裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

20日

日曜日

堪え難きを堪え、シド・ビシャスをしのび

朕深く音楽界の大勢とロックの現状に鑑み。

朝4時半起床、入浴して目を覚ます。カットスイカと飲むヨーグルトで朝食、それから原稿書き。『DVDデラックス』コラム、5枚。ここで5時50分。モノカキというのも大変な商売だなあ。

6時半、服装を整えて家を出、タクシーつかまえて東京駅。さすが日曜の朝はすいていて、30分で到着。7時半のひかり岡山行きに悠々と乗り込める。オノもすぐ到着。
今日の講演準備を車内で、と思っていたがグリーン車の座席に深々ともたれていたら眠くなり、一時間ほど爆睡。自分のイビキで目が覚めた。オバケのQ太郎である(年代的にわからん人の方が多いか)。

米原駅で急行しらさぎに乗り換え。25分ほどで敦賀市。駅で今回の講演のプロデュースをしてくれたパケット北陸のSさんと落ち合う。タクシーで講演先の若狭湾エネルギー研究センターへ。ここで夏休みの子供・家族向け科学イベントでの講演である。

講演前に施設を案内してくれる。小柄なおじさんが説明してくれて、走っていって設備の鍵をあけたりしてくれる。ああ、こういう施設の案内係さんは大変だがさすがに手慣れているなあ、と思ってあとで名刺をみたら研究開発部長さん(工学博士)だった。失礼しました。

白衣に着替え、靴にビニールカバーをかぶせて分厚い鉄扉をあけて研究施設内部に。大きなタンデム加速器があり、イオン源注入機のあたりのデザインは50年代SF映画を彷彿とさせる。さらに次の部屋にはシンクロトロン加速器があり、ここで作り出した高エネルギー放射線で農産物の改良、また放射線治療を行っている。

あくまでも治療施設ではなく、実験施設のものを治療などに使用している、ということで、陽子線照射装置も、なにか“ただ据え付けているだけ”という感じが漂い、周囲にはゴチャゴチャといろんなものが置かれている。ガン細胞に絞って陽子線を当てるために、十数センチはありそうな真鍮の板(と、いうかかたまり)にガンの形に穴をあけて、それを照射装置にセットして照射する。ガンが小さくなっていくに従い、この板も作り変えるそうだが、悩みは一応放射線を当てているためにこの真鍮板は放射線廃棄物扱いになり、処分するには大変な金がかかり、たまる一方だということ(実際、穴の開いた分厚い真鍮板が部屋のすみに堆く積み上げられていた)。

見学終えて控室に帰る。長い廊下の両脇のガラス壁に、化学式や原子番号がデザインされている。なかなかおしゃれなのだが、この化学式が間違っている、と文句を言ってくるマニアもいるそうだ。

控室で弁当。この施設の所長である新宮先生と一緒に。新宮先生は京大の名誉教授で、京都からこの研究所に通っているそうだ。片道一時間半くらいだそうである。

2時、講演。雑学クイズから始まって人類とエネルギーの関係を雑学で語り、ゴジラの話に持っていき(ちょっとNHKの番組も宣伝)、最後は原発の話にして〆る。ちょうど90分、時間通り。Sさんが感心していたそうだ。所長の新宮先生、
「私どものようにいつも固い話ばかりしておりますと先生のようなお話は新鮮です」
と。さて、どこまで本音か。

終って、楽屋、ではない控室で色紙20枚にサイン。ファンの人が『奇人怪人偏愛記』を持ってサイン求めに来てくれた。コミケにも来たが2時過ぎだったので撤収してしまった後だったとか。雑学の中にあったソースカツ丼も食べられぬままタクシーで敦賀駅前へ。台風一過のフェーン現象で気温36度。駅前に立つとクラクラするほど。おみやげ屋(タクシー運転手さんの推薦)でへしこ鯖、かまぼこ等を買う。列車の時間を待つ間、駅の待合室で高校野球観戦。駒大苫小牧の大魔神みたいな田中、端正な若侍を思わせる早実の斎藤、見事にキャラが分かれてしかもどちらも一歩も引かぬ投手戦、こりゃプロ野球なんぞには視聴率はとれぬ、という感じ。途中で列車の時間が来てテレビの前を離れなければならなかったが最後まで見ていたらへとへとになったかも。

行きのルートをそのまま逆にたどって帰京。
講演は重要な収入源なので大事にしなければいけないが、この移動がなあ、という感じ。新幹線の中で缶ビール。敦賀駅で買った焼き鯖寿司握りがおいしかった。携帯でオノが得た情報によると試合は引き分けで、明日再試合とのこと。明日、と聞いてびっくり。中一日くらい
あけてやらないか、普通は。選手の体を何だと思っているのか。

東京着が6時半。中央線で新宿まで行き、そこからタクシーで下北沢へ。『虎の子』でへしこ鯖をお土産にして、ビール。マドがここの馬刺を食べたいと言っていたというので呼ぶ。なんと吉祥寺から30分かからずに到着。馬刺フェロモン。タコとエシャロット、塩豚、水ナス刺身、いずれも結構。カジキのガーリックソテーを食べてオノは
「おいしいよう」
と泣く。涙ほど尊きはなし、と言いたいが人間、カジキのガーリックソテーでも泣く。

酒は磯自慢、それから黒龍、さらにブランデー梅酒。酒々々で今日も少しいい値段になったが、まあ、遠出した日はこれくらいいいだろう。12時、帰宅して半身浴30分ほど。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa