったよなあ。裏モノ会議室では流石に金成さんが、以前狂言ではないかと言われていた交通事故の際の“白い光が見えた”というセリフにからめて、“あのとき頭に埋め込まれた機械の命令だったのではないか”と、アブダクション説を唱えて笑わせてくれた。

 談志がプロデュースした『夢の寄席』の解説で、先代三木助を紹介するのに“馬鹿の三木助の親父”と言っていたのを思い出す。自分でも“馬鹿”“芸が下手”“親の七光”をウリモノのようにしていた時期があり、あのころが一番おもしろかった。それにしても今の芸人さんは先人の芸がテープだのビデオだのになって残るから可哀相だ。昔なら、いくら爺いどもが“先代はうもうござんした”なんて言ってたって、そのうち死に絶えちまえば誰も知るものはいないから、自分の天下になったもんだが。

 昼寝中に、知り合いのおばさん母子が来たらしい。なんと母子揃ってJUNE時代のK子のファンだったそうである。“消したい過去なのに”と言っていた。二時ころ出て、東区役所近くの古書店『じゃんくまうす』へ寄る。K子が探していた池田理代子の原作版『お兄さまへ・・・・・・』が入荷した、という報告があったため。ここは私たちの『UA! ライブラリー』を委託販売してくれているのだが、いまだに月に数冊は必ず買いに来る人がいるという。K子、同朋舎の『トゥルー・クライム』シリーズを全巻揃いで買っていた。ご主人から、吉田豪氏のことをたずねられる。目録創刊時から、毎号、買ってくれているお得意さんだそうだ。須賀さんの奥さんの腕の骨折のことを聞いたら、“なんか、もうもとどおりにはならない、と言われたとかいう話ですが”とスゴいことを言う。

 一旦家に帰って、日記書いたり読書したり。『ハンニバル戦記』読了。もちろん、真面目なこの本には書いてないが、私がハンニバルの逸話で一番好きなのは、アルプス越えのとき、道を大岩がふさいでいたのを、その回りで焚き火をたき、真っ赤に岩を熱した上で酢をぶっかけ、岩をやわらかくして、しかるのちチーズのように楽々と切り割って進んだ、というトンデモなエピソードである。

 7時半、雪が降り出した中を出かけ、旭屋書店の入口で須雅屋夫妻、薫風書店さんと待合せ。奥さんの手、さすがに痛々しいが、すでにリハビリも始めているという。じゃんくまうすさんに聞いた話をしたら“どこでそんな話になっているんですかぁ”と言っていた。郷土料理居酒屋『うらら』で飲み会。須賀さんにはJUNEファンの母が持ってきた手作りの伊達巻を差し上げる。薫風さんは、法医学のぶ厚い本をK子にプレゼント。航空機事故の被害者の写真などが満載で、K子喜ぶまいことか。

 飲みながらいろんな話。須賀さんの知り合いの古書店(ブックオフのような店)主がいて、彼と同町内で店を開いているのだが、その主人が頭がオカシクなり、とうとう先日、自分の母親の首を叩っ切って殺してしまったとか。須賀さんの奥さんはちょうどそのとき、実家の方にいたのだが、彼もイニシャルが同じSなので、新聞で“古書店主が殺人”の見出しを見、“札幌市×区で古書店を経営する犯人Sは”というところまで記事を読んで“ついにウチのがやったか!”とセンリツしたという。

 馬鹿ばなし、タメになる話などいろいろして、すすきののソバ屋『まる山』でソバ食っておひらき。焼酎のソバ湯割を飲んだが、あとでレシートを見てみたら、それをつけ忘れていたようである。いまさらいかんともしがたし。かなりベロベロになったが、帰ったら少し覚め、缶ビールのみながらテレビで長州×橋本戦など見る。どちらも一度は引退した選手、それが馬場のような娯楽としてのプロレスならともかく、ガチンコで戦おうというのに無理がある。案の定、すぐに両者イキが上がってドロー。観客総立ちで野次る。これでまた再戦興業。アツくなるということはカモられるということである。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa