裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

7日

月曜日

日の名残り佐平次

「タイトルは早口で読むこと」(カズオ・イシグロ談)

※幻冬舎ゲラ受け渡し ラジオライフ原稿

朝8時半起床。近ごろホントに寝るのが楽しく気持ちよくどうにもたまらない。寝るというのも体力がいることなので、体が健康ということなのだろう。頭痛はまだあるけど。

入浴、9時朝食。新聞休刊日は手持ちぶさた。ニュースはネットでいいと思うが、朝食時の新聞は、もう40年以上習慣にしていることなのでないとどうにも落ち着かない。朝食はオレンジとイチゴ、それに、母が昨日小田急ハルクで買ったという高級塩辛でご飯一口。甘口だが上品な味。

北村和夫氏、阿知波信介氏死去の報。北村氏は80歳なので是非もないが、阿知波氏はまだ65歳、自殺だとやら。年齢と体調不良による鬱状態だったのではないかと思う。阿知波氏の東宝での出演作を見ると戦記ものが目立つ。そう言えばウルトラセブンでのソガ隊員も、メンバー中最も軍人タイプのキャラクターだった。『太平洋奇跡の作戦・キスカ』では上水(上等水兵)でイデ隊員こと二瓶正也とコンビを組んでおり(この作品ではハヤタ隊員の黒部進も一等水兵役で出演、負傷した自分がみんなの足手まといにならぬよう自殺する役だった)、
「ああ、みんなウルトラの仲間ってのは“一家”なんだな」
と思ったものだ。一家の中では頼りになるが反抗心も強いお兄ちゃん、といったイメージであり、そんな頼りになる人が(実際、三船プロからの俳優たちの独立時には本当に頼りになる存在だったようだ)死んじゃいけないだろう、というやるせない気分。

一方の北村氏はテレビ、映画と、この人の顔を一週間と見ないことはなかったのでは、というくらいおなじみだった。最後に観たのは、樋口真嗣版の『日本沈没』の法務大臣で、ラスト、首相でなく、大地真央の危機管理大臣に、国民へのメッセージを語るよう奨める、大変にいい役。たぶん、塩ジイがモデル。ほぼ最後の映画出演が、いい役であったことはなぐさめとしたい。この映画への出演は、原作がベストセラーになった1973年にラジオドラマ化された際、総理大臣の役を演じたことが縁のようだ(そのとき田所博士を演じた加藤武も山城博士役で出演している)。声の出演も印象的なものが多く、刑事コロンボ『権力の墓穴』ではコロンボの上司という犯人(リチャード・カイリー)を吹替えて好演、さらに映画『アラビアのロレンス』ではアンソニー・クインの族長を演じてハマリ役中のハマリ役、ロレンスの岸田森の神演と相俟って、日本吹替え文化の頂点をなしていた。

この二人が、顔こそ合せていないが共演していた映画が『日本のいちばん長い日』。北村氏は佐藤内閣官房総務課長役。いわゆる中間管理職であり、どたばたする上と、どうなっているのか知りたがる下との間にはさまれて、右往左往する姿が印象的。内閣審議の遅れを下からつつかれ、イライラして詔書を清書する係官(上田忠好)に
「陛下の御名御璽をいただいた上で、各大臣が副署する正式なものだからね。間違いないようにね。……急いでね!」
と、相反することを命令する台詞に、敗戦当日の日本の上と下の混乱が表わされていた。

一方、阿知波氏はノンクレジットながら横浜工業高校の生徒たちで組織された“必勝学生連盟”の団長。降伏審議が行われていると知り、高校の先輩である横浜警備隊長佐々木大尉(天本英世)がテンパって、君側の奸・鈴木総理(笠智衆)を討つ計画をたて、それに引き込まれる純真な若者たち。土木作業の泥にまみれ、半裸での作業中にもかかわらず、そのズボンのポケットには、倉田百三の『出家とその弟子』の岩波文庫版が差し込まれていた。“組織(社会)への愛と個人の愛は両立するか”がテーマのこの作品を読みながら、彼は何を考え、何を思いつつ、戦争を受け止めていたのだろうか。初めてこの映画を観たときは阿知波氏の年齢に近く、つい最近、DVDで再見したときは北村氏の年齢に近くなっていた。鈴木貫太郎総理を演じた笠智衆の年齢に近くなるまで、観直し続けるべき映画ではある。

原稿、遅れていたラジオライフのものを書き出す。昼は鶏の照焼き弁当。途中で幻冬舎トテカワから電話、二稿ゲラを今日お渡ししたいとのこと。二稿チェックが出来るとは思いもかけなんだ。自分宛に書きかけ原稿はメールしておいて、事務所へ。

オノは体調不良続いているそうで休み。トテカワ来て、二稿刷り出し受け取る。タイトルがこちらの希望通りになっていた!ちょっとホッとして、機嫌よくなる。明日戻しというのはちょっとせわしないが。

バーバラと打ち合せ。文サバ塾生だったKさんからも出版に関して打ち合せ。どちらも出版社にすぐメールしてつなげておく。朝日新聞Kさんから、送った原稿のゲラ返ってくる。相変らず早い。

例の件で連絡、某社から待つもナシ。電話こちらからかけて、連絡くれるよう伝えておく。何やら、シジフォスの神話というか賽の河原というか、人は違えど同じことをエンエン繰り返している気になってきた。

そんなこんなでラジオライフ原稿完成遅れに遅れ、7時半にやっと完成。送って、フウと息をつく。11枚半という、ちょっと長めの原稿だが、調子がよければ二時間かそこらで書ける分量。連休ボケが出たな。明日から引き締めねば。

帰宅、今朝食べた塩辛でお茶漬けが食べたくなったので母に室に押しかけて茶漬け一杯所望。豚汁までついてきた。自室に戻り、昨日のレバの残り(味が染みて今日の方が美味である)とゴボウサラダなどで酒。K子が、ぴんでんさんの上京歓迎会をやるとのこと。

ニュース番組見る。フランス大統領選、右派サルコジ氏当選。“相撲は知的スポーツではない”という発言で有名であるが、何を言うか、知的でなければ八百長など(以下略)。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa