裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

27日

土曜日

沼田曜一と談笑の『らくだ』、の記

朝7時半起床。全身タルい。昨日でエネルギー使い果たしたという感じ。日記つけたり『ひよこのパジャマ』の公演チケット販売の件でと学会MLに告知流したり。TKYさんに今日の談笑の件でメールしたり。

12時出勤、東中野まで行き、大盛軒で焼肉麺。食べて総武線に乗ったら、数人のおばさんが
「待って待って〜」
と発車間際にかけこんできた。一緒に、インド更紗のシャツに登山帽、白鬚のお爺さんも駆け込んできたが、その面貌、おだやかなれどちょっと妖気あり。席に座っていた若者がその一団を見て、
「どうぞ」
と立ったが、おばさん連が遠慮しあっている中でその老人が
「あ〜、ひょっとしてて僕かぁ〜?」
と言った声がまたいいこと。あっ、と気がついたが沼田曜一氏だった。

東中野で彼はずっと前から、民話の語り部教室をやっているのだった。いい具合の怪老人になったなあ、としばらく眺めていた。天本英世亡き後の怪老人役はこの人しかおるまい。次の私の映画に出てもらいたいなあ。

仕事場着、FRIDAY四コマネタをK子と担当のK村くんに送る。2時くらいからジオサイト入りをして展示物の解説をつとめることになっているが、昨日のことがあってどうも荷である。気圧も不安定で体調万全でない。土中の気にアテられたか。原稿だしたあと、ちょっと休もうと横になったらそのままグーと寝てしまう。ふと目がさめたら、もう3時半過ぎ。疲れと夏バテが一気に来たか。

『アッコにおまかせ!』から「今週日曜日のアッコにおまかせ!のパネルコーナーにて、選挙に関する雑学をご紹介できればと思っております。そこで、唐沢先生にご協力頂ければと考えた次第であります。大変お忙しいとは思いますが、ご協力宜しくお願いします」とメールがあった来たのが金曜で、あわただしいのに驚くが、まあテレビってのはこういうもの。ただ、どう協力すりゃいいのか、出演なのか取材なのかも何にも書いてない。ネタ出しだけなら願い下げだし、電話取材というのもイヤである。

出てしゃべれるというなら認知宣伝になるからいいが、それにしたって扱い悪そうだな、とスケマネに連絡とらせたら、
「昨日の会議で方向性が変わってしまったので取材は必要なくなりました、すいません」
だったそうで。まあ、結局あっても取材だけだったとわかったからいいが、これが駆け出しのライターとかで、“やった、テレビ出られるぞー!”と喜んでいたりしたらがっかりだったろう。しかし、一日で頼んでいた人までチャラとは、方向性定まらなさすぎである、テレビというのは。

家を出て、銀座線で上野広小路、広小路亭立川談笑独演会。六花マネとY・Tさん待ち合わせて。この数回のうちでも驚くほどの込み具合。そろそろブレイクか。例によってクイーンの『We will rock you』を出囃子にして談笑登場。独演会では珍しく新作二本。『復讐おんな』と『原発息子』。

『復讐おんな』の方は一人芝居の台本として書いたというがこれは聞いている方でイメージがいくらも膨れる落語の方に向いているだろう。
『原発息子』の、
「原発ではなぜ首吊り自殺が多いか知っているか」
「さあ……?」
「それはな……中央線が通ってないからだ」
というギャグに六花マネが吹き出していた。

客席にはIPPANさん、QPさん、傍見さん、ぎじんさん、夏さん、それに山口A二郎さんなど常連の顔。十分の休息のあと、大物古典をやるという予告通り始まったのが『らくだ』。これがストーリィはきちんとなぞりつつ、人物造型を談笑独自のものにした新解釈版『らくだ』で、力演というか熱演というか、これだけやるならもう少し前の二席を軽めのものにした方がよかなかったかと思えるくらいにインパクトのあるもの。あえてこの話の前半の引き回し役であるらくだの兄貴分、手斧目(丁の目)の半次の名前も出さず、ひたすらこき使われ、大家にも見下され、暴力まで振るわれる屑屋の視線で押し通す。そして酒の下りになり、兄貴分との立場の逆転までを描き、おや、さらにこれから落合の火屋のとこまでやるのかな、と思わせて、アッ、という落ちで〆たのはさすが。都筑道夫が生きていたら喜ぶような落ちだったのではなかろうか。

もう少し伏線を緊密に張って、談笑落語独自のバリ部分を削り、全てを最後の屑屋の台詞に収斂させるようにすればこれは一編の上質な小説になる。Y・Tさんは落語を聞くのも初めてということだったが、さて反応はどうか。面白さ半分、とまどい半分と言ったところだったような。

談笑の顔はCXのレポーターで知っていて驚いていた。そのレポーター、これまでは小田桐レポーターだったのが今度めでたく立川談笑レポーターになる由。この落語冬の時代に、寄席以外の仕事で芸名を名のれるのはよほどのことと言えるだろう。めでたし。今度の本のプロデュースが談笑の次のステップへの足掛かりになることを祈る。

打ち上げは前回と同じ加賀屋。次の用事が入っているTKYさんに乾杯だけさせて返し、今日の感想や雑談など。快楽亭の話、業界人関係の危ない話など。アサ芸の編集をやっているというWさんと名詞交換。あそこ、私のコラムがある程度成功したのでどんどん新コラム増やして、いまやコラム雑誌の様相を呈している。

「××××のコラムおもしろくないねえ」
「あれは編集部が、本来××さんがどういう文章書く人か誰も知らなかったんですよ。私に話してくれれば止めたのに」
などと。

六花マネに全国焼酎めぐりなどのコラムを書かせなさい、と進言しておく。六花マネはQPさん、傍見さんなどの名刺を貰って、
「わ、こんな凄い肩書きの名刺が名刺入れに揃ったのは生まれて初めて!」
と驚いていた。外見からはまったく想像つかないがおかたいお役所の人なのである。
焼酎を水割り、ホッピー割りで飲んで、11時にはもうかなり回っていた。

別にべロという感じではなかったが、それは周囲もかなり飲んでワケわかんなくなっていたせいかも知れない。タクシーで帰るから、と皆と別れようとしたら、
六花マネが
「とりあえず、乗るところまでは……」
とついてきたのは、あぶなっかしく見えたのかも知れない。

12時過ぎ家になんとか辿り着き、ひっくり返る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa