裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

12日

水曜日

矢吹まんまん

おやびーん、葉子さんの赤貝が……。

※『ピンポン!』出演 『探偵! ナイトスクープ』電話出演 
朝日新聞書評委員会兼忘年会

7時半起き。寝床で読書、
社会評論社『アーサー・シイク 義憤のユダヤ絵画』読む。
第二次世界大戦時に、ヒトラー、ムッソリーニ、そしてヒロヒト
を徹底的に揶揄した風刺画を描いて、良くも悪くも後の世界に
チンチクリンの日本人像の原イメージを植えつけた画家の評伝。
シイクそのものには非常に興味があるし、いわゆる純粋美術でない
似顔絵マンガが世界をイメージで動かしたというテーマも
面白いと思うのだが、著者(袖井林二郎)の筆致がシイクを
描くよりも日本(もちろん昭和天皇がその中心)やナチスドイツ、
またユダヤ人救済を本気で考えていなかったルーズベルトへの
糾弾に走りがちで、そこが余計なことと読んでいて思えてしまう。
タイトルでこの本を購入する読者の大半は、シイクの生涯について
知りたいので、戦時中のドイツや日本の残虐ぶりについて
知りたいのではない。

入浴8時15分。朝食9時5分。
リンゴ、オレンジ、ミルク味濃厚なポタージュ。
9時半に迎えのハイヤー。TBSまで送らる。
年末のせいか、街中に消防車、救急車の姿やたら見ゆ。
「多いですねえ、救急車とかが」
と言うと運転手、まだ年若なのに
「左様で、今朝はちょっとにぎやかなことで」
と、英国の執事みたいな受け答え。

TBS、いつもより早めの入りのせいか、控室ガランと。
弁当屋も後から来た。
とにかく今日は橋下弁護士のことで持ち切り。
興奮気味の宮崎さん、しゃべりまくって、
私は今日は静かにしてようと思う。
ひとつには、あまりこういう立候補の形、またタレント候補
をこの上大阪に擁立させようという政治のありかたが
気にくわないからだが、しかしテレビはこういう人の批判の
できるメディアではない。

宮崎さんのテンションいつもの一・五倍くらいで、
しゃべるしゃべる(自分でも今日は何だいったい、とつぶやいていた)。
私は出番なし。
久しぶりなので、今日はそこでたっぷりしゃべろうと
と思い、スタッフも力入れてフリップとか作ってくれた
ニュース解説のコーナーも時間が押して、当初の二分半の予定が
一分半になり、ほとんど概要しかしゃべれなかった。
あとでスタッフの女性が
「もう少し聞きたかったですねー」
と言っていたが後の祭り。
ま、こういうときもある。

ハイヤーで渋谷まで行ってもらい、チャーリーハウスで
昼定食。食べて帰ったら探偵ナイトスクープから電話、
2時半から収録だか出演だかお願いします、と。
『パチスロ必勝法』コラムの図版キャプション書いたり
して時間まで待つ。やがてかかってきた電話、ゆうべ打ち合せ
したような感じでしゃべるが、電話先の大阪のタレントが、
私が“(○○の所在地は)東京です”というのを
「はあ、沖縄ですか」
と、わけのわからんことを言う。最初聞き間違いしているのかと
思ったが、どうもギャグらしい。何度も繰り返す。
聞いていなかったが、前フリみたいな沖縄ネタがあったのかも
しれない。とはいえ、こっちの話をふりきって何度も繰り返す
のでちょっと腹が立って、
「東京です。沖縄に行っちゃったりしないように」
と少しキツく言う。あとからmixiで聞いたら、関係ない依頼でも
無理やりこじつけて沖縄に取材に行く、というのが持ちネタの
長原成樹というタレントがいるそうだ。いろんな人がいることである。

テレビの仕事というもの、ありがたいものだし、出ないと
ダメだとは思うが、いまだにアウェイ感覚ビシビシである。
今日、宮崎さんと楽屋で話してわかったが、彼はテレビの
コメンテーターという仕事が好きで好きで、情熱を燃やして
やっている。将来の夢も、テレビで自分のインタビューコーナーを
持つことだそうだ。
別人種、と言っていいかもしれない。

夕方6時からの最後の書評委員会に備え、残務ごちゃごちゃ。
アスペクトの情報術本の構成案、同人誌のゲラチェック、
使用写真図版選定、それから朝日新聞書評欄の年末版用の
“今年の三冊”。

書き上げてタクシーで新宿都庁前。地下鉄大江戸線で
汐留駅まで。今日は忘年会も兼ねるので、汐留のシティセンター
42階の和食処『えん』にて書評委員会である。
夜景が素晴らしい高層ビルであるが、私の世代、つまり
パニック映画全盛時代に映画を観まくっていた世代は、
どうしても高層ビルの上にあがると、事故のシーンを
頭に思い浮かべてしまう。ホテルのロビーで、吹き抜けから
下がっている巨大シャンデリアなどを見ると、
「なるほど、これが落ちてきて人間達を押しつぶし、切り裂きつつ
砕けるシーンなどはインパクト抜群の見せ所だな」
とか思ってしまう。要はオチツカナイのである。

暗い照明に照らされたテーブルの上に本日の候補本が背表紙上に
並んでいて、それを委員たちが顔を寄せ合ってためすすがめつ。
「闇市の古本屋みたいですね」
と、どなたかが。

編集局長のK氏が挨拶して乾杯の音頭。声がドスのきいた美声。
「長年、警察まわりなど現場ばかりはい回っていた」
と言うので、そこで鍛えたか、と思う。
橋爪先生や赤澤先生など同じ席の人と談笑。
編集長も同じ席だった。途中で席を変わり、巽孝之氏などとも話す。
料理はまずまず。最後の、ご飯の菜で出た“鯛のりゅうきゅう”が
一番うまかった。りゅうきゅうとは大分の料理で、醤油と酒に
魚肉を漬け込んだもの。

終わって近くのホテルまでぞろぞろ歩く。
ここらへん、高速道路から見たりさっきの高層ビルの上から見たり
すると未来都市、という感じだが、地上を伝って行くと歩道橋を
えんやこらと上がったり下りたり、単に不便な街である。
ホテルの控室みたいなところをとって、ほぼ貸切り状態で、
水割りとつまみ。担当のK藤くんなどと雑談。
ちょっとしゃべりすぎである。と学会とか、落語家たちとか、
あるいはテレビ人種たちと話すと私以上のおしゃべりが周囲に
ずらりといるので目立たないのだが、こういう一般人、常識人さん
たちの間に入ると、自分がちょっと異様なくらいしゃべる人間
なのだな、ということがよっくわかる。
12時、お開き。ハイヤーに乗ろうと外へ出ると、なんと雨。
テンション変だったのはこのせいか。
帰宅して、焼酎でちょっと酔いを仕上げしつつ、連絡作業。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa