裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

31日

木曜日

マクロ営業

こうやって男と寝るのも、そこにマクロな経済設計が……。

※ミリオン出版原作 講演資料作り 『アニメ夜話』打ち合せ

朝8時45分起床。朝食、パンプキンスープ、パイン、リンゴ。ダイエットのため、明日から朝のスープはなし。昼も納豆だけとかにしてみる。夜の酒もやめられればいいのだがそれまでやめると日記に書くことがなくなっちゃう。

松永和紀『メディア・バイアス』(光文社新書)再読して読了。
読んでへえ、と思ったのはあのレイチェル・カーソンがDDTを悪役にしたことでマラリアによる大量の死者を出した張本人であること、日本の味噌がおいしいのは戦後のアメリカの指導によるものだったこと、中華料理店症候群が根拠のない説としてWHOで否定されていること、虫が食った野菜や果物には、その野菜や果物が自分で防御のために分泌した天然農薬が含まれていて、それには発ガン性があること……などなどなど。現代日本人の自然指向(嗜好)の行き過ぎに警告を鳴らしている部分は『美味しんぼ』などを考えると痛快。有機農業野菜と普通の農産物の味くらべをやったら有機野菜が負けた、というのも笑える。

だがやはり、著者に科学の徒特有の“正しい知識を知らしめる”ことが大衆の啓蒙につながる、という意識があって、その限界も如実に感じてしまう。
「もうマスメディアや有名人などの主張を盲信するのはやめましょう」
と著者はいい、懐疑的精神を持て、自分なりに分析して自分で判断せよ、と言うが、そもそも、マスメディアや有名人というのはその主張を盲信させる能力があるからこそマスになれたり有名になったりしているわけで、簡単にその影響下を脱せたら苦労はないのである。

懐疑精神というのはこれは音感とか運動神経みたいなもので、ハナからそれを持つ人にとっては、持たない人間がどうしてこんな簡単なことが出来ないのか理解できず、つい
「ダメだなあ」
と口にしてしまう。そして、ダメと認定された人たちは
「ええ、いいですよ、どうせ私はダメですよ、ダメでかまいませんよ」
と開き直って去っていく。音楽の世界であれ、スポーツの世界であれ、天才の下にいい弟子が育ちにくいと言われるのはこれによる。デバンキングの世界またしかり。

こんないい本に批判的になってしまったのは、平行してパオロ・マッツァリーノ『つっこみ力』(ちくま新書)を読んでいたからかもしれない。
「論理力って秀才の自己満足に終ってることが多くて、現実には意外と使えないものなんですね。その証拠に、批判力や論理力やメディア・リテラシーが、(唐沢注・その批判の対象に)勝ったためしがないんです」(本書54ページ)
全く同意。もちろん、だからあきらめろ、ではなく、そこを前提に置いた上で、ただ間違いを指摘するのではなく「人間はニセ科学による事物の単純化を好む存在である」という部分から考えて対処しないと、永久にイタチごっこ、それも向うの方が何周も先を行くイタチごっこが続くよ、ということなのだけれども。

家で原稿、ミリオン原作一本。こういった犯罪・猟奇事件の資料を
調べていてつくづく思うが、人間というのは不思議な存在だ。論理で言うと、なんでそこでこんなことするの、という感じなのだが。
昼はパックのご飯に、生卵、ネギ、海苔、カツブシをぶっかけた唐沢家伝来“横綱めし”。大根の味噌汁と。

3時半、家を出て事務所。車中携帯あり、『プロント・プロント』編プロアルタイルさんから、マガジンハウスのフリーペーパーのコラム依頼。

事務所、今日はオノも休みなので無人。土曜日の生駒市での講演の資料まとめ。図版を探して、マドに送りパソコンでの画像を作ってもらう。

6時半、『アニメ夜話』スタッフから電話。6時から打ち合せだったのを失念していた。明日の予定表にNHK打ち合せとあったので、明日だと思い込んでいたら、これはNHKFMだった。あわてて東武へ(最近の時間割は閉店がやたら早い)。今回はピンチヒッター。いろいろ諸事情を聞く。取り上げる作品について意見を述べ、時代的な背景を考慮した作品論を述べる。帰り際に、ちょっと別件の話も。大いに売り込んでおく。

今日は完全に一人なので、飯をどうするか迷った末、
「迷った時は肉」
と決めて、東新宿『幸永』に。さいわい、座敷席が空いていた。極ホルモンと桜ロースにキムチ、ホッピー。キムチが、口に入れるたびに“しゅわわわ”と音がする発酵加減で、美味。ホルモンも桜ロースも、しみじみ美味い。

せっせと“一人肉”していたら、隣の席で、韓国語で会話していたカップルが、
「テレビで雑学とか話している人ですよね?」
と話しかけてきて、ちょっと会話はずむ。写真とサインをせがまれた。韓国から共栄大学に留学している学生らしい。
「テレビに出ている人と話せるなんて、光栄です!」
と喜ばれる。こういうミーハー感覚は韓国も日本も変わらぬらしい。黒ホッピー二杯、冷麺一杯啜って、かなりの雨の中、タクシーで帰宅。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa