裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

8日

日曜日

北の馬賊

満州北方居酒屋。

※麻衣夢『Jewel』レコ発ライブ

6時ころから足が攣って攣って悲鳴をあげる。
起きて足を伸ばして、何とか治って、やれ嬉しやと
ベッドに入ったとたんにまた攣る。
思えば昨日一日、豊島公会堂の上下階を司会とスタッフの
兼役で行き来していた。
昨日一日はアドレナリン分泌で気がつかなかったが、
足の筋肉が悲鳴を上げているのは当然。
忘れもしない二十年前、横浜そごうホールで初演出を
したとき、両袖と楽屋を走り回り、翌朝靴下が履けないくらい
パンパンに腫れ上がっていたことを思い出す。

朝8時半起床。
オノからメール。
しら〜さんからも。
いろいろ心配をかけることである。

朝食9時。
朝食スイカ小三切れ、キウイ半個。
昨日のつけ落とし。最後のスタッフロール読み上げのとき、
係のあやさんの姿が見えず、連絡もつかなくなったので
大いにあせる。舞台監督のI矢くんが
「仕方がない、ロールは唐沢さんが読んでください」
と悲痛な表情で言って、こちらも緊張したが、
ギリギリで袖に来たのが見えて、ホッとした。
頼光さんを客席で見ていたらしい。
その後のロール読み上げ、最後に
「そして、観客のみなさま」
とアドリブでやったところは、さすが。

昼は早めに掻き揚げ弁当。イカとアスパラガス。
母は“エビじゃないから……”と言っていたが十分に美味い。
家を出て、バスで新宿、山手線で高田馬場。
商店街を通って、高田馬場天窓comfort。
麻衣夢ちゃんの『Jewel』レコ発ライブ。
下にスタッフがいて挨拶される。

会場にはいると、麻衣夢ちゃんのお母様がいた。
誰かと親しげに話していたが、あとでこれがお父様とわかる。
そりゃあ、親しげだよねえ。
会場には当然のごとくrikiさん、それから水谷さん
が律義に来てくださった。
それからなべかつさんが来て、松っちゃんが来て、
乾きょんと岡っちが来て、鈴木希依子ちゃんと菊ちゃんが来て、
TBSのHくんが来て、ハッシーと松本健一さんが来て、と
まるで同窓会になった。

他のお客さん、若い子とおじさんの落差がちょっと凄いが、
後ろの席ほとんどが立ち見の盛況。
赤いドレスで登場した麻衣夢、『Jewel』の中の曲を中心に、
本当に嬉しそうに歌っていた。
ワタワタ気味のMCもご愛嬌。
緊張しているのか何度も水を飲むので、トイレ大丈夫かと
気になった。まるで親戚の子の発表会に行った伯父さん状態。

途中で同じ事務所の姉さん格の天方直実さんがステージに
上がったが、さすがの貫録というか、場慣れした話し方。
歌ばかりでなく、こういうところ、学ばないといけないな、
とやはり親戚の伯父さん状態。
ハッシーと私がMC中で紹介されて挨拶。

いろいろあったイラつきも、彼女の声で癒される。
『Jewel』の中では私はどれか一曲、と言われれば
歌詞の粒立ちが凄い『Faraway』と、発想の面白い『ひとりぼっちの
夜』で、あ、二曲になってしまったが、ついでのことに三曲目に
歌い出しのメロディがすごくいい『道』も入れようか。いや、なら……
となる。つまり、これ一曲と選べないいい曲ばかりが並んでいるわけで、
これがこの新譜のすごいところでもあるが、逆に言うと、
「これーっ!」
という特別扱い、段が違うというスポットライトを、
どれか一曲にあててもよかったんじゃないか、とも思う。

なぜこんなことを言うかというと、今日のライブの中盤で歌った、
浜口庫之助の『みんな夢の中』にちょっとしびれたからで、
音楽のプロの松本さんも後から聞いたら同じ感想だったそうだ。
いま現在この歌をうたわせたら、麻衣夢が日本一だと、これは
二人とも胸をはって言えるが、しかし、そうでなくとも
当たり前だがこの一曲だけ作曲者が違うから他の曲の中にあって
「おッ?」
とみんな、耳をそばだてるアクセントになっているのである。

以前麻衣夢と焼肉屋で(と、いうところが艶消しだが)、
「愛とは好奇心だ」
と話したことがある。“なんだろう、これ”とまず、思うところ
から愛ははじまり、全てを知りつくしたところで愛は終わる。
聞く者が、もっと熱烈な好奇心を麻衣夢に抱かないといけない。
『Jewel』はこれまでの麻衣夢の集大成のCDだと思える出来。
いい歌がこれだけ作れる子だ、今度はいかにファンの好奇心をくすぐる
歌をつくるか、がこの次の歌手人生での課題だろうなあ。

終わって、みんなと挨拶して、店を出たのが3時半ころ。
なんだかんだ話ながら歩いていたら、なべさんがウレシそうに
「今、学生らしい二人連れが、“あれ、唐沢俊一だ”“なんだろう、
このへんでなんかあったのかな”と話していた!」
と。なんか、というのはイベントとかのことだと思うが、
言葉だけみると、私がまるで変な事件にたかる虫みたいである。

ハッシーが次の予定まで時間がある、というので、なべさん、
Hくん、松本さん、菊ちゃん、鈴木希依子ちゃんと馬場の居酒屋
『春夏秋冬』に。店名と外の雰囲気から、普通の居酒屋と
思ったら、内部は西部のバーを思わせる作りの店で、
ちょっと意外。

トンデモ本大賞の話、9月の舞台の話、こないだの
アーバンの芝居の話など。ハッシーとなべさんはこれからその
芝居を観に行くのである。ハッシー、トンデモ本大賞の話になり
“昨日一番面白かったのは三次会の唐沢さん。ずっと聞いて
いたかった”と。菊ちゃんはスパイダーウォークを初めて
和装(巫女服)でやって、腰が痛いとのこと。
帯があるとやりにくいようだ。

用事のあるハッシー、なべさん、菊ちゃん、希依ちゃんは
帰るが、松本さん、Hくんと残って、焼酎のみながら、
三人(珍しいメンツであることもあり)かなり熱く今日の
ライブについて話す。麻衣夢、愛されているなあ。

6時に出て、山手線で新宿、そこからタクシー。
酒はそんなにいってないが、やはり昨日のつかれ一気に
アルコールのせいで出て、体が動かなくなり、10時くらいまで
ベッドで寝る。

起き出して、ニュース見たら秋葉原が凄いことに。
友人知人で、昨日の流れで秋葉原に行った人も多いことだろう。
トンデモ本大賞のお客さんの中には、このために地方から上京
してきてくれている方も多いが、翌日、アキバに寄ってから
帰宅する予定だった人もいるだろう。さすがに知り合いで、
自分の行動区域の中にアキバがある人たちはミクシィに
「無事です」
告知をしている人が多かった。被害者は少なくとも知るべには
いなかったようである。
とはいえ、被害にあわれた方々の不条理な死を思うと、
天を仰いで溜息をつきたくなる。

ネットでの反応ものすごく、これはやはり私の周囲にアキバが家、
といったような人種が多いことを意味するのだろうが、
しかし、一方で、ちょっとでも不謹慎な発言を書き込んでいる
ブログなどを見つけては、死者への冒涜だ、人間性を疑う、削除しろと
罵倒を繰り返している人たちの多いことにもちょっと危惧を感じる。
自分の意見(この場合、死者への敬意という“社会道徳”)
に合わない者がいることに異常な不快感を示し、ひたすらヒステリックな
罵倒と中傷により憎しみをぶつけるというその精神構造は、
この加藤智大なる犯人と、同型なのではないか。

不謹慎と言えば、ネットでこの犯人の情報を探していたら、
彼が向精神薬などドラッグをやっていなかったことにつき、
「珍しくまともなキ×ガイだったようだ」
と書いていた人があり、その表現に吹き出してしまった。

原稿書き出そうとするが書けず。
今日はさすがに仕方なし、と、坂本頼光さんからの
お礼メールに絶賛の返事書いて送り、
ホッピー一杯飲んで寝る。
2時。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa