裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

土曜日

急ぐとも、一度見直せミリタリー

軍備拡張を急がず、周辺各国の反応も見て。

※DVDデラックス原稿

朝9時45分まで寝る。
入浴、10時15分朝食。
リンゴ、巨峰、青豆スープ。

今日は久方ぶりに、外出、講演、出演等の予定なし。
手足がやはり伸びる気がする。
たまっていた日記、やっと平常の状態にまで復帰させられた。

オノから、同人誌のゲラがメールされる。
バーバラからも同じく同人誌のゲラメール。
ゲラで思い出したが、パイデザから送られたと学会誌のゲラ、
文章をチェックして問題ないのでその旨を伝えたが、
後でそのゲラ用紙をなにげなく見てたら、タイトルに脱字が
あった。文章ばかりに気をつけていて、見落としていた。
『オタク清談』の単行本のときもこれがあったが、
まるきり『盗まれた手紙』。
やはりポーは偉大だな、と改めて思う。

氏家幹人『江戸の性風俗』(講談社現代新書)読む。
著者の視点による偏りはあれど、一般人の読みづらい
江戸の文書をわかりやすく紹介してくれる氏家氏の本は大変
ありがたい存在である(最高傑作は『武士道とエロス』だろうか)。
原文書き下しを提示し、その後に現代語にくだいた訳文を置くのが
氏の著書のパターンだが、この本では別に江戸の文書でも、文語文
でもない、薄田泣菫の『茶話』の文章にまで訳文をつけている。
パターンなのでうっかりやってしまったか、もはや現代人には
大正時代の文章まで訳されないとわからなくなってしまったのか。

あと、“肌を許す”という言い回しを、“肉体関係を持つ”
ことでなく、“気を許す”という意味に用いることについて、
『思忠志集』という江戸前期の旗本の記録を読んで知って、
「軽い衝撃を覚えずにいられませんでした」
と著者は書いているが、私のような無学でも、落語でこの言い回しは
しょっちゅう耳にしている。
「七人の子は成すとも女に肌を許すな」
は、円生の『骨違い』で繰り返し語られる諺である。
氏家氏のような専門家も知らなかった言葉を笑いながら覚えられる
のだから落語は偉大だな、と改めて……。

昼は8番ラーメンの塩味。
今日はそのまま、ラーメンについてきたスープで食べたが、
やはり鯨や羊でダシをとったラーメンを食いつけていると、
もはや普通のラーメンスープでは物足りない。

原稿、DVDデラックス。
昭和45年4月発行のSM系雑誌『あぶめんと』を取り上げる。
これに載っている南村蘭という作家のSF(!)SM小説『ピララの敗北』
というのがちょっとトンデモ。
書き終えてメールしたところで、オノから、担当Kくんから
催促がありました、とメール。行き違いになったらしい。

少し昼寝、というか夕寝をして、それから新宿へ出る。
京王デパートでちょっと買い物。
帰って、ビデオで『三銃士』見る。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000LZ6FLW/karasawashyun-22
↑(ここのレビューはひどいので無視すること。『三銃士』は子供
向けの小説じゃないですぞ)
ジーン・ケリー主演の1948年版である。
不勉強で、10年も前にビデオを入手していながら、見ていなかった。
大学時代、リチャード・レスター版の『三銃士』(及び続編の
『四銃士』)を見てハマり、この作品を愛好するあまり、
「チャンバラをリアルに描いている分、痛快さがない。
そこへ行くとジーン・ケリー版のチャンバラシーンの楽しさは……」
などという評(和田誠とか)を読んでちょっと反発し、
見る気を阻害されていたのである。

で、本当に不勉強なことに、私はてっきり、ジーン・ケリーが
主演ということで、この作品をミュージカルか、でなくとも
ハリウッド的なバラエティー風史劇、と思い込んでいた。
今回見てビックリしたのは、原作にかなり忠実だということ。
ダルタニアンの恋人になるコンスタンス(ジューン・アリソン)が、
下宿屋の主人・ボナシューの年若の妻、という原作の設定を娘に
替えているくらいで(これはレスター版では原作に忠実で、
ボナシューにコメディアンのスパイク・ミリガン、コンスタンスに
ラクウェル・ウェルチを配したキャスティングも含め、中世以来の
艶笑話の雰囲気を復活させている)、後はバッキンガム公爵と
アン王妃(『ジェシカおばさんの事件簿』のアンジェラ・ランズ
ベリーなのには驚いた)の恋愛、バッキンガムのミラディーとの浮気、
ミラディーとアトスの過去、そしてミラディーによるコンスタンス
殺害とミラディーの処刑まで、きちんと描いた重厚な作品なのである。
レスターのオリジナルと思っていた多くのシーンがすでにこの作品
に原型としてあったことにも驚いた。

もちろん、その重さとハリウッド的演出法の齟齬もあって、
和田誠が褒めていたケリーのチャンバラ部分のみ、ミュージカル的
なアクロバットなのはどうにも違和感があり、冒頭の三銃士との
からみなどの軽快さと、中盤以降の史実(英仏戦争)部分の重さに
バランスがとれていないこと、さらに、時間の関係かポルトス、
アラミスのキャラクターが十分に描かれていないこと、などが
映画として気になった。

とはいえ、そのケリーのチャンバラや、池を飛び越える大胆な
跳躍、木の枝に駆けのぼって屋敷の二階に忍び込むまでを
ワンカットで撮るなど、後のジャッキー・チェンですらこれに
比べると鈍重に感じてしまうアクロバットの妙技には感服するし、
アトス役のバン・ヘフリン、銃士隊長のレジナルド・オーウェンなど
ベテランたちの好演もさすがはハリウッドである。
ことにリシュリュー枢機卿のビンセント・プライスは、
レスター版のチャールトン・ヘストンをある意味凌駕する貫録。
ラナ・ターナー(ジーン・ケリーを差し置いてキャスティングの
トップである)のミラディーとの演技合戦は見物。
この当時はまだベテランではないがダルタニアンの従者を演じている
のがキーナン・ウィンなのも面白い。
また、ルイ13世をフランク・モーガンが演じていたのも私のような
古い映画俳優ファンには嬉しいことである。
『オズの魔法使い』のオズことマーベル教授である。
そう言えば、上記のレビューのあるAmazonのサイトでは、
この『三銃士』のビデオの出演者のトップがフランク・モーガンに
なっている。なんでだろうか?

夕食、トリモツ荷、焼き豆腐、パックの寿司。
寿司はご飯を半分の量にして食べる。
ホッピー四ハイ。
11時に、もうくたびれたので寝る。
気がゆるむというのはこういうことだ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa